今日は。
今年2月4日に発表された第66回グラミー賞で、『リボルバー』スペシャルエディション発売にあわせて新たに制作され、2022年11月はじめに公開されたビートルズ「アイム・オンリー・スリーピング」のミュージック・ビデオが、「最優秀ミュージック・ビデオ賞」を受賞しました。
〇The Beatles - I'm Only Sleeping
https://www.youtube.com/watch?v=5XwXliCK19Y
少し間があきましたが、年初のPart1(リンク)に続き、今回はそのビートルズの「ベスト・オブ・アップル・レコード」のPart2です。
<「ベスト・オブ・アップル・レコード」に含まれなかったアーティスト 1:アップル・レコード Part2>
Ⅰ.アップル・レコードのアーティスト
アップル・レコードのアーティスト紹介として、Part1では、「ベスト・オブ・アップル・レコード」に収められたアーティストをご紹介しました。
ここで紹介したのがアップルのすべてのアーティストではありません。
ウイキペディア「Apple Records discography」を参考にして、「アップル・レコード」のPart2として、「ベスト・オブ・アップル・レコード」で扱っていなかったアーティストをご紹介したいと思います。
●Apple Records discography
https://en.wikipedia.org/wiki/Apple_Records_discography#Albums
主に、アルバムだけを発表していたアーティストたちは次の通りです。
1.MJQ
1952年に結成され、当時ジャズ界におけるトップミュージシャンの一つ
2.London Sinfonietta / John Tavener
The London Sinfonietta は1968年にロンドンに創立された英国の現代室内オーケストラ
John Tavenerは前衛音楽崩壊後に活躍したイギリスの作曲家
3.Stelvio Cipriani
イタリアの作曲家で、主に映画音楽を作曲
4.Elephant's Memory
1960年に結成されたアメリカのロックバンド
1971年から73年にかけてジョン・レノンとヨーコのバックを務める
5.Ravi Shankar & Ali Akbar Khan
Ravi Shankarはインドのシタール奏者
Ali Akbar Khanはサロード演奏者
そしてサントラ盤もありました。
● 「Raga」 – 07.12.71
●「El Topo」 – 27.12.71
もし、Part1でご紹介したアーティストと今回ご紹介のアーティスト以外アップル・レコードにいましたら、教えてください。
ⅡCD「ベスト・オブ・アップル・レコード」に含まれなかったアーティスト
それでは、アーティストをもう少し掘り下げたいと思います、
最初は Modern Jazz Quartet(MJQ)です。
1Modern Jazz Quartet(MJQ)
(写真:MJQ)
MJQは、アップル・レーベルのアーティストとしては別格で、1950年中期からジャズ界における第一人者です。
メンバーはvibraphoneのMilt Jackson、pianoのJohn Lewis、double bass、のPercy Heathの4人からなるグループです。
他のジャズグループにはなかった、vibraphoneが印象的でした。
ジャズをあまり知らなかった頃、「MJQ」は「Milt Jackson Quartet」の略かと勝手に誤解していました。((笑)
MJQはアップルに2枚アルバムを残しています。
(1)「Under the Jasmin Tree」
MJQの『アンダー・ザ・シャスミン・ツリー』はアップルとしては例外的な、しかも強力なアルバム。
(写真」:ジャケット)
68年12月にリリースされたMJQの最初のアルバム「Under the Jasmin Tree」の冒頭の"The Blue Necklace" を聞いてみましょう。
〇The Blue Necklace (2010 Remaster)
https://www.youtube.com/watch?v=xjQ3bI9wVxs
正直いって、アップル・レコードにはMJQは、あまりしっくりしないようにも思えました。
ポール・マッカートニーがMJQとジャムセッションでもやりたくて彼らを「アップル」に呼んだのだろうか?などど邪推したりしました。
『ビートルズ帝国 アップルの真実』(ステファン・グラナドス 中山啓子訳)を読んで彼らがアップルと契約した理由がわかりました。
(写真:ビートルズ帝国)
彼らがアップルのオファーを受けたことは異例の出来事。
リーダー ジョン・ルイスが契約を結んだ経緯を明らかにしています。
「長年契約していたアトランティック・レコードの契約更改期にアップルと契約を交わした。
アップル・レコードの社長ロン・キャスは私たちのマネージャー、モンティ・ケイの古くからの友人だった。
だから私たちはロン・キャスをよく知っていた。
私たちはロンがスイスに滞在した時に夕食を共にし、その時に契約のことが話題にのぼった。
そこで、モンティ・ケイが話を決めた。
わたしたちは契約については何も考えたことがなかった。音楽に没頭していたんだ。
当時の契約は大らかで、わたしたちはアップルと契約しながらも、他社でレコーディングすることもできたが、アップルでは結果的には2枚に留めた。
私たちはニューヨークで『アンダー・ザ・シャスミン・ツリー』をレコーディングし、そのマスターテープをアップルに渡した。」
「アラン・アルトリッジのデザインによるカラフルな後期サイケデリック風なカバージャケットに収められた『アンダー・ザ・シャスミン・ツリー』は
いかにもジャズ界のトップグループにふさわしい傑作だったが、アップルのカタログに加えるに不似合いなアルバムだった。」
「アップルは、MJQとジェイムズによる2枚のアルバムがクオリティに優れているだけに、アメリカでもイギリスでもヒットしなかったことに肩を落とした。」
それでは、「Under the Jasmin Tree」全曲聞いてみましょう。
●「Under the Jasmin Tree」 68年12月リリース
