朝9時半に病院へ向かった。
平日の朝だった。
もしかしたら空いているかも!という期待は裏切られた。
初診のとき(休日)と待っている人の数は変わらなかった。
予約をするときに出血量したことやその量を書いていたけれど、受付ではその話が伝わっていなかった。
仕方がないので一から説明した。
前回と同じく番号が書かれた紙をもらう。
今回は血圧、体重と尿検査はなかった。そのまま待合室で待つように言われた。
一時間コースを覚悟していたけれど、予想はまたも裏切られ、30分と待たずに呼ばれることになった。
異常があったせいだろうか、少し対応が違うみたいだ。
前回と同じ番号の診察室に呼ばれた。
部屋のなかには青い服を着ている先生が座って待っていた。
サラサラの髪を短く整えている。細い肩と首、華奢な出立ち。見た目からは性別がわからなかった。
「出血があったんですね。量は生理初日くらいと言うことですが」
受付から渡されたメモと思しき紙を見ながら先生が言った。
声音は穏やかなアルトだ。ますます性別不明である。
まあ、先生の性別なんてどうでもいいっちゃどうでもいいのだが、こんなにも中性的な人がいるんだな、と少し驚いた。
これから経膣エコーを取るたびに、回転椅子に座らされ、強制M字開脚不可避なわけで、なるべく羞恥心は捨て去る覚悟だった。世の中仕方がないことはあるものである。
「はい。そんなにたくさん出血したってわけじゃないんですけど。パンツが血で真っ赤になるくらいでした」
「痛みはなかったんですね」
「はい」
「わかりました。確認してみましょう。隣の部屋に移動してください」
ほい来た、とばかりに私は立ち上がった。
出血があった場合、心配するべきは流産だ。
まず子宮内に胎嚢があるかどうかが重要である。
前回と同じくカーテンで仕切られた部屋の中、回転椅子に座った。
プローブが差し込まれるのと同時に、天井近くにあるスクリーンにエコー画像が表示される。
「胎嚢はありますね。大丈夫です」
「そうですか」
私は大きく息を吐いた。
一安心だ。けれど。
「胎芽が見えますね」
胎芽とは8週未満の胎児の呼び名だ(10週まで胎芽と呼ぶ場合もあるらしい、学者の考え方によって異なる)。
先生がマウスのようなポインターを操作して胎嚢の中の一部に線を引いた。
下の写真はそのとき撮ったエコー画像である。
胎嚢は胎児自体ではなく、子宮の中で子どもが入っている袋状のものである。
妊娠初期の頃は胎嚢の中に白い線で描かれた円が見えることがある。黄卵嚢と呼ばれる。へその緒がつながる前、胎芽はそこから栄養を得ている。
そしてその周りに張り付くように胎芽が見られる。
このエコー写真を見ても、どこに黄卵嚢があってどれが胎芽なのか私には見分けがつかない。胎嚢だけは黒くポッカリと穴が空いているからわかるのだけれど。
白い影がチラチラ浮かんでいるだけでよくわからないが、先生が線を引いたところに胎芽がいるのだろう。
写真の下に書かれたCRLとは頭臀長(とうでんちょうと読む。頭殿長と書く方が正しい?)と呼ばれるものだ。
読んで字が如く、胎児あるいは胎芽の頭からお尻までの長さである。長さから胎児の成長を度合いを知ることができる。
7週から11週の間に計測し、出産予定日を決めるときの指針にすることもある。
最終生理日から計算すれば、私の子どもは7週相当のはずだ。
けれど小さすぎるらしく、出産予定日が算出されることはなかった。
妊娠週数が書かれるはずだった欄にもアスタリスクが並んでいる。
成長不良なのだろうか。
胎嚢の形は前回と比べひしゃげていた。
それに心なしか最初に見たときと胎嚢がある位置も違うような気がする。
ただし、そもそも見方がよくわかっていないので、気がする、の域を出なかった。
「隣の部屋へどうぞ」
カーテンの向こうから促されて、私は元の診察室へと戻った。