著者は、私の知らなかった沖縄を教えてくれる。テンペストを読んだ後に、小説のイメージで見た首里城がとても良かった。まさかその後に消失することになるとは・・・・。
祖母の漣オバァが倒れたという知らせに、三姉妹は沖縄に駆け付けます。そして弁護士が開示した遺言状に、狂喜乱舞したのは、年間地代収入5億2千5百万円の土地の相続権でした。但し、土地の相続人になるためには、漣オバァの父石嶺賢治が発見した秘宝を探し出すことが条件でした。奇しくも三人には5億円が必要な事情が生じていたのです。
祇園の舞妓から始まり、銀座の女帝にのぼりつめた汀。その経営手腕は見事としか言えません。
汀は一度会った客のことは絶対忘れません。どこの国の客にも,その国の芸能でもてなす汀。 とりわけボーイの質にこだわり、外資系ホテルマン、百貨店の外商勤務,三星レストランのソムリエ、外資系エアラン男性客室乗務員をスカウトしていきます。そして他人の客は奪わず、関西や中国、そして中東の富裕層を相手に一流の店にしたてあげます。公認会計士の隼人はクラブ汀の頭脳といわれるほどで、銀座の女帝が目論む、保証金5億円の路面店進出に、陰で暗躍してくれますが・・・・。
泉は水中考古学者。日本では、トレージャーハンター扱いされる水中考古学は、クラウドファンディングやTEDで研究費を募り、海外から出版した著作や講演、そして企業からの協賛金で、研究費を賄っています。東洋のバミューダ海域トカラギャップで渦に巻き込まれた泉は、過去の遺物を引き上げられる深海潜水艇を買うことを決心します。ところが、資金援助をとりつけていた大富豪の資産が凍結され、新たな5億円のスポンサー企業を探さなければなりません。あまり根性があるとは思えない弟子の新垣とスポンサー探しに奔走しますが・・・・。
グラビアアイドルから、ぶっちゃけトークアイドル、そして現在は新宿歌舞伎町で地下アイドルとして活躍する澪。そんな澪にふってわいた映画主演の話は、芸能界の表舞台に立つチャンスでした。しかし、映画のスポンサーが不渡りをだして、製作が中止となります。マネージャーの五十嵐も、澪が地権者となって5億円を相続することが、芸能界復帰への唯一の切符、この機会を逃せません。
漣オバァの父であり、三姉妹の曾祖父の石嶺賢治は、海神の墓の研究をしていました。戦争中に、家族を台湾に疎開させる為に、那覇から石垣島に渡ります。しかし、石垣にある海神の墓の調査のため、家族より遅れて台湾を目指しますが・・・・・。
こうして三姉妹の秘宝探しが始まります。曾祖父の写真に写る海神の島とは?その秘宝とは?争奪戦の火ぶたがきられます。
曾祖父の研究や、その身に起こった出来事、沖縄の歴史を紐解きながら、秘宝を手繰り寄せようとします。
台湾の家族を追って、軍用船に乗り込むために賄賂として使った馬天ノロの黄金の勾玉。あるいは、邪馬台国の謎に迫ろとしていたに違いないと交易品としてのゴホウラガイ。そして太陽信仰の象徴になる鏡の内行花文鏡。三姉妹と秘宝探しに巻き込まれていく腹心の男達も、5億円に魅入られ臨戦態勢で協力しますが、それにしては相手の罠にはまってしまうところなど、強靭な精神をもつ姉妹よりも軟弱で笑えます。
そして、ついに、海神の島の所在が明らかになります。汀は、銀座の女帝の底力で中国共産党を動かし、泉は、知的探求心でアメリカ海軍を手玉に取り、澪は、芸能人魂で、防衛相を篭絡します。互いを出し抜こうと、それぞれのやり方で秘宝に近づいた三人は、そろって禁断の島に立ちます。
海神の島と秘宝については、ここでは明かさないことにします。
さて、この物語は、三姉妹が色恋沙汰などとは無縁どころか、男たちを手玉に取って使い走り、あるいは蹴落として頂点を目指そうとする職業意識が、破天荒な冒険を駆り立てます。それに、彼女たちが秘宝と定めた勾玉やゴホウラガイそして青銅鏡など、3種の神器じゃあるまいしと思いながらも、沖縄の歴史との関わりを説明してくれて、色々ためになります。また、基地反対派への違和感の正体も暴いてくれます。世の中の矛盾と共生できずに、自分の人生を充実させない人や孤独な人が宗教的な存在となって派閥をつくるという姉妹の見解はお見事、説得力があります。そして、基地の地権者は、もちろん基地反対派ではないということです。
(以下ネタバレあり)
さらに、この物語のすごいところは、神聖なる人類の種の前で、平然と行われる愚行に警鐘を鳴らしていることです。三姉妹が争う基地内には、ノッチと呼ばれる沖縄の海岸線にみられる腰が括れた岩礁、ここで海神の墓と呼ばれるものがあります。太古の海洋航路として、沖縄人の起源にも関わる重要なノッチ。そのノッチのある土壌が赤土だったのです。海神の島に不法投棄されたドラム缶を目にした泉が、基地の赤土が土壌汚染であると察知しますね。アメリカ軍が秘密裏に処理しようとする不都合な真実は、基地内にも、海神の島にもあったということです。そこに廃棄されていたというのが正しいでしょう。領有権を巡り一触即発の争いの種となっている海神の島、ここでも人類の秘宝は無言でその姿をみせつけます。そう、人類の秘宝とは、なんとなんと神秘的なことか・・・・。
もっともっと書き残しておきたいけれど、忘れるということもまあ仕方ないのかな・・・・。お気に入りの一冊ですが、こんなもんで。