カフェで一人、ケーキをつつく。
 
 
「はぁ、…買って帰ればよかった」
 
 
いつもはあたしを幸せにしてくれる甘いもの。なのに今日は味がよくわからない。
 
 
きっとそれは、周りから聞こえてくる言葉のせい。
 
 
「…どうしていらないなんて言うんだろ」
 
 
そう考えて、出た答えはとても簡単なもの。
 
 
だってみんな、関係ないのだ。
 
 
自分はヒーローに助けられたことなんてないから、だから、より効率よく、より正確に、悪を叩きたいのだ。
 
 
悪が消えればいいのだ。
 
 
「同じ人間なのにね、」
 
 
からん、とアイスコーヒーのグラスをかき混ぜる。
 
 
「正義を盾に悪を殺すなんて、」
 
 
犯罪者よりも、あたしは一般人の方が怖い。
 
 
ヒーローの存在を否定されるより、ルナティックを肯定する世界が怖くて仕方ない。
 
 
「悪の基準より、正義の基準の方が難しい」
 
 
本当にそう思う。
 
 
それにルナティックは悪を消すだけで、誰かを救ってくれるわけではないのだ。
 
 
たとえば、あの時のあたしはワイルドタイガーがいたから助かったわけで。
 
 
だから、ヒーローがいなくなったら誰も市民を助けてはくれないのだと思う。
 
 
市民を第一に考えてるヒーロー。
 
 
そんな彼等を簡単に捨てようとする。
 
 
「なんだか泣けちゃう話だよ、ホント」
 
 
深くため息をひとつ、
 
 
たいして手をつけていないケーキを置いてあたしは席をたった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
愛とは一方通行なものなのだ。
 
 
(あたし達が必死に誰かの命を救っているのに、世界は奪うことを優先するのだ。)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ねぇ、パパ?お星様はなんで夜に起きるのかなぁ?」
 
 
窓から身を乗り出して空を見上げるあたしを抱き上げたパパは、にっこりと笑って答えた。
 
 
「それはね、」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
同情ではないと思う。
 
 
ただ、寂しいと感じた。(実際に寂しいのはあたしではなく、彼なのだが。)
 
 
うつ向く彼の髪にそっと触れる。
 
 
一瞬、肩が揺れたけど、彼はなにも言わなかった。
 
 
「…バーナビー、あのね、」
 
 
ゆっくり目を閉じて、あの日見た夜空を思い出す。
 
 
「子供の頃にね、なんで星は夜しかでないの?ってパパに聞いたらね、」
 
 
(暗闇の中でも、シルヴィエが寂しくないように空を照らしているんだよ。)
 
 
白い彼の手を握る。少しひんやりしていて、固い大きな手のひら。
 
 
「あたしが寂しくないように、夜空を照らしてくれてるんだって」
 
 
でも、この街じゃ星なんてもう見えはしない。
 
 
だから、あたしの代わりに彼を照らしてくれと、頼むこともできない。
 
 
「…バーナビーの寂しい時はあたしが傍にいるよ」
 
 
あたしには、あの星達のように暗闇を照らすことなんてできないけれど。
 
 
せめて、少しでも彼を暖めてあげられればいいのになと思う。
 
 
「…あまりそう言う事を言わない方がいいですよ」
 
 
顔をあげた彼は少し困った顔をしている。
 
 
「どうして?」
 
 
「勘違いするから、…俺に気があるのか、って」
 
 
握っていた手を引かれる。ぐらり、と揺れた身体を彼が支えた。
 
 
「…バニーちゃん、以外と元気じゃん」
 
 
心配して損した。
 
 
そう言えば彼は、いつもの様にすまし顔で。
 
 
「シルヴィエが勝手に心配したんですよ」
 
 
「そうゆうこと言うから虎徹さんに可愛くないって言われるんだよ」
 
 
「可愛くなくて結構」
 
 
ほんとに可愛くないな、なんて思いながらも、いつもの彼に戻って少しほっとした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
もう星達は必要ない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
公園のベンチに大型犬のような彼がぽつり。
 
 
「キース?」
 
 
いつも爽やかかつ元気な彼が、なんだか今日はしょんぼりしている。
 
 
「やぁ、シルヴィエ」
 
 
「どうしたの?」
 
 
彼の隣に座り顔を見上げる。
 
 
「実は、」
 
 
話始めた彼は目を潤ませながら、目の前の鳩達を見詰める。
 
 
「さっき、買ったばかりのホットドッグを地面に落としてしまったんだ!」
 
 
「…あぁ、それであそこに鳩がいっぱいいるんだね」
 
両手で顔を被って泣き出す彼の背中をさする。
 
 
仕方のない子だ。
 
 
「ほら、キース。泣かないで?また買いに行けばいいでしょう?」
 
 
ぐずぐずと鼻を鳴らして泣く彼にはあたしの声が聞こえないらしい。
 
 
なかなか顔を上げない彼の頭を撫でて、立ち上がった。
 
 
 
 
 
「…ほら、」
 
 
「え、」
 
 
熱々のホットドッグを両手に一個ずつ。
 
 
片方を差し出せば彼は不思議そうにそれを見た。
 
 
見詰めるばかりでなかなか受け取らない彼の手のひらに無理矢理乗せて、また隣に座る。
 
 
「食べないの?」
 
 
余ったもう一方にかじりつきながらそう聞くと彼は困ったように眉を下げた。
 
 
「いや、その、」
 
 
…何に困っているのだろう?
 
 
ホットドッグとあたしを交互に見詰める彼。
 
 
あれだろうか?やはり、男性は女性にご馳走になるのは嫌なのだろうか?
 
 
「…いつも街を守ってくれる、おれい」
 
 
どう言えばいいかわからなくて、なんだか変なことを言ってしまった。
 
 
それでも彼はあたしの言葉ににっこり笑った。
 
 
「ありがとう!そして、ありがとう!」
 
 
そう言ってすごい勢いでホットドッグを平らげてしまった。
 
 
「あ、キース、ケチャップついてる」
 
 
袖で拭こうとする彼の手を押さえて、ハンカチで脱ぐってやればまた彼はいつものように笑っていった。
 
 
 
「ありがとう!そして、ありがとう!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
可愛いキング。