「まっすぐ立つだけなら、感覚はそんなに必要ない」と思うかもしれません。ここで、目を閉じた瞬間に身体がふわりと揺れる、あの感じを思い出してみてください。ほんの一つの感覚(視覚)が弱まっただけで、身体はバランスの取り方を変えざるを得なくなります。姿勢とは、実は“見えない情報に支えられた現象”なのだと、教えてくれます。

足裏にどれくらい体重が乗っているか、膝は伸びているのか、肩が上がっているのか、呼吸が浅いのか深いのか。このような感覚はすべて、身体の内側から送られてくるシグナルです。そして、そのシグナルをどれだけ“取り上げられる”かによって、姿勢や動きの質は大きく変わります。

身体感覚にはいくつかの種類があり、それぞれが少しずつ異なる“役割”を担っています。
まず、皮膚で感じる触覚。足裏が床にどのように触れているか、靴下の布の感触など、ごく表面的な情報ですが、身体と外界の“境界線”を教えてくれる大切な感覚です。立っているときに足裏の圧が少し前に移れば、身体は自然とそれを“前へ倒れつつある兆候”として察知し、小さく調整を始めてくれます。

次に、筋肉や関節の状態を知らせる固有受容感覚。「関節がどれくらい曲がっているか」「どの筋がどれほど伸びているか」など。こうした情報は、身体の“内側にある地図”のようなもので、動きを精密にコントロールするうえで欠かせません。 私たちが目を閉じても身体の位置がわかるのは、この固有感覚のおかげです。 この地図の解像度が上がるほど、意図した方向にスムーズに身体を運べるようになります。

そして、重力や加速度を感じる前庭感覚。頭の位置がわずかに変化しただけでも、身体全体が姿勢を微調整しようとするのはこの感覚が働くからです。前庭感覚は、時間的な変化―動き出し・止まる・加速するといった“変化の瞬間”に特に敏感で、姿勢の安定には欠かせない基盤となっています。電車で揺れていても姿勢を保てるのは、この前庭感覚が速やかに働き、身体全体へ“揺れが来るよ”と知らせてくれているからです。

興味深いのは、こうした感覚は“ゆらぎへの応答”“ゆらぐ前の予測”のどちらにも深く関わっているということです。ゆらいだ身体を元に戻すためにも、これから起こりそうな揺れを察知するためにも、感覚の精度と豊かさが欠かせません。

もし姿勢が固まりすぎていたり、特定の筋がいつも緊張していたりすると、この感覚の流れが弱まり、身体は状況を読み取りにくくなります。逆に、呼吸が広がり、身体が軽く動ける状態になるほど、感覚はクリアに働き始めます。

姿勢を整える第一歩として、「感覚を取り戻す」というアプローチがとても大切な理由がここにあります。窮屈な形に当てはめるのではなく、まず“感じられる身体”であること。その土台が整うことで、フィードバックもフィードフォワードも働きやすくなり、結果として姿勢は自然と調和へ向かっていきます。

 

朝晩冷えて、霜が降りる日も増えてきました。踏んだ感覚がおもしろいみたいです。

 

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「良い姿勢とは?」と聞かれると耳にする”耳垂・肩峰・大転子・膝関節前部・外果の少し前”をつなぐ一直線の姿勢ライン。多くの方が、その目安へと身体を合わせようとします。
背筋を伸ばして、顎を引いて…、というように、このラインに身体を無理やり当てはめようとすると、かえって姿勢の本質から離れさせてしまうことがあります。

そもそもこのラインは、「機能的・効率よく立てている人は、結果としてこう見えることが多い」という観察指標にすぎません。つまり、“こう立てば良い”という形のレシピではなく、良い姿勢の“見え方”の傾向を示しているだけなのです。

姿勢を”形”として再現しようとすると、身体には余計な力みが生まれます。胸を張れば背中は硬くなり、顎を引けば首は詰まります。こうした緊張は呼吸を浅くし、身体への負荷を増やしてしまいます。

