ルサンチマン ブログ -10ページ目

ルサンチマン ブログ

わかんないことだらけ

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)/伊藤 計劃

¥1,680
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 ルダス・ハクスリーの『すばらしき新世界』関連で検索かけてたら発見しました。様々な思いやりや体内のナノマシン等の健康管理システムによって、社会の構成員の健康を第一にしている社会を描いた作品です。この世界では、病気がこの世から消えており、また、拡張現実などによる個人情報の提示でプライベートな領域が小さくなっています。
 
 SFですが、現代と照らし合わせられるところがかなりありました。※含ネタバレ

 法などなくても、それぞれが道徳を内面化することによって思いやりに則った行動を各自がするようになる、という現象について哲学者のフーコーを引き合いに出して言及している部分がありましたが、震災時のAC広告などを見てきた今にいたっては、そういう現象が実際にあるというのはみんな想像しやすくなっているんじゃないかとおもいます。

 また、主人公たちは、自分の体はかけがえのないもの、公共のリソースであることに窮屈さを感じています。そういった、大事にされすぎることで逆に自分の体が自分のものでないと感じてしまう感覚は、現代でも自傷行為やヴィジュアル系など一種の退廃的な音楽に表されている思います。
 行き過ぎた思いやりには相手を支配する側面もある、ということは肝に命じておくべきことかもしれません。

 
 あとは、この世界でこんなに医療や命の保証が叫ばれる理由は、先物経済の実現にあるのではないかと思いました。
 規格化された健康な人がたくさんいて、人口増減の波が小さければ、未来の労働力も予測できますから、将来どんな事業を行うか、どう事業を続けて行くかなどの計画も立てやすくなると思います。
そうやって未来も同じように安定した平和を保つには、未来にも同じように安定した人口・人材がいることが不可欠なのだと思います。
 かつて、未来を予測して安定して生きていくことを考えた結果人口統計学が発展してきましたが、未来を予測・安定させることの延長線上に健康や命の保証がかなり求められるようになるのは、必然なのかもしれません。

 識や心についてもよく書かれていました。メインテーマですかね。
 
 「欲求と報酬を制御すれば意志も制御できる」、「相互扶助システムができれば意識は淘汰される」などの言葉があり、唯物論的な考えが多めでした。
 この本では、生きていくための様々な欲求を調整するのが意識、意思だとされています。なので欲求が叶えられない、あるいは欲求同士が対立するときは葛藤が起こります。
 しかしもし、コンピューターが合理的でニーズにあった完璧な答えを出してくれたり、自分の欲求と他者の欲求の完璧な調和が実現したら、すべてが自明(=葛藤がない・調整する必要がない)になり、意識がなくなるのではないか、というようなことが書かれていました。意識する自分がいなくなるということですね。

 こういう全体と溶け合って自他の区別がなくなる、というのはエヴァンゲリオンなど様々な作品で扱われていると思います。ユートピアでもディストピアでもありますね。使い古されてて飽きてくる感じもあるのですが、この作品だとその調和がコンピュータや思いやりによってもたらされるという観点から描かれていたのが新鮮でした。

 個人的には、全体主義だろうと個の意識がなくなろうと調和は必要だと思います。ただ、調和しないものに対して死や暴力を伴うものは危険だと思います。

大人も感激の科学の工作 (ニュートンムック―身近な道具で不思議体験)/佐伯 平二

¥1,050
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 気圧で空き缶をぺしゃんこにする実験や簡易ボイラー船のつくりかたなど、
すぐできそうなものからちょっとめんどくさそうなものまで紹介されてました。

 身近に手に入るものでガイガーカウンターもどきもつくれてしまうそう。

 メモ:
・水が蒸気になることで体積1700倍に ー それを利用して推進力を得るボイラー船
・放射線 ー 不安定な分子が安定した形になろうとするときに出す粒子
・重心が下に落ちる = その物体全体が下に落ちる とは限らない
・液状化 ー 砂の合間に隙間多いから水が入り込めてしまう
 祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)/グレッグ イーガン

¥882
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しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)/グレッグ イーガン

¥903
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 レッグ・イーガンの短篇。「ぼくになることを」「しあわせの理由」だけ読みました。

 ー男はたまたま、ロイエンケファリンを自分に分泌できるようになったのだが、その自覚がないために、自分の幸感には神聖な由来があると理屈付けたのだ。ぼくは恐怖と同時に胸を締め付けられた。少なくともかつてのぼくは、自分の幸福感が腫瘍と関係があるの知っていた。路地でラリっている少年にしても、自分がシンナー吸っているだけだと分かっている。
 では、パブの客たちはどうだ?自分のしていることを理解しているのだろうか?音楽、気が置けない仲間、アルコール、セックス・・・境界線はどこにある?幸福感の理由付けが、この男のように空虚で病的なものに変わってしまう、その境界線は? 『しあわせの理由』 p403


