本日9月17日は、実兄、新津章夫20年ぶりの新譜である「EARLY MINIMALISM 1973-78」の発売日です。2002年に新津章夫が死んで2003年には「I/O」がCD化され、2005年に死ぬ間際まで制作を続けていた「サイエンス・クラシックス」が発売になりました。
しかし、その後はこのBlogでもご報告したとおり未発表音源のCD化企画はあったものの実現には至らず、私自身も自分の生活に追われる毎日に忙殺されていました。決定打となったのはコロナで、ご存知のように私が住むイタリアは世界で最初に多数の死者数を出し、大袈裟ではしに国家の存亡をかける対応を迫られました。とくに2020年の春の60日間のロックダウンは食料品を買う以外には家から200メートル以上離れることができず、完全な隔離状態になりました。
私は妻と娘の三人暮らしでしたが夫婦喧嘩が絶えず起こり、小さな家の中でありながら家族はバラバラの状態。妻も私も仕事が途絶え、正直、兄の音楽どころではなくなっていたのです。
2023年には3年ぶりに帰国をしましたが、その時にはもう兄の残したすべてのテープを処分せざるを得なくなっていて(トランクルームを借りて保管していたので)、その整理を始めたのですが、まずは私自身のものからと、その帰国では兄の遺品には手をつけられないままイタリアに戻りました。
その年のクリスマス。私の元に日本から一通のメールが届きました。差出人は徳間ジャパン。兄の2枚目のアルバム「Petstep」はジャパン・レコードという会社から発売になっていましたが、その後、ジャパン・レコードは徳間出版に買収されていました。曰く、「『I/O』を再発売したいので許可をもらいたい」とのこと。
最初は「ははーん、最近ありがちな詐欺だな。貴方の本を出版しませんか?」的な??と思い警戒したのですが、梁取をする中で「I/O」がヤフオクなどでプレミアが付いているため、それであれば多くの人に聞きやすい価格で復刻すべきだという企画が上がったというのです。まぁ、このあたりはBlogでも書きました。
その翌年にはP.Vain社より「Pestep」の中の「リヨン」をコンピレーションアルバムに収録したいというオファーをいただき、さらには今回の企画である「新津章夫の未発表音源集」というお話までいただいたのでした。
その時の私の気持ちを正直に言うと「ああ、兄のテープを捨てなくてよかった」です(笑)。
この「EARLY MINIMALISM 1973-78」は年度付けのとおり、新津章夫がプロデビューする前、自宅で多重録音を始めた1973年から1978年までの音源があますところなく収められています。特筆すべきは「I/O」の「未来永劫」「コズミックトレイン」「光のオルゴール」などのデモテープ。「I/O」は自宅にプロ機材を持ち込んで制作したことで知らっれていますが、デモテープは4チャンネルのレコーダーとわずかな機材のみで作られているにもかかわらず、音のクォリティを除けば実際のアルバムと寸分かわらぬ完成度になっていることがわかると思います。
このデモテープを聞いた三浦光紀氏は実際に兄に会うまでは、これがアマチュアが民生器で作った音だとは半信半疑だったというのは、製作スタッフが異口同音に言っていたことです。このあたりは兄をプロデビューさせた岩田由記夫氏が「I/O」のCDに寄稿してくれたライナーノーツに詳しいです。これを読むためにCDを買う価値があると言ってもいいです(笑)。
21歳の新津章夫がどんな音楽を作り、それをどのように昇華させて「I/O」ができたのか。そのメタモルフォーゼの過程を聴いてください。