同僚の先生が呟いていた。
「もっとレベルの高い授業をしたいな。」
まあ分からなくもない。基本的なことを言って聞かせる授業よりも、東大レベルの問題をスタイリッシュに解説していく授業の方が、楽しいかもしれない。
実際に私は予備校以外ではハイレベルの生徒を紹介してもらうことが多い。そういった指導の方が楽だと感じている。話せば分かるからだ。
ただ私達の指導はそういった領域のものではない。
話してもなかなか伝わらない、覚えても忘れてしまう、理解したようで誤解している、昨日やったことが今日できない、そういうことの繰り返しの中をさまようような指導だ。
さまよう生徒達と共に先生達もさまよう。五里霧中を見えないゴールに向けて這っていく手伝いをするわけだ。
医学部受験のノウハウとか言われるものって、はっきりと形のあるものじゃない。はっきり形あるものならば、誰でもパクれるから大したノウハウじゃない。本当のノウハウは、様々な経験から生み出されるもので、形のない微妙なもの。
私達の指導は、レベルの高い授業ではないが、かなり専門性の高いマニアックなものだわ。
いくた