麻薬はここにだけあるのではない。水の中にだけあるのでもない。それはいまでは、僕達の一部分だ。それは僕達の血の中にある。だがあなたがそのことをしってさえいれば、それはあなたが自由だということだ。あなたの心を興奮させるなにもかもが、あなたを高揚させ、心を喜びで満たすなにもかもが、あなたの人生を生きる価値のあるものにしているなにもかもが、偽りであり、堕落であり、無意味であるという可能性に面と向かう気構えがありさえすれば、あなたはけっしてその奴隷になることはない!
『祈りの海』 p445


 人の意識のソフトウェア化とか、攻殻っぽいテーマが多い作家で面白いです。
世界一たのしい論理思考のレッスン エリカとギギの不思議な冒険/小野田 博一

¥1,260
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本みたいなので気軽に読めます。
論理思考についての本っぽくないところがいいですね。

ある意見を「言語道断だから」と反対して、
その理由を、言語道断の理由は説明説明できない、言語同断なのは言語道断だから間違い、
分かる人には分かる、わからないのはバカ
としてしまうと、議論になりません。

 こういうのを防ぐためにも論理思考が役立つようです。

メモ:
・決定と理由はセットで伝えないといけない
・理屈も見る人次第、納得したならその人にとっては正しい
人が変わっても納得できるのが論理
伊藤計劃記録/伊藤計劃

¥2,100
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 家の故 伊藤計劃の短篇、インタビュー、映画レビュー集です。

 ケータイ小説などを引き合いに出して、小説の読み方の多様性のない世界に
ついて語られていました。指定されたものだけを享受する、サプリメントのような文学や
どこでどんな感情が起こるか指定されている世界の話は、自分が今まで突っかかっていたものを
うまく言葉にしてくれていて驚きです。

 感情が指定されている、というのは小説以外でもあると思います。
音楽、特に歌詞のあるもの、旅行なんかも、感情やその感情に至るプロセスが、
こういう時はこういう感情、こういうことがあったらこういう感情というように
パッケージになっている気がします。
 何かの物語の登場人物をまねるように自分の行動・感情パターンも決まってしまうのだとしたら、
機械的ですこし嫌な感じがします。

 ただ、指定されたものに合わせたり真似したりできるというのは、人のよいところでもありますね。

 寓話や物語、音楽は人を動かす力がある、逆に言えば人は動かされるものでもあります。
そういうものとうまく付き合っていければと思います。

 「二つのものがあるだけだ。それは、きれいな女の子との恋愛だ。それとニューオルリンズかデューク・エリントンの音楽だ。その他のものはみんな消えちまえばいい。なぜって、その他のものはみんな醜いからだ。」ボリス・ヴィアン





 メモ:
・兵士一人一人がリアルタイムに把握される情報化 ー 核から情報へ
・未来の生産をSFに期待できない → 今が未来だから
・『自由は進化する』『脳の中の倫理』『心の先史時代』『メディアレイプ』
・自分が書物であること、写本の写本であること
・言語とツールを操作 ー 思考も操作・規程できる
・血中に糖分多い糖尿病 → 血の氷点が下がるので寒冷気でも生き残りやすい

ドストエフスキー 共苦する力/亀山 郁夫

¥1,470
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 奴解放によって、人々が今までの慣習や神から開放され、自由や金といったアナーキーなものに翻弄される様が、ドストエフスキーの作品には共通して描かれているそうです。登場人物のトラウマが描かれるなど、現代にも通じるテーマが多く描かれていることが人気の理由でしょうか。

 作品の紹介の中では、「罪と罰」の解説が面白かったです。正当な理由があれば殺人も許容されるか、
といった選民主義の問題、殺人を起こした主人公に読む人を強く同期させる文章だが、その後の主人公の孤独も強烈に伝えて殺人抑止の効果を持っていること、自分と同じような子孫を残す役目の凡人と導き手の天才、そのどちらにもなれない主人公、といったテーマが描かれているのは興味深いです。

メモ:
・携帯電話 ー 神と運命の領域にあった人同士のネットワークを人が恣意的操れるようになった
・ボーダーレス化 ー かえって二極化 、 国境のセキュリティ増
・イワン「神がなければ全ては許される」

ゲーテとトルストイ (岩波文庫)/トーマス マン

¥630
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 「私はすべての人に知られ愛されたいという欲望を感じた。自分の名を世に告げたいという欲望を感じた。ーそしてあらゆる人がこの告知によって大きな印象をうけ、私のまわりに集い、なにかしら私に感謝してくれるように、と。」トルストイ p29

 「今や私にとっては建築や彫刻や絵画は、鉱物学や植物学や動物学と同じようなものです。「結局私たちは、芸術活動においては、自然がその作品を創るにあたって用いるやり方を、少なくともある程度学びとった時に初めて、自然と腕を競うことができる」ゲーテ p169

プラトンからカントにいたるまで、あらゆる哲学者は一致して、学校を因習の束縛から開放することに努めている。 p180