(物語)
商業面では、軍の給養の為もあり、次のような布告が方々に貼り出されました。
ーーー
布告
『災厄の為に都市を追われた平和なモスクワの職人、労働者の諸君、故なき恐怖の為に未だに野に散らばり、おののいている農民の諸君に告ぐ❗️
首都には平和が蘇り、秩序は回復されている。
諸君の仲間達は、安全が保証だれているのを知り、勇躍して避難所から出て来ている。
彼らの生命と財産を脅かす一切の暴力は、直ちに厳罰に処される。
偉大なる皇帝であり、国王で有る陛下は、市民達を保護し、命令に従わぬ者以外は、諸君の誰をも敵とは見なされない。
陛下は諸君の不幸を絶ち、諸君を諸君の家と家族の元に戻す事を望んでおられる。
陛下のご意向に答え、安全を保障されている我々の下に来たれ。
住民諸君❗️安心して諸君の住居に戻りたまえ、諸君は早急に諸君の欠乏を満たす方法を見出すであろう❗️
職人並びに勤勉なる工員諸君❗️諸君の職場に戻りたまえ。
住宅、商店、警邏隊(けいらたい)が諸君の帰るのを待っている、そして諸君の労働に対しては瀬戸うな報酬が支払わねるので有る❗️
それから農民の諸君、恐怖の為に隠れた森の中から出て、保護を見出す事を確信し、安心して家に戻りたまえ。
農民諸君が余剰貯蔵物と農作物を売る事の出来る市場が、市内に解説されている。
諸君bんい自由販売を保証する為に、政府は次の施策を定めた。
①本日より、農民、農場主及びモスクワ近在の住民は、一切の危険にさらされる事なく、いかなる種類の農作物をも、指定の2市場、即ちモトワーヤとオホートヌイ・リヤドに持ち込む事ができる。
②その農作物は、売り手と買い手の合意に夜値段で売買される。
ただし、売り手が要求する正当な値段が認められぬ場合は、売り手がそれを村へ持ち帰る事は自由であり、何者もいかなる理由におってそれを妨げる事は出来ない。
③毎週、日曜日と水曜日を大市と定める。
したがって火曜日と土曜日に、荷の安全を保障するに足る警備隊が、全ての大街道に都市関門内外かなりの距離に渡って配備される。
④帰路も、農民達の荷と馬に危険が及ばぬよう、同様の処置がある。
⑤正常な取引市場復活の為に早急に対策が講じられるはずである。
都市及び農村の住民諸君、工員及び職人の諸君、国籍のいかんを問わず、全ての諸君に、偉大なる皇帝であり国王である陛下のご意向を体し、公共の福祉達成に協力する事を呼びかける。
尊敬と信頼を陛下の足下に捧げ、ためらう事なく我々の下に来たれ❗️』
ーーー
軍の士気と民心の昂揚の面では、絶えず閲兵が行われ、褒賞が与えられました。
皇帝は馬で市中を巡視して、住民達に優しい言葉を掛け、そして国事に追われている身であるにもかかわらず、自分が命じて開かせた劇場を自ら訪ねました。
勝利者の最良の美徳である慈善の面でも、ナポレオンは自分に出来る全ての事を行いました。
彼は方々の慈善施設に『我が母の家』と記した表札を掲げる事を命じ、その行為によって人の手としての優しい感情と徳篤い君主の偉大さを融合させました。
彼は養育院を訪ね、自分が救ってやった孤児達に白い手を差し伸べて接吻を許し、院長トゥトルミンと優しい談話を交わしました。
その後で、彼は自軍の兵士達に自分が作ったロシアの贋造(がんぞう)紙幣で俸給を支給する事を命じたのでした。
しかし、食料品は、他国の、しかも大部分は敵意を持っている民衆に与えるには、余りにも貴重だったので、ナポレオンは民衆に金を与え、市外で自由に食糧を手に入れさせる方が得策だと考えていました。
そこで彼は、難民にルーブリ紙幣を支給する事を命じたのでした。
軍紀の面では、勤務の不履行に対する厳罰と、略奪行為の絶滅についての各種命令が絶えず出されました。
ーーーーー
(解説)
ここは、ナポレオンがモスクワで行なった、主に商業面での改革ですが、一見すると理想的な事が記載されているように見えます。
しかし、まず、農民達に自分たちの余剰農作物についての自由売買が記載しておありますが、戦争を行っていて、農作物の余剰というものが『今の時点で』あるのか❓という問題点がちょっと頭に浮かびますね。
実際、ナポレオン自身が、自分達を敵視している民衆に食糧を分けるのは馬鹿らしいから、偽造紙幣を印刷してそれを配る、としていますね。
よって、農民達の自分の農作物の売買の権利は『絵に描いた餅』のようにしか思えませんね。
しかも、食糧困難の理由が、フランス軍のモスクワ侵攻及び略奪にあるのですから、このような布告を住民達がアッサリ受け入れるとも思えませんね。
そして、何よりも経済に深刻な打撃を与えるのが偽造紙幣をばらまいている点ですね。
一応、ナポレオンの理論では自分が皇帝であり国王陛下であるのですから、ばら撒かれた偽造紙幣は有効とも思えます。
しかし、買うような食料品も無いのに、紙幣が一体意味があるのか❓しかも偽造紙幣が膨大に発行されれば、ものすごいインフレーションが起こり、物価が高くなって、尚一層住民は暮らしにくく、モスクワには戻らないのでは無いかな。。という気もしますね。
さらに、戦争の決着がはっきり付いていない以上、ナポレオンが動けば動くほどモスクワにとって、従来の経済機構と新しい経済機構のどちらに従ったら良いのか。。❓と、むしろ商人達は活動を控えるように思います。
自分が、どちらかの経済に従って行動して後でそうでは無かった場合の損害が掴みにくいからですね。
また、ナポレオンが布告を出した所で、今までの占領とは違って、ロシア政府も取り込めていない以上、ロシア政府の連名がないような命令は従い難いのではないでしょうかね。。
ロシア人にとって、皇帝はあくまでもアレクサンドル1世でしょう。。普通。。皇帝は全国民の『心の拠り所』である以上そう簡単に乗り換えることは出来ないように思うのですけれどね。