戦争と平和 第3巻・第2部(18−2)ピエール、広場でのフランス人笞刑執行の場面を見て戦争に行く | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

占いはうまく行きましたが、ピエールは軍へは行かずに、人気の無くなったモスクワに留まって何か恐ろしい事の到来を待っていました。

翌日の夕暮れ近くに、公爵令嬢は去って行きました。

そして入れ替わりに総支配人が到着して、連隊の軍装用として命じられた資金を調達するには、領地を1つ手放す他は無いと言う報告をピエールにもたらしました。

これに限らず、と総支配人は、連隊などと言う気紛れをやたら起こしたら、財産を潰してしまうに違いない、とピエールに述べ立てました。

 

ピエールは、やっと苦笑を隠しながら総支配人の話を聞いていました。

「じゃ、売ればいいじゃ無いか。しょうがないよ、この非常時に断るわけにゃいかん❗️」

全般の情勢が、特に自分の財政状態を悪化して行くにつれて、ピエールは待望の破局の接近が次第に明らかになって来るので、益々気分が爽快になって行きました。

もう、ピエールの知人はほとんどモスクワに残っていませんでした。

ジュリィは去ったし、公爵令嬢マリヤも去りました。

親しい知人の中で残っていたのはロストフ家だけでしたが、ピエールは同家を訪ねませんでした。

 

その日ピエールは、気晴らしの為にヴォロンツォヴォ村に大気球を見物に出かけました。

これは敵を撃滅させる為にレービッヒが作ったもので、そのテストの気球が明日飛ばされる事になっていたのでした。

この気球はまだ完成していませんでしたが、皇帝の希望で完成が急がれていると言う事でした。

皇帝は、この気球について、次のようなフランス文の書簡をラストプチン伯爵に寄せていました。

 

『レービッヒの用意が出来次第、意思堅個で頭脳明晰な軍人達より成る乗組員を編成せよ、そして直ちにクトゥーゾフ 将軍に急使を派遣し、それを予告せよ。なお、レービッヒには、最初に降下する地点に特に意を払い、誤って敵の手に落ちる事無きよう、くれぐれも申し伝えよ。彼をして、その行動を総司令官の行動と呼応させるよう万全を期させる事が肝要である。』

 

ヴォロンツォヴォ村からの帰途、ボロートナヤ広場に人垣が出来ているのを見て、ピエールは馬車を止めて降りました。

それはスパイの罪を宣告されたフランス人のコックの笞刑が執行されていたのでした。

笞刑は、今終わった所で、刑吏が処刑台から唸っている男を解いてやっている所でした。

痩せた、青白い、もう1人の罪人が、その側に立っていました。

痩せたフランス人の怯えた苦痛の表情を見て、ピエールは人垣を押し分けて進みました。

「どうしたんです❓何者です❓何をしたんです❓」と、彼は尋ねました。

しかし群衆は、台上で行われている事にすっかり飲み尽くされていたので、ピエールに答える者は居ませんでした。

 

太った男は立ち上がると、燗の強い大人大人達が泣くように、自分で自分に腹を立てながらわあわあ泣き出しました。

そしてピエールには、それが各自自分の胸の中の憐れみを消す為のように思われました。

「どこかの公爵家のコックだよ。」

群衆は、痩せた男の服を脱がせる刑吏に怯えた目を見張っていました。

 

ピエールは鼻の中がジーンと熱くなって、顔をくしゃくしゃにすると、急いで馬車の方へ戻りました。

ピエールは、笞刑に処されているフランス人と、それを取り巻いている群衆を見て、これ以上モスクワに留まる事は出来ない、直ちに軍へ行こう、と固く決意したのでした。

それを御者に言ったような気がしたし、それ位の事は御者が自分で察知するのが当然とも思い、御者を罵り散らかすのでした。。こんな事は彼には珍しい事でした。

「家へやれと言ったはずだ、早くやらんか、間抜けめ。今日のうちに発たにゃならん。」

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(解説)

