前回は、「痛みがあるときこそ、無理のない範囲で体を動かすことが回復への鍵になる」というお話でした。今回は少し視点を変えて、「そもそも痛みとは何なのか?」について考えてみたいと思います。

実は、痛みの強さは、必ずしも身体の損傷の大きさと一致するわけではありません。
たとえば、レントゲンやMRIで明らかな異常が見つからないのに強い痛みを感じる人もいれば、逆に大きな損傷があっても、ほとんど痛みを感じない人もいます。これは、「痛み」が脳で処理をした結果として生まれる感覚であることに関係しています。

痛みの感じ方は、「身体の状態」だけで決まるのではなく、心の状態や置かれている環境、これまでの経験や記憶によっても、大きく影響を受けます。「この動きは悪化させるかも…」という不安を感じたときや、周囲の言葉に影響されて「ひどい状態かもしれない」と思ったとき、強く痛みを感じることがあります。過去のつらい痛みの記憶が、思い出すだけで痛みを引き起こすこともあります。

2004年にWagerらが行ったfMRI研究では、「これから痛みが来るかもしれない」と予測しただけで、脳内の痛み関連領域が活動を始めることが確認されました(Wager et al., Science, 2004)。たとえ強い刺激がなくても、「この動きは危険かもしれない」「また痛くなるかも」と考えるだけで、脳が“痛み”を作り出してしまうことがあるというのです。

つまり、痛みは、単なる“刺激”ではなく、“脳による解釈”であると言えます。脳の中で「これは危険な状態だ!」と判断されると、本来なら軽く受け流せるような刺激にも、痛みとして反応することがあります(中枢性感作)。これは身体の防衛反応でもありますが、実際にはすでに治っているはずの部分が、いつまでも痛く感じられてしまうこともあるのです。
痛みとは単なる「壊れているサイン」ではなく、「自分にとっての安心・安全」が揺らいでいるサインでもあるといえるでしょう。

だからこそ大切なのは、「痛みがある=危険」とすぐに結びつけるのではなく、「今の自分は何を怖がっているのか?」「何が安心につながるのか?」と、少しだけ立ち止まってみること。
「安心して動ける」という体験を少しずつ積み重ねていくことは、脳が「大丈夫」と感じられる回路を育てていくことにもつながります。それは、脳に「もう大丈夫」と伝えていく、大切なステップになるのです。
 
 
今日は梅雨の中休み。急に暑くなって身体がついていかないですが、皆様も熱中症などにはお気をつけてお過ごしくださいね。
 

スタジオアクセス  奈良県桜井市 桜井駅より 徒歩3分

 

■ 講座・ワークショップのお知らせ
身体運動学 (2025/7/28~開催)


外部講師・ワークショップの依頼は info@ajmea.org までお願いします。

■ ピラティスプライベートセッション受付中

お問い合わせはLINEもしくはこちらのリンクから

 

instagram note LINE

 

 

 


 

先週は、腰痛について「安静にするよりも、可能な範囲で体を動かしたほうがよい」という考え方が、現在ではガイドラインでも推奨されている、とご紹介しました。では、肩や首、膝、股関節などの慢性的な不調に関してはどうでしょうか?

これらの痛みに対しても、「完全な安静」が必ずしも最善の選択ではないという考え方が、今ではスタンダードになりつつあります。

その背景の一つに、「fear-avoidance(恐怖回避)」という考え方があります。
2000年に心理学者VlaeyenとLintonによって発表された研究において、「痛みが再発するのが怖い」「悪化するかもしれない」という不安から身体を動かすことを避けてしまう傾向が、痛みの慢性化と深く関係していることが指摘されています。この“回避行動”が続くことで、身体の機能が低下し、動かさないことによってさらなる痛みや不安、さらには抑うつ状態を引き起こし、結果的に痛みを長引かせてしまいます。

もちろん、「身体を動かす」といっても、激しい運動をする必要はありません。
ゆっくりとしたウォーキングや、呼吸に合わせたやさしい動き、関節をゆっくりと動かすような体操など、「今の自分が心地よく続けられる動き」こそが、身体と心を整える助けになります。