(Side one)
"The Blue Necklace" – 4:52
〇The Blue Necklace (2010 Remaster)
"Three Little Feelings (Part I)" – 3:48
"Three Little Feelings (Part II)" – 4:59
"Three Little Feelings (Part III)" – 5:18
〇Three Little Feelings (Part I, II, III)
https://www.youtube.com/watch?v=6UOeGBCbEBo
(Side two)
"Exposure" – 9:17
〇Exposure (2010 Remaster)
https://www.youtube.com/watch?v=pEEb_vfgVLk
"The Jasmin Tree" – 5:10
〇The Jasmin Tree (2010 Remaster)
https://www.youtube.com/watch?v=Tq0RG8lUo7g
(2)「Space」 69年10月 リリース
(写真:ジャケット)
『ビートルズ帝国 アップルの真実』はMJQの2枚目アルバムの状況についても書いています。
「10月にMJQのアップルにおける2枚目で最後のアルバム『スペース』がリリースされた。
(このアルバムは)3月にイギリスでレコーディングされていた。
だが、MJQとアップルの接点となったロン・キャスがレーベルを去ったいま、アップルは彼らには関心を示さなかった。
したがって、MJQが「スペース」リリース直後にアトランティックに復帰した時もアップルには驚きはなかった。
ジョン・ルイスの回想
「ヨーロッパツアーを行い、その最後にロンドンで数日かけて、『スペース』を録音した。
セッションはトライデント・スタジオで行い、ピーター・アッシャーが立ち会った。音楽監督はもちろん私だった。
私たちがアップルで作った2枚のアルバムは非常に気に入っている。
2枚とも私たちのベスト・アルバムに加えられると思う。
ビートルズは会社経営にのり出していて苦労していた。
そしてロン・キャスが去ったことで私たちの契約も終わった。
私たちはジョージ・ハリソンと一度だけ顔を合わせた。
ドラマーぼコーン・ケイがあるアルバムで共演していたから、ある日ジョージがトライデントに立ち寄ったんだ。
だが、他のビートルズとは面識さえなかった。
だからロンが去った後は、アトランティックに戻ることにしたんだ。」
●「Space」
ジョンルイスが非常に気に入っているというアルバム「Space」全曲聞いてみましょう。
(Side one)
"Visitor from Venus" (John Lewis) – 5:40
〇Visitor From Venus (2010 Remaster)
https://www.youtube.com/watch?v=3Kbx4ID0f00
"Visitor from Mars" (John Lewis) – 7:18
〇Visitor From Mars (2010 Remaster)
"Here's That Rainy Day" (Jimmy Van Heusen, Johnny Burke) – 4:20
〇Here's That Rainy Day (Carnival Of Flanders)
https://www.youtube.com/watch?v=H7UZNk10-AA
(Side two)
"Dilemma" (Miljenko Prohaska) – 5:48
〇Dilemma (2010 Remaster)
https://www.youtube.com/watch?v=BgCpvB8y7uc
"Adagio from Concierto de Aranjuez" (Joaquín Rodrigo)
〇Adagio From Concierto De Aranjuez (2010 Remaster)
冒頭にポールがジャムをしたがったのでと書きましたが、契約後にジョージだけがMJQに会っているんですね。
ここでは、書かれていませんが、調べていたら、ジョージはどうやらMJQのメンバー(Percy Heath - double bass、Connie Kay - drums)とジャム・セッションをしているんです。
Percy Heathがいいます。
ジョージがジャズのレコードを作りたいと1日演奏した。
彼のインプルビゼーションはよかった。
残念ながらその時のテープはオープンになっていません。
MGQとジャムしたのは、ポールではなくジョージでした。
(写真:ジョージ セッション)
●— George Harrison jamming with the Modern Jazz...
https://harrisonstories.tumblr.com/post/76449099361/george-harrison-jamming-with-the-modern-jazz
(WRITERS 4補足)
アーティスト自身が作品を気に入っているにも関わらず、セールスは伴わなかった。
よくある話ではありますが・・・。
ですが、MJQをアップルから発売する必要があったのでしょうか?
詳しくはありませんが、僕は以前からMJQは知ってはいました。
ですが、僕はこの二枚のアルバム ジャケットを初めて見ましたし、今回初めて聞きました。
このアルバムはジャズらしいジャズで僕好みです。
ただ、1960年代末期から70年代はアコースティックではなく、エレクトリック・ジャズが全盛になってきていたと思います。
マイルス・デイヴィスはより多くのエレクトリック楽器を導入し、エレクトリック・ジャズ・アルバム『ビッチェズ・ブリュー』をヒットさせていました。
同作に参加した多くのミュージシャンも、独立してエレクトリック楽器を導入したバンドを次々と結成していました。
ぼくもJazzが詳しいわけではありませんが、この頃チック・コリアの「リターン・ツー・フォーエバー」やジョー・ザヴィヌルの「ウェザー・リポート」が台頭してきていたのは知っています。
そんな中で、MJQの2枚の秀作は埋もれていたのかもしれません。