本来の姿勢は、静止に見えても細かな揺らぎの中で保たれる“動的な安定”です。バランスを保つために、筋肉や感覚は絶えず調整を続けています。そのため、身体を“まっすぐに固定”しようとするほど、この調整力が働きにくくなり、むしろ疲れやすくなるのです。

では、良い姿勢とは何でしょうか。
それは、呼吸が無理なく広がり、動きがなめらかにつながり、どこにも過度な力みがない状態。骨格が互いに支え合い、必要な筋肉が働きやすく、疲れにくい。心理的にも落ち着きやすく、長時間続けても負担が少ない。そんな“機能の調和”が整った状態です。

この“調和”が満たされたとき、見た目の姿勢も自然と整い、結果として「きれいなライン」に近づいていきます。それは形を作ったのではなく、機能が整った“結果”としてそう見えるのです。

一方で、不良姿勢は単なる「悪い癖」ではありません。
生活環境、習慣、疲労、心理的ストレス、さらには体調や疾病など、さまざまな要因が積み重なって現れる、身体からのサインです。外見だけを整えても、その背景が変わらなければ本質的な変化にはつながりません。

姿勢は、形ではなく、機能が整った“結果”として生まれるもの。
だからこそ、「一直線に合わせる」よりも、「呼吸しやすいか」「動きやすいか」といった身体の感覚に耳を傾けることが、無理のない姿勢づくりの第一歩になるのだと思います。

 

 

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前回触れた、“ゆらぎを受けて調整する”仕組みと並行して、もう一つ大切な働きがあります。それがフィードフォワード(予測的姿勢制御)です。

前回の話は、ゆらぎが実際に起こってから筋紡錘がそれを感知し、必要な調整を返す、いわば「起こったことへの応答」でした。一方フィードフォワードは、その逆です。まだ揺れていないうちから、身体が「これから起こりそうな変化」を先回りして準備するしくみです。

たとえば、ほんの少し腕を上げようとしただけで、体幹や足の筋肉がわずかに働き始めます。腕が上がれば重心が後方へ動く可能性がある。その“未来の揺れ”を予測して、前もって下半身の筋が小さく準備をするのです。

そしてこの仕組みは、もっと身近な“歩き始め”でもはっきり現れます。右足を踏み出そうとすると、実際に右足が動くより先に、身体はそっと重心を左へ寄せ、左脚に体重を預けられるように準備します。これがないと右足を浮かせた瞬間にバランスを崩してしまうため、身体は無意識のうちに未来の不安定さを察して、先に姿勢を整えているのです。

こうした“先まわりの調整”は、立っているときの小さな体重移動でも同じように働いています。「このままいくと少し前に寄りそうだな」「左に重心を移したいな」という意図を身体が読み取り、揺れが表に現れる前から多くの筋がわずかに働き始めます。
まるで、揺れが大きくならないよう、そっとブレーキをかけておくような感じです。この静かな準備があるからこそ、その後に起こるゆらぎを過剰な力みなく受け止めることができるのです。

つまり、立位姿勢を支えているのは
“起こった揺れに応じて戻す力”(フィードバック)と
“起こりそうな揺れに備える力”(フィードフォワード)
この両方が重なり合うことによって生まれています。

ゆらぎが生じてから動く身体、ゆらぐ前から先に動き出す身体。
この二つが繊細に協調していることで、立つことは“固めて耐えること”ではなく、“やわらかく調整しながら支えること”として成り立ちます。

立っているとき、「動き出す前の静かな変化」に目を向けてみると、フィードフォワードの存在を感じられるかもしれません。姿勢を見えないところで支えている、この静かな準備こそが、私たちの日常の安定をやさしく支え続けてくれているのです。

 

 

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前回、立つとは止まることではなく、“ゆらぎながら支えること”だとお伝えしました。この“ゆらぎ”を調整するうえで重要な役割を担っているのが、筋肉の中に埋め込まれた小さなセンサー、筋紡錘(きんぼうすい)です。

