豚袋でございます。
しかし昨今のリマスターや廃盤再発はかなりディープなところまで行われていますね。おかげで昔聴きたくても聴けなかった音源や、アナログ時代に聴いたけどその後CD化されなかったアルバムが「うそー、こんなのまで?」というレベルで出ていることも多く、一方で発売元は商売になるのだろうか?などと余計な心配をしてしまったりしますが、リスナーとしては大変ありがたい事ですね。
そんな中今年の2月に本当に待望の再発がありました。ザ・ポップ・グループのセカンド「ハウマッチ・ロンガー…」です。何せこのアルバムは相応に評価も高く需要はかなりあるはずなのに、CD発売は1996年を最後に廃盤状態。片やファーストは何度もリマスターを重ね再発されているのに何故セカンドが?という変な状況。詳しくは知らないのですがどうやら権利問題(ラストポエッツとの共作の問題らしいすね)がちょっとややこしかったようで、その後も何度となく再発すると情報が流れては消え、結果中古市場でプレミアが付いて相当な高値で売られていたのです。まさに20年ぶりという、個人的にも本当に本当に待望の再発なのでした。
ザ・ポップ・グループに関してはかなり以前ですがファーストの「Y」を記事にしていましたのでついでに見てください。
さて、「For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?(我々はいつまで大量殺戮を見過ごすのか?)」と非常に政治的というか強烈でラディカルなタイトルのこのアルバム。タイトルもそうですが、まずジャケットに目を奪われます。第一次世界大戦時のジプシーの裸の子供達のキスを撮ったアンドレ・ケルテスの写真を使ったジャケットはかなりインパクトの強いものでした。タイトルと合わせ、その闘争的・扇情的・攻撃的なアルバム内容を想起させます。
一曲目からその期待に違わぬ音が襲ってきます。前作よりも演奏技術が上がったこともあるのか、非常にタイトでスリリングでファンキーな音。マーク・スチュワートの咆哮はさらに激しさを増しているかのようです。
前作は非常にフリーキーで演奏もリズムを敢えて分断するような感じでした。各楽器もボーカルもパーツとしての音をかき鳴らしていて、一見バラバラな音をまるで無秩序なパズルのように組み合わせて音塊にしたような音楽。「解体・再構築」による音楽表現に、ジャズ・ファンク・ダブ等のエッセンスを味付けに、強烈なスクリームを掛け合わせるという手法がそのメインでありました。
しかしながら本作では前作の特徴は成りをひそめ、どちらかというと、土台に強力なリズムを据えた上に言葉を載せていく非常に構築的な作り方をしているように感じます。リズムが強くなった分、曲のパワーが増しており直感的な音を楽しめるようになったと思います。「メロディ」という意識はあまり作り手側にないのは相変わらずですが。
前作のような過去に体験したことのない斬新性・前衛性は少々薄れたことも事実ですが、逆に構築的でリズムを全面に押し出したことによりわかりやすくなり、彼らのメッセージがすんなり入ってくるような感覚はこちらのアルバムにもたらされた産物であると思います。ファーストとはまた違ったこの優れた特徴が本作を前作と甲乙つけがたい名盤たらしめているような気がしてなりません。
ちなみにこのアルバムの再発にあたって、前出の権利問題の関係から一曲を差し替える必要がありました。オリジナルの盤は3曲めが「One Out of Many」という曲で、ラスト・ポエッツという米国のラップのはしりのバンドとの共作であったのですが、ここの版権がクリアできなかったようです。したがってこの曲は再発盤では別にシングルで発売されていた「We Are All Prostitutes」に差し替えられています。この事についてhオリジナル至上主義のリスナーのみなさまはどうにも納得できないようですね。私はこの「One Out of Many」についてはマークがメインでない違和感が大きく、逆にこの曲が差し替えられたことによりアルバムとしての統一感ができたように感じます。
最後にこのアルバムのラストの曲で締めたいと思います。実は自分が一番最初に聴いた彼らの曲はこの曲なんです。当時ラフ・トレードの編集盤で「クリアカット」というコンピシリーズが出ておりその中にあった一曲で、この曲を聴いて彼らのアルバムを聴くようになったきっかけの曲でもあります。
前もザ・フォールの時書いたけど、この「クリアカット」シリーズ、再発ならないかなー。
それでは、また。