入会したスポーツジムの水泳プログラムに参加してみた。練習メニューが決まっているというのはとても良い。前後を泳ぐ人に合わせながら、手足を動かしながら、本の続きを想像していると、メニューをこなすことができる。そう、この本は、結構続きが気になるうえに、もう一度読み返してしまう。えっ、こんなことに・・・・。

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雪の晩にアーシュラは、この世に生を受けます。二度目でこの世に無事着地。せっかく生を受けても、長生きとは言い難く、5歳で海で溺死してしまいます。

 

そう、アーシュラは何度も人生をやり直しているのです。そして前世を記憶して、危険を回避しようとしているわけでもなさそうです。それでも、子供の頃のアーシュラは、次に起こることがわかると言って両親を困らせ、精神科医のカウンセリングを受けさせられます。医者は輪廻転生について語り、脳の障害にも言及しますが、明確な答えは得られないまま大人になります。大人になったアーシュラは、人生の岐路において、既視感や第六感によって、あるいは偶然にも、前の人生とは違う人生を選択していきます。

 

第二次世界大戦中に、航空機で出撃が決まった弟テディと、防空巡視員となったアーシュラが、命について交わす会話です。

 

テディが「人間に人生をやり直すチャンスが与えられたら、正しく生きられるまで何度でも繰り返されたら素敵だと思わない?」

 

アーシュラは「考えただけで疲れそう」

 

既に何度も人生をやり直していることを、アーシュラ本人は知りません。

 

正しく生きられるまでとは・・・・。

 

(以下ネタバレ)

アーシュラの父ヒューは、第一次世界大戦に従軍し、塹壕の中の生死に地獄をみた一人です。母のシルヴィは、イギリスの郊外でアーシュラを含め四人の子供を育てます。


少女時代のアーシュラの危機は、兄モーリスによるところが大きく、暴れん坊のモーリスのいたずらや、そしてモーリスの行儀の悪い友人もアーシュラを深く傷つけ、その人生を決して明るくないものにします。優秀だけれど酷薄なモーリスは、アーシュラの人生に何回も、兄妹として関わります。どうやら、生まれ変わっても、家族のメンバーや、生まれ持った気質は、変わらないということです。姉のパメラは知性的。そしていつでも優しくアーシュラの心の支えになり、可愛い弟達ジミーとデティに、アーシュラが寄せる愛情も変わっていません。叔母のイジーも、家族と大きく関わる人物です。自由奔放な生き方を貫くイジーは、どんな場面でもアーシュラの味方として存在します。

 

さて、大人になったアーシュラは、危険を回避する能力を、自分の第六感と信じて、生き抜こうとします。何故なら、アーシュラは第二次世界大戦に遭遇することになるからです。戦争による死は、アーシュラの人生で避けられない事実として、何回人生をやり直そうとも、その死がつきまといます。第六感によって、がれきの中での死が避けられたとしても、その先に、また死が待っています。ドイツに留学したアーシュラが、後にイギリスと敵対することになるドイツ人と結婚したとしても、然り。それどころか、留学先の家族と近しい人によって、ナチスに関わることにもなります。

 

もっとも、アーシュラが結婚するイギリス人も、嘘つきで虚栄心が強い小者で、暴力でアーシュラをねじ伏せようとします。この結婚生活の悲劇も、死をもって結末を迎えます。

 

というわけで、アーシュラの人生は岐路が多すぎて、こんがらがった糸を紐解きながら、自らもその人生をたどることになります。死と隣り合わせの戦争はもちろん、その結婚生活においても、彼女の人生は枝分かれしては、死をもって終わります。そしてアーシュラにとって正しい人生とは、戦争や暴力によって命を落とさないこと、この役割を自分に課したのが、最初のシーンにつながると理解しましたが・・・・。

 

人生のやり直しという荒唐無稽な話を、ここまで壮大な物語に仕上げる作家の力量に圧倒されます。そして戦禍を生きるアーシュラが、無意味で無慈悲な戦争の悲劇を、あらゆる場面で語っていることに、また圧倒されます。お勧めの一冊です。