はい。この部分のピエールの心情は難しいと思います。

さっき公爵令嬢から、ラストプチン伯爵が民衆に、『怪しい者は警察に突き出すように、そうしてくれた者には褒美をやる』と言った結果の民衆の暴徒化とラストプチンの言っている事が法の支配や人権に反するのだ、と言う指摘を受けたばかりのピエールですね。

 

フランス軍がモスクワへ間も無く攻めてくるだろう。。と言う時に、ピエールは軍務に就くべきか否か迷ってるんですよね。

ピエールは、平和主義者なのですよ、それにね、恐らく太っているから軍人になって馬に跨っているって言うのもどことなく滑稽な男なのですね。

それにね、彼はフランスにずっと留学していて、フランスの啓蒙思想に触れているのですね。

さらに、ピエールは、絶対王政を倒し、フランスを民主国家に導いた(❓➡︎これは恐らくピエールの誤解の部分がある。)ナポレオンを尊敬しているのです。

だから、ナポレオン率いるフランスとはあまり対峙したく無いのですね。

 

彼は呑気に、軍事用の気球の実験を見物に行き、その帰りにモスクワのボロートナヤ広場にて、フランス人の男性2人が笞刑執行され、それを群衆が見物しているシーンに出くわします。

彼はそれを見て『戦争に、今すぐ軍に行かにゃならん❗️』と思ったと言う事ですがその真意は❓一体なんなのでしょうか❓

ロシアを愛する民衆が、スパイ容疑だと、フランス人を突き出したから❓これって愛国心から❓それとも褒美が欲しいから無理やり理由をつけて突き出したの❓

果たして、ピエールはこのシーンに『愛国心』を見出したから自分も軍に行って頑張らにゃあ〜と思ったのでしょうかね。。

なんか、ちょっと違う気がするんですよ、私は。

 

多分ね、市民達は、この処刑現場を恐ろしいと思いながらも、その光景に特に疑問も感じていないと思うのですよ、それが群集心理というものだから。。

ピエールは、フランスかぶれの部分はあるのですが、生粋のロシア人です。

でもね、ピエールはね、恐らくモスクワ市民とは別の目でこのフランス人への鞭打ちの刑を見ていたと思うんですよ。

だって、古代ローマ時代じゃあるまいし、この男が敵国のフランス人であって、本当にスパイだったにせよ、ですよ、このような刑罰執行の場面を大衆に晒すって、どうなんですか❓と、思ったんじゃ無いのかな。

これは、明らかに『異常な事』として彼の目に映ったと思うのですよ。

絶対君主制下のロシアだって、普段だったら、法の手続きを取っていたでしょうし、人権に対する配慮もあったでしょう。。アレクサンドルはそんな皇帝だったと思いますよ。

それをラストプチンのビラ1枚によって『超法規的』に人を罰している場面なんですから。。

だから、普段だったら人の良い気質のロシア人が、ちょっとおかしくなっている、その『戦争の正体』を見ようじゃ無いか、と言った所では無いか、そのように考えてみました

 

ピエールという人間を観察した場合、この、恐らくはフランス人というだけで捉えられて体罰を受けているシーンをね、ピエールはロシア国民として好意的に見るでしょうかね。。

彼は、この恐ろしげな場面を『Why❓』と見た、と見るのがトルストイの意図であり、ピエールらしいと思うのですよね。

 

ピエールは、この戦争というものはひょっとしたらトンデモない物では無いか、だったらそれをこの目で確かめたい。。と思ったと思うのです。

 

(追記)

後出・第3巻・第3部(27−1)ピエール、ナポレオンを暗殺する使命があると認識する。と言うチャプターで、初めて、ピエールのこの広場での出来事を見た心情が描かれています。

そこには、この場面及びおそらく戦争全体というものの不幸(ここでは笞刑に処されているフランス人ばかりでは無く、そんな光景を見物している本来は温かい国民性のロシア市民達)を考えると、何か自分も動かねば、という衝動に駆られた、という心情が描かれています。