私は足立が嫌いだ。
 
 
 
あいつはへなちょこの癖にいつも堂島さんといっしょにいて、
 
 
毎日のようにキャベツばっか食べてて、
 
 
にやにやと私に生意気な態度をとって、
 
 
そして、なによりも、私と同じ真っ黒な何かを抱えている。
 
 
そんなところが嫌いだ。
 
 
なのに、
 
 
「私も行く」
 
 
「はぁ?」
 
 
赤と黒が混ざる空の下。
 
 
ここが普通じゃないのはわかってる。
 
 
「僕の話聞いてなかったの?」
 
 
「うるさい。お前ほんと足立の癖に生意気だな」
 
 
足立は、
 
 
「やらなきゃいけないことがあるから、綴、ちょっと待ってて」
 
 
と、こんな不気味な場所に私を置いていこうとしたのである。
 
 
…だから、こいつはモテない。
 
 
「聞いてやってたよ。仕方なくね」
 
 
「ほんとにムカつくなー」
 
 
「足立ほどじゃない」
 
 
「いや、綴ほどじゃないよ」
 
 
足立はわざと知らないふりをする。
 
 
でも、それは私もいっしょ。
 
 
「…足立」
 
 
「どうしたの?」
 
 
だけどもう、終わりにしよう。
 
 
私は、あの子の様にはなれない。
 
 
「私も、行くよ」
 
 
それは足立についていくって意味ではないし、勿論、足立の味方になるわけでもない。(足立の味方とか気持ち悪いし)
 
 
私は私で、あの子と決着をつけなければならない。
 
 
それはが一方的な感情であっても。
 
 
私の眼を真っ直ぐ見る足立は、呆れたように肩をすくめて私に手を伸ばした。
 
 
「わかったよ。…一緒に行こう」
 
 
私の気持ちをわかっていて、それでも、『一緒に』なんて言う足立が、
 
 
「うざい」
 
 
「ほんとに可愛くないよな綴は」
 
 
『一緒に』なんて、少し嬉しそうに言うから、私も少し寂しくなくなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最後に僕らは笑えているだろうか?
 
 
 
握った手のひらが暖かくて、
 
私にもあの子と同じ、
 
隣にいてくれる人がいるんだと気づいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ひさびさ
 
 
 
 
そわそわ、
 
 
「…バーナビーが心配?」
 
 
不意に、正面から聞こえた声。
 
 
「え、」
 
 
「さっきから時計ばっかり見てて、上の空だよ」
 
 
デザートにしては、少し重そうなパンケーキ食べながら、シルヴィエはそう言った。
 
 
「…ごめんなさい」
 
 
「え?」
 
 
メアリーの言葉にシルヴィエは、顔をあげた。
 
 
すごく不思議そうな顔をしている。
 
 
「なにが?」
 
 
「メアリー、せっかくシルヴィエと一緒なのにバーナビーの事ばっか考えてるから…」
 
 
そう言えば、シルヴィエはメアリーの頭を撫でて笑った。
 
 
「仕方ないさ、バーナビーを心配しない方がおかしい」
 
 
シルヴィエは優しい。
 
 
メアリーがバーナビーの事ばっか考えても、怒ったりしない。
 
 
いつも、笑ってくれる。
 
 
「…メアリー、シルヴィエの彼女になろうかな?」
 
 
「…それは有り難いけど、遠慮しとく」
 
 
バーナビーに怒られるからね。
 
 
なんて、肩を竦めて苦笑い。
 
 
バーナビーにも、メアリーにも優しいシルヴィエは、
 
 
今はみんなの『マジックナイト』じゃなくて、
 
 
メアリーだけの『騎士様』なの。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
心配性プリンセスと
優しい騎士様。
 
 
(…いつもメアリーを遅くまで連れ回しすぎじゃないですか?)
 
 
(だって、可愛いんだもん)
 
 
(だもん、てシルヴィエ可愛いね)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「バーナビー、起きて、」
 
 
甘い、匂い、
 
 
「ねぇ、バーナビー、」
 
 
甘い、声、
 
 
「…もう、メアリー忙しいのに、」
 
 
僕の体を揺すっていた小さな手のひらが離れていく。
 
 
「メアリー今日、遅くなるよ、バーナビーちゃんとご飯食べてね」
 
 
離れた手のひらが、今度は僕の髪を撫でる。
 
 
少しくすぐったくて、その手のひらを握った。
 
 
「…また寄り道ですか?」
 
 
握った手のひらを引いて、彼女の額にキスをした。
 
 
「うん、シルヴィエと遊びに行くんだ」
 
 
シルヴィエ、たしか同じ大学に通っている友達だ。
 
 
「…あまり遅くならないでくださいね」
 
 
「大丈夫、シルヴィエはバーナビーが心配性なの知ってるから」
 
 
そう言われて、思い出すのは少し呆れ顔の某騎士様。
 
 
くすくす、と笑う彼女の頭を撫でて、今度は頬にいってらっしゃいのキスをする。
 
 
「じゃあ、今日も頑張ってね、メアリーのヒーロー」
 
 
「頑張りますよ、僕のプリンセスの為にもね」
 
 
 
 
 
閉まったドアを見つめること三秒。
 
 
ぐっ、と伸びをして、さぁ、今日も頑張りますか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
穏やかで、幸せな、
そんな毎朝。
 
(朝くらい、君とゆっくりしたい)