炎症が強いときや急性のけが、感染症などが疑われる場合には、安静が必要な場面もあります。しかし、検査で特別な異常が見つからない場合や、慢性的な違和感に悩まされているようなときには、適度に体を動かすことも、回復に向けた有効な選択肢として考えてよいでしょう。

痛みがあるときこそ、「休むか動くか」の二択ではなく、「どこまでなら心地よく動けるか」を探る視点が大切です。痛みがあるときでも「安心して動かせる」経験を積み重ねていくことが、恐怖をやわらげてくれます。そして少しずつ安全に動ける体験を積み重ねていくことで、不安がやわらぎ、リラックスした自由な動きを導いてくれます。

 

 

スタジオアクセス  奈良県桜井市 桜井駅より 徒歩3分

 

■ 講座・ワークショップのお知らせ
身体運動学 (2025/7/28~開催)


外部講師・ワークショップの依頼は info@ajmea.org までお願いします。

■ ピラティスプライベートセッション受付中

お問い合わせはLINEもしくはこちらのリンクから

 

instagram note LINE

 

 

 


 

腰に痛みを感じたとき、「とりあえず安静にしておけばそのうち良くなる」と考える方は少なくありません。実際、かつては「腰痛にはまず安静」という考え方が一般的でした。しかし、最近の医療ガイドラインや科学的な研究では、この“昔ながらの常識”が見直されつつあります。

現在、多くの腰痛は「非特異的腰痛」と呼ばれ、画像検査などで明確な異常が見つからないタイプが大半です。こうした腰痛に対しては、過度に安静にするよりも、無理のない範囲で体を動かすことのほうが、回復を早めることがわかってきました。

たとえば、ゆっくりとしたウォーキングや、痛みを感じない範囲でのストレッチ、呼吸を意識したやさしい体の動きなどは、筋肉や関節のこわばりを防ぎ、血流を促し、さらには神経の過敏さを和らげるのにも役立ちます。

アメリカ内科学会(ACP)は2017年のガイドラインで、「急性および慢性の腰痛には、まず非薬物療法(運動療法、温熱療法、マインドフルネスなど)を優先すべき」としています。また、イギリスのNICE(国立医療技術評価機構)も、「腰痛のある人には安静より活動を」と推奨しています。

痛みがあると「動かすと悪化するのでは?」と不安に感じることもあるかもしれません。しかし「痛み=損傷」というイメージは必ずしも正しくありません。特に慢性の腰痛では、実際の組織損傷よりも、脳や神経系が痛みを「覚えてしまう」こと(中枢性感作)が、長引く腰痛の原因になっていることもあります。

そのため、できるだけ安心できる環境で、体に耳を傾けながら少しずつ動き始めることが、回復への大切な一歩になります。「もう治らないかもしれない」「動いてはいけない」といった不安があると、痛みが慢性化しやすくなることもわかってきており、これを心理社会的要因(yellow flags)と呼びます。

もちろん、すべての腰痛が「動けば治る」というわけではありません。以下のような注意すべきサイン(red flags)がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。

    ・足のしびれが両側に広がっている
    ・力が入らない、歩行が困難
    ・排尿・排便の異常や会陰部(股のあたり)の感覚が鈍い
    ・発熱や原因不明の体重減少がある

こうした症状がない場合、多くの腰痛は、「安静よりも適度な活動を」という現代のスタンダードに従って、自分のペースで体を動かしていくことが、回復を助けてくれます。

「休む」ことが必要なときもあります。でも、それだけに頼るのではなく、「どう動くか、どう考えるか」も一緒に考えていくことで、腰痛との向き合い方はもっとやさしく、前向きなものになっていくでしょう。

 

 

スタジオアクセス  奈良県桜井市 桜井駅より 徒歩3分

 

■ 講座・ワークショップのお知らせ
身体運動学 (2025/7/28~開催)


外部講師・ワークショップの依頼は info@ajmea.org までお願いします。

■ ピラティスプライベートセッション受付中

お問い合わせはLINEもしくはこちらのリンクから

 

instagram note LINE

 

 


 

ピラティスリーダーシップコンセプト(PLC)アナトミーコース

1月からスタートしたクラスですが、先日すべてのクラスが無事に終了しました。

 

