ゴールデンレトリバー・ルナ物語・78
IT技術、業界はドッグイヤーだ、というような言い方がされる。人が約80年生きるのに対して、犬は15年生きることが出来れば長寿。特に中・大型犬は、10年生きれば、あとはいつでも天に召されうる。
つまり、犬の一生は、ヒトの一生に比べて、5倍~8倍で過ぎていくので、時の流れが速いこと、進歩が速いことをドッグイヤーという。
さらに、犬は一日に15時間程度眠るので、活動時間はさらに少ない。我々は、ルナのそんな貴重な一刻一刻を、共有していることになる。その時間を、ルナの人生を大切にしたい、してやりたい、しなければならない、という気持ちが湧き上がってくる。2004年12月にルナが我が家にやってきて、あっと言う間に6年が経った。ドッグイヤーなので、人の人生に換算すると30年以上が経過したことになる。
改めて思う。ルナを引き取って良かった。いや、ルナに来てもらって良かった。我々がルナの人生に貢献するよりも、ルナは我々の生活を、人生を豊かにしてくれてきた。間違いない。
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このエッセイを書き始めて、1年半が経過し、78回となり、今回が最終回となりました。これまで、読んでいただいた方々に感謝いたします。犬を飼うというのはどういうことか、どういう覚悟が要って、しかし、どういう喜びがあるかをお伝えしたい、と念じて執筆してきました。犬を飼おうと考えられたら、一度は飼い主を失った犬のことを考えてみて下さい。その犬たちを引き取ることもご検討下さい。
犬たちは間違いなく、皆さんの人生の豊かに彩ってくれるに違いありません。
ルナは最近、毎週月曜日に、糸島市小金丸のウエランカラという施設に通っています。ウエランカラのホームページは以下の通りです。
http://www.ueramkarap-itoshima.com/indexnew.htm
そして、ルナたちが楽しく過ごす様子は次のURLで見ていただくことが出来ます。
http://ueramkarap.blog54.fc2.com/blog-date-20101220.html
ウエランカラのスタッフに皆さんが撮影される画像は素晴らしいので、我々自身で撮影することはめっきり少なくなってしまいました。
このエッセイを書くことを勧めてくださった、高橋清泰さんに心より感謝申し上げます。
それでは、皆さん、長い間有難うございました。
【原澤泰比古プロフィール】
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ゴールデンレトリバー・ルナ物語・77
「やっぱり、雨になると、わんこたちのテンションは上がらないのよねえ。」
田中先生が、呟いた。先生の犬たちに対する意見には毎回感心させられるので、次に何を語られるのだろう、と集中する。
「わんこたちには、やっぱりにおいがとっても大事でね。自分の周りの状況、近くに何があるかについて、かなりの情報をにおいで得ているから、雨が降ると、においがわからなくなってしまって、周りについての判断がとても難しくなってしまうのよ。だから、どうしても、気分が乗らないし、行動が遅くなるねえ。」
なるほど、我々、人間は眼から入る情報が最も重要で、次いで、耳から入る情報なのと比べて、犬はにおいが重要ということだと理解出来た。つまり、たとえて言えば、雨の日の犬は、我々が暗闇で行動を強いられるのに似ていることになる。確かに、テンションが下がるわけだ。
水遊びに一段落をつけると、ランチの時間になった。いつものように、田中先生が工夫して、昼食を用意して下さっている。その手間ひまは大変なものなので、参加する者がそれぞれ用意すればいいように、思うものの、集まった皆で、同じものを食べながら、語り合おう、というのが田中先生の基本的な考え方だ。
少しずつ雨が上がって来た。食後、しばらく休憩をとってから、林の中を歩き始める。基本的には、リードを外して犬たちには自由に歩かせながら、歩を進める。他人と出会う可能性がある場所では、田中先生の指示でリードをつけ、そのような場所を過ぎると、またリードを外す。
普段、自宅の周囲では全くリードを外すことはないルナにとって、自由に歩き回れる至福の時間だ。田中先生は、街の中でリードを外すことに強く反対される。しかし、このような自然の中ではリードを外すことを許可して下さる。犬たちは、自然の中では自分の周りの状況を正確に判断し、危険を避けることが出来る。これに対して、街の中では、必ずしも、危険を避けることが出来ないので、車道に飛び出して轢かれてしまうようなことが起こり得る、と解説してくださる。
林の中の道には、落ち葉が重なっていて絨毯のようになっている。歩き方によっては、我々は滑りかねないので、注意を要する。林の右側が、崖になっていて、犬たちは、平気でその崖を駆け降りる。戻ってこれなくならないか、と心配になる。しばらくすると、ずっと先から、ルナがひょこっと顔を出して、駆けて戻って来る。
「こういうことは大丈夫なのよ。まあ、もし、帰ってこれなければ、それがその犬の限界かな。」
などと恐ろしげなことをあっさりと言ってのけられる。自然の中での犬の判断、犬の振る舞いを熟知し、信頼しての発言だった。
【原澤泰比古プロフィール】
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ゴールデンレトリバー・ルナ物語・76
早春というにはまだ寒い2月下旬、田中先生は山歩きを企画された。我々は勿論喜んで参加することにした。
ルナとのキャンプ、山歩きなどに出掛けるようになって、防寒具、長靴などが必要になった。近年、長靴など履くことがなかったので、買い求めなければならない。インターネットで調べたり、デパートや、スポーツ用品店、さらに、登山用具を扱っている店にまで出向いて、ようなく調達した。
今回の2月の山歩きは、水に入ることがある、と説明を受けていた。まだまだ2月なので、十分に寒さに耐える用意をして出掛けた。ルナにもダウンジャケットを着せた。ツナの淡いゴールデンヘアーに、薄いブルーのダウンジャケットがよく似合う。
集合場所に車で集まって後、一列になって目的地に向い車で移動した。車を駐車させ、田中先生から今日の予定を聴き、歩き始めた。生憎、細かい雨が降る状態で、天候が良いとは言えない。我々はめげずに、皆で前進した。
小川に出た。小川はそこで、幅広くなっていて池のようになっていた。細かい雨が降って来るものの、空は明るく、やわらかい光が注ぎ込んでいたのが救いだった。
田中先生が、水の中に入ってみて、と我々を促す。ルナは、少し怖気づいた様子を見せた。ほら、入ってやって、と妻が言う。わかった、と答え、私は、入ろう、とルナに声をかけて、まず、私が入った。入ってみようかな、とルナがついてくる。このあたりは、臆病というか、慎重だ。
私は歩くことが出来ても、ルナは脚がつかない場所があり、泳ぎ始める。ルナは水の中でも私について回る。一人で動き回る様子は見せない。池の向こう側の岸に上がらせようとすると、まず私が上がって見せなければならない。足場が悪いので、私も滑りかねない。体重移動に注意しながら、上がってみせ、ルナもついてくる。
「どう、今日は」
「楽しいか」と
ルナに声を掛ける。何言ってんの、とルナは私を見上げる。ルナは本当は喋ってみたいのかなあ、答えてみたいんじゃないかなあ、と思う。
【原澤泰比古プロフィール】
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