筋紡錘は、筋肉が「どれくらい伸びているか」「どれくらいの速さで伸びているか」を絶えずモニタリングしています。立位では、重心のわずかな揺れに合わせて筋がミリ単位で伸びたり戻ったりしますが、その微細な変化をいち早く感じ取り、絶え間なく脊髄へと情報を送り続けています。

たとえば、体がほんの少し前へ傾き、ふくらはぎの筋が「少し伸ばされてきた」と筋紡錘が感知すると、その情報は脊髄を介して下腿三頭筋へと伝わり、やさしい収縮として返ってきます。これは“緊張性伸張反射”と呼ばれるもので、急激に力を入れる反応ではなく、姿勢保持に適した穏やかで持続的な調整反応です。

この反射と、前回述べた遠心性のゆるやかな支え(外力に合わせて筋が伸ばされながら働く性質)が重なり合うことで、私たちは前へ倒れずに「ちょうどいい位置」へと戻っていきます。

逆に体が後方へ傾くと、今度は前脛骨筋の筋紡錘が同じように伸びの変化を察知し、“そろそろ戻ったほうがいいよ”という静かなサインを送ります。こうした感覚のネットワークが、ゆらぎが“危険な揺れ”へと発展しないよう、常に軌道修正してくれているのです。

つまり、立位の安定とは、筋肉が力んで固まることでも、反射が自動的に働くことだけでもありません。筋紡錘による繊細な「今、どれくらい伸びているのか」の感知と、遠心性や弾性による“ゆるやかな制動”、そして身体全体が協調して働くことによって生まれています。

この小さなセンサーが働いているからこそ、私たちは無意識のうちに重心のゆらぎを整え、過剰な緊張を生みすぎずに立つことができます。足裏で大地を感じながら、身体の内側で起きているこの静かな対話にそっと意識を向けてみると、立つことそのものが、もう少し心地よいものになっていくはずです。

 

 

 

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私たちが地面に静かに立っているとき、一見止まっているように見えますが、実際には完全に静止していません。重心は常にわずかに前後・左右へと揺れ(postural sway)、身体はその小さな揺らぎを感じ取りながら、倒れないように絶えず微調整しています。つまり、姿勢保持とは「止まること」ではなく、「ゆらぎの中で安定を保つ“動的なバランス”」です。

ここでもまた、私たちの身体では遠心性収縮(eccentric contraction)が静かに働いています。たとえば体が少し前に傾くと、ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)が伸ばされながら張力を保ち、前方への倒れを抑えます。逆に体が後ろへ傾けば、前脛骨筋が同じように伸びながら支えます。

この“伸ばされながら支える”という微細な遠心性コントロールが、姿勢をなめらかに安定させているのです。実際には、筋の遠心性活動だけでなく、筋紡錘などの感覚受容器による伸張反射や中枢神経の調整も加わり、精緻な制御が行われています。

さらに、この遠心性の支えの裏では、前回触れたタイチン(titin)の弾性の恩恵も受けています。
筋肉が伸ばされるとき、タイチンはバネのように力を蓄え、戻るときにそのエネルギーを再利用します。この“ためて・返す”弾性の働きが、立位での安定を内側から支えているのです。

遠心性のコントロールがうまく働くと、力みすぎることなく筋活動が分散され、特定の筋に負担が集中しにくくなります。また、筋ポンプ作用を促し、血流やリンパの流れも保たれるため、長時間立っていても脚が張りにくくなります。

一方で、立ちっぱなしで足が重くなるのは、筋肉を求心性的に短くしたまま力み続けているため。重心の揺らぎが失われ、呼吸が浅くなると、循環も滞りやすくなります。

だからこそ、立っているときは“止まらずに静かに揺らぐ”意識を持つことが大切です。
母趾球・小趾球・かかとを感じながら、重心をほんのわずかに動かす。
その小さな動きの中で、遠心性の支えとタイチンの弾性が自然に働き出します。
立つ=止まることではなく、“ゆらぎながら支えること”。
この感覚を持てると、姿勢も呼吸も、ぐっと軽やかになります。

 

 

 

 

 

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