あれから出血はない。

3日後にはエコーでお腹の子の様子を確かめに行く。

早く3日過ぎないかな、と思う。

 

ただ、それとは別に新たな心配事が浮上していた。

妊娠をいつ人に言うのか問題だ。

 

母には出血した日、電話で妊娠について伝えていた。

出血したことが不安すぎて話してしまった。3ヶ月ルールが一般的であることは分かっている。とはいえ自分の親だしいっかって感じだ。

妹にはいつ言うか悩むところだ。二人目とはいえ不妊治療中なので、少し心配なのだ。母は“言っても大丈夫”と言っていたけれど。

 

夫の両親にいつ言うかについては夫と話し合い、妊娠3ヶ月に達したら話すことにした。

 

職場へは、休みを取る関係で、上司や同じ係の同僚には伝えた。

あとはまあ、復帰後機会があれば言う、といったところだろう。

噂が伝わりやすい職場でもある。放置していれば勝手に知られることも予想された。まあ別にいいかと思う。

 

残る問題は友人たちにいつ言うか、である。

すでにミクちゃんには出血した流れで言ってしまった。

他の友人に対してはどうするか。

 

そこで参考になる考え方が、先程からちょいちょい出している3ヶ月ルールである。

 

3ヶ月ルールとは、周りの人に妊娠を知らせるのは安定期に入ってからにする、というルールである。

 

妊娠をすればある程度の人が実感す流のではないかと思うが、妊娠初期というのは不安定な時期だ。15%という流産率を高いと見るか、大したことないと感じるかは、人それぞれだと思う。年齢によっても変わる、年齢が高いほど流産率は上がる。

 

そのため、流産の確率が低くなる安定期(胎盤が完成する時期)に入ってから、周りの人に妊娠報告をするのだ。

 

まだ、お腹もさほど大きくなく、言われなければ妊娠と周りも気づかない時期、それでいて安定している時期。

 

もし、人に知らせたあと、流産してしまった場合、周りに気を使わせてしまうから、というのが、この3ヶ月ルールが一般に支持されている主な理由である。周りに不幸を知られずにすむというメリットもある。

 

基本的にこのルールに則って友人には話すことにした。

すでに妊娠・出産を経験している友人には、相談のために早く話すかもしれないが、流産のことを考えるとやはり3ヵ月が妥当ラインだ。

 

そう、3ヶ月だ。あと1ヶ月半は猶予がある。

だから今悩む必要はない、そう思いながらも、頭にこびりついて離れない問題が私にはあった。

 

会社つながりの友人である、アンちゃん、ユメちゃん、リンちゃんへの妊娠報告問題である。

 

 

(前回までの流れ)

言わなければよかった一言   

 

 

私の余計な一言が引き金となり、すでにユメちゃんには妊娠を報告済みである。

病院に行ってもいないのに、よく話したものである。

なんなら「なかったー」と嘘をついておいて、その後「あのときにはまだ病院に行って確認もしてなくて、勘違いかもしれないし、言えなかったの」とでも言って、報告までの時間を稼げばよかったものを、私が嘘を思いつけない脳足りんであるがために、素直に言った挙句、相手に気を遣わせるという、なんともしょうもないことになったアレである。

 

このときユメちゃんは「私からは誰にも言わない」と約束してくれた。

 

彼女からアンちゃん、リンちゃんに私の妊娠について話が伝わることはないだろう。

加えて、同じ会社とはいえ、私のいる職場からアンちゃん、リンちゃんの職場は遠い。噂が広がりやすいとはいえ、そうそう伝わることもあるまい。「どうして教えてくれなかったの?」と言われたときは、流産確率について説明すればいいだけだ。それで納得しないようであれば……

 

どうなんだろう。

人によっては教えなかったことについて怒るらしい……でもまあ、あれだ。ユメちゃんと違い、アンちゃん、リンちゃんとはなかなか会うことがない。会ったときに話そうと思っていた、という言い訳もある。私の妊娠なんぞわざわざ報告するようなことでもない、そういう扱いにしてしまえば。

 

それでもさらに問題は残る。

1ヶ月半後、言うとしてどうやって言うかだ。

 

コロナ以前はワンシーズンに一回くらいは女子会をしていた。

タイミングとしては、そのときサラッと言ってしまうのが、もっともスマートだ。ちょっとした話題として出す程度、そのまま話が別の話に流れるような状況。理想的だ。それで何か言われたとしたら、最早「話さない方がよかった?」と聞くレベルである。どうにもならない。

 

が、しかし、である。今はコロナ禍なのだ。

すでに半年以上定例女子会は停止していた。

 

私から声をかければ、開催になる可能性はあるが、私からは言い出したくない。私から言い出せば、もろに妊娠を発表するために集めたみたいだ。

かと言って、他のメンツから声がかかることは、この状況では期待できない。

リンちゃんは大人しい性格でそもそも平時から言い出すタイプではないし、ユメちゃんも同じくだ。

結果、アンちゃんか私が言い出しっぺになることが多い。

そして、アンちゃんは今育休中。言い出しはしないだろう。

 

そうなると、それぞれに直接報告するよりやりようがなかった。

ランチに誘うとか、LINEで送るとかだ。

 

それらはハードルが高かった。

後からなんて言われるかわかったもんじゃない。

特にリンちゃんへの報告のハードルが高かった。

 

アンちゃんはリンちゃんを庇うために怒っていることが多かった。

庇うといっても、本人はそういうつもりなのではないか、という感じだ。

なんというか、アンちゃんの私への非難は、本人は正義感だか常識家のつもりで言ってるのではないか、という感じなのだ。

 

あとは、私を下に見ている、ということもセットだ。

彼女にとって“下“である私が他のメンバーより何かを“早く”成し遂げること、あるいは、追いつくことすら気に触るという意識。

 

ユメちゃんもリンちゃんも妊娠を希望してはいるものの、まだ妊娠はしていない。本人たちは、できないならできないで、夫婦二人で生きていくのも悪くない、と考えている。

それに妊活を始めてそんなに長くない。

私が妊娠を告げても、受け止められるくらいには、余裕があると思う。それなりに思うところがあったとしても、自分で消化できる、と思う。それにまだ、自分の可能性を信じていると思う。

絶望していないうちは、まだ、人の幸運を祝えるし、大半の人が祝える自分でありたいと願っているものだ。心に思うところがあったとしても、表面上はおめでとうと言うだろう。

 

けれど、アンちゃんがどう出るかはわからない。

二人が“ちょっとキツかった”と愚痴れば、いや、愚痴らなかったとしてもそのときの状況を話しただけで、彼女の勝手な判断で、私を攻撃してくるかもしれない、と思う。私が妊娠したことを責めるのではないかと思う。

気遣いを要求してくるのではないかと思う。

私がどれだけ前もって悩もうと、完璧に、彼女が気にいる方法でなければ、許容されないのではないかと思ってしまう。

 

私がここまでアンちゃんのことを警戒してしまうのは、私が夫と婚約したときに起きたことが原因だった。

 

 

→続く