新津章夫とシンセ&キーボード | 新津章夫 Official Blog 《迷宮の森》

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謎に満ちた迷宮のギタリスト、新津章夫のオフィシャル・ブログ。迷宮の森 《Forest in maze》

新津章夫のデビュー作「I・O」のレビューには「ギターとわずかな楽器で作った」と記されていて、当時はシンセサイザーは使っていないと言われていました。そういえば、クイーンのデビューアルバムにも「No Synthesizer」というクレジットがありましたよね。今となっては「そんなにシンセサイザーを敵対視しなくてもw」と思いますが、当時は”魔法の楽器”でシンセがあればどんな音も出せる、ミュージシャンの思考力を削ぐ”魔の楽器”という一面がなかったといえばウソになります。

 

さて。「ギターとわずかな楽器で作った」という触れ込みだった「I・O」ですが、キーボードが使用されている曲があります。お気付きの方も多いと思いますが、「未来永劫」の8分目以降、滝の音(原曲名”シャッハウゼン”はスイスのライン川にある高低差約20メートル、川幅150メートルの雄大な滝の名前)を模したSE部分に流れるメロディは、1977年にローランドから発売された「RS-101 ストリングス」です。

 

 

私のバンドメンバーが所有しており、それを借用しました。以降、1982年に発表した2枚目のアルバム「Petstep」ではキーボードを使用したパートが増えます。皆さん、おなじみの「無印良品BGM1980-2000」ではほとんどのパートがヤマハのDX-7かローランドのJUNOです。

 

新津章夫が最初に手に入れたキーボードは、時代の先駆者となったヤマハのポータートーン初号機、PS-1です。

 

 

これらの音は「Petstep」の3曲目「パターン*かぜ」以降、多くの曲で使用されており、「I・O」のファンからは「新津章夫は平凡になった」と言われた要因でもありました(苦笑)。4曲目「かげろう」はまさにキーボードから始まり、当時、手に入れて夢中になっていたチェロを重ねて本来の”倍速ギター”の新津章夫らしさは影を潜めています。

 

「I・O」の制作は1977年、「Petstep」は1979年~1981年にかけて。つまり、2枚のアルバムは1980年という電気楽器の一大変革期を挟んで作られました。その間、新津章夫もギターとエフェクターから、まずKorgのMS-20を手に入れ、MS-50やアナログシークエンサーSQ-1を手に入れ、さらにはローランドのリズムマシン、ドクターリズムTR-606や”ヤオヤ”の後継機TR-909を導入。それとともに音楽の様式もどんどん変化していきました。

 

「新津章夫は平凡になった」と言われた一方で「Lyon」などは、こういった新機材があってこその名曲だと思っています。

 

 

このリズム部分はTR-909とシーケンサー。メインはすべてギターの倍速処理。チェロも聴こえます。見事なまでのアナログとデジタルの融合です。

 

この曲はヘッドフォンお聴きになるとわかりますが、バッキングはクラベス(TR-909)と倍速ギターのボサノバ風コード奏法のラテン風味になってます。このあたりはブラジルのギタリスト、バーデン・パウエルに憧れていた新津章夫のバックボーンが感じられます。

 

曲名であるリヨンは、2つの川が流れるフランス第二の都市。エンディングとともに流れる川のSEはそれを表しています。1970年中頃、欧州を放浪していた新津章夫はリヨンから私に手紙を書いてくれました。曰く、「フランス国境を越えたのは夜中でフラン(当時は統合通貨ユーロ以前のフランスの通貨フランを使用)に両替することができず腹が減ってひもじい思いをした」。そんなお腹が空いて困っていた新津章夫の目に、リヨンの町はこんなにも美しく映ったのでしょうか(笑)。