今回は初めてオンラインと対面を組み合わせたハイブリッド形式での開催。
慣れない形ではありましたが、消化しやすいペースでじっくり進められたことで、理解が深まりやすかったように感じています。

わたし自身もそうですが、都外からご参加くださった方も多く、オンラインの恩恵を改めて感じる機会にもなりました。
一方で、対面でのラボでは、座学で学んだことを実際の動きの中で確認・実践し、

理解がより立体的になっていったかなと思います。

マリジョゼ先生によって作られたこの解剖学のクラスは運動学や神経系にまで多岐に渡る内容で

動きを改善していくための「なぜ?」がたくさん含まれています。
知識が体現されて身体が変化していく瞬間は、いつもワクワクします。


ご参加いただいた皆さま、そしてスタジオのスタッフの皆さまのご協力に、心から感謝いたします。
ありがとうございました!

 
 

スタジオアクセス  奈良県桜井市 桜井駅より 徒歩3分

 

■ 講座・ワークショップのお知らせ
身体運動学 (2025/7/5~開催)


外部講師・ワークショップの依頼は info@ajmea.org までお願いします。

■ ピラティスプライベートセッション受付中

お問い合わせはLINEもしくはこちらのリンクから

 

instagram note LINE

 

 


 

前回は、呼吸の多様性についてお話ししました。では、その呼吸によって、私たちの身体の内側ではどんなことが起こっているのでしょうか。今回は、呼吸とも深く関わる「腹腔内圧(ふくくうないあつ / Intra-abdominal Pressure)」について、少し掘り下げてみたいと思います。

腹腔内圧とは、お腹の中(腹腔)にかかる圧力のことです。
腹腔とは、内臓が収まっている空間のことで、上は横隔膜、下は骨盤底筋、側面や背面は腹横筋や多裂筋に囲まれています。これらの筋群が協調して働くことで、腹腔内には適切な圧が生まれ、体幹が内側から安定するのです。

 

横隔膜・腹横筋・骨盤底筋・多裂筋は、腹腔内圧を調整する「インナーユニット」として知られています。呼吸や動きに応じて腹腔内圧は常に微細に変化しており、私たちはその“調整力”によって、姿勢を保ち、スムーズに動くことができているのです。

「体幹を安定させるためには、お腹をしっかりさせることが大切」と言われることがあります。しかし、常に力んでいる状態では、呼吸が浅くなったり、背骨の動きが制限されたりしてしまいます。
腹腔内圧もまた「しなやかに変化するもの」。吸って、吐いて…という呼吸の流れの中で、自然と上下にゆらぎながら調整されるのが理想です。

たとえば、スマートフォンを持ち上げるときと、5kgの米袋を持ち上げるときでは、身体に求められる安定性がまったく異なります。
重いものを持ち上げたり、バランスの難しい姿勢をとったりするときには、腹腔内圧は自然と高まり、体幹をしっかり支えてくれます。
一方で、負荷の小さい動作や休息中、リラックスした動きの中では圧がゆるみ、呼吸も深くなるのです。

つまり、常にお腹を固めておくのではなく、動作や負荷に応じて「必要なときに、必要なだけ支える」ことが重要です。
そのためには、腹腔内圧を適切に調整する力、すなわち、状況に応じて体幹の支えを柔軟にコントロールできる力が必要になります。

腹腔内圧も、HRV(心拍変動)と同じように「ゆらぎ」があり、必要に応じて高まり、また緩みます。 揺らぎがあることは、柔軟性と適応力がある証拠。
それこそが、レジリエンス(回復力)のある身体づくりの鍵になるのではないでしょうか。

 

 

スタジオアクセス  奈良県桜井市 桜井駅より 徒歩3分

 

■ 講座・ワークショップのお知らせ
身体運動学 (2025/7/5~開催)

PLC アナトミーコース- Hybrid(2025/1/9~)

外部講師・ワークショップの依頼は info@ajmea.org までお願いします。

■ ピラティスプライベートセッション受付中

お問い合わせはLINEもしくはこちらのリンクから

 

instagram note LINE