首都圏国公立大学・工学系4年生のZくんが、研究室に入室して、約3か月(4月~6月)がすぎました。

当ブログでは、「高校生が理工系の志望大学を考えるときは、大学院修士卒、つまり学士4年+修士2年 を前提に」 という方針で、ずっと記事を書いてきました。
Zくんは、もう自大学の大学院への進学が「内定」。
えっ? 大学院に「内定」があるの? 
以下、2018年7月某日、Zくんに取材※1 した内容を、農工大・工学部&工学府※2 のデータにそって、筆者がアレンジした記事です。

よくある質問は、文末にまとめました。

●1 なぜ「6年間」が必要か?
P: Zくんは、大学受験前から、大学院・修士までの6年間を前提に、志望校を選択して合格。大学院は、自大学の大学院への進学を決めました。

農工大・工学部では約8割(他大学院進学含む)が、進学します。
Zくんは、ずっと院進学の決意は変わらなかったの?
Z: ぼくは、Pさんや親類の話を聞いていて、「そもそも理工系なら大学院・修士」がデフォルト。そのためにも、自宅から通える大学から、志望校を決めました。

P: 都会だと、自宅から通える範囲でも大学を複数選べるから、いいよね。

Zくんのこれまでの3年間は、以前の記事でまとめています。

Z: 実際、4年生になって、研究室に入り、3か月でようやく、「研究室に慣れた」段階です。このペースで、「来年2月までに、まともな卒論が書けるかな? あれ、専攻の知識も全然身についてないし…」と、つくづく思いますので、プラス2年の余裕は大きいですね。
P: もし、学部4年で卒業となると、学部3年後期から、
・1~3月 直前インターンシップ(短期インターンシップ)や大学内外の説明会を回って、企業を絞り込み 
・3月~6月 学内ルートだと、企業への応募はだいたいこのころ
です。

研究室での勉強(Q1)と並行して、就活をするわけですよね。
Z: ただ、研究室の同期にも学部卒予定が一人いますが、修士2年の先輩と同様、あれ? いつ就活してたの? 状態でした(Q2)。

●2 プラス2年のコストパフォーマンスー対AIの武器を身に付ける
P:学部卒と、修士卒の「就職のしやすさ」をくらべると、たとえば、農工大・情報工学の学部/院だと ↓
http://www.cs.tuat.ac.jp/qa/#1q40
になります。
Z:  ↑ やはり、ぼくも就職したい企業となると、修士卒の方に多いですね。
P:当ブログでは、文系も含めた就活について「就活S」シリーズで書きはじめましたが、そこでのキーワードは「対AI」です。
理工系のみなさんは、修士2年まで勉強することで、今後も、より高度に「AIを使いこなす」「AIを創る」側にたてるわけですので、地方大学での大学院進学率※3 も、ますますアップすると思います。
ただし、プラス2年間の学費(約110万円)と、大学院の「入学金282,000円」※4 、あと2年間の生活費はかかります。
できれば、大学受験前に、4年間か? 6年間か? は、親御さんと話し合っておく方が良いというのは、お金の要素がとても大事だからです。
なお、試算に当たっては、他大学の大学院進学も考えるなら、4年間私立大学+2年間国立大院(けっこうあり)、4年間他地方+2年間地元(首都圏の進学高校では、確実に現役合格したい生徒には、後期で地方大学受験をアドバイスしているそうです)、逆に4年間首都圏地元+2年間地方の旧帝大  などのパターンも考えられます。
途中で、変更ができるのは、4+2制のメリットですが、他大学の院を受験するかどうかは、3年後期の研究室選択ともかかわってきます(Q3)。
高3受験生のみなさんのためには、来年の2次出願前に、また記事にする予定です。

●3 試験には2種類ある
P: まず、「平成 31 年度 4 月入学 東京農工大学大学院工学府博士前期課程(修士)学生募集要項 」(PDF)
https://www.tuat.ac.jp/documents/tuat/admission/nyushi_daigakuin/youkou/31_4_t_m_youkou_ja_2.pdf
にそって、日程をみましょう。
 ★1 出願期間  6 月 1 日~ 7 月 20 日  
ただし、筆答試験免除を希望する場合は6月7日までに、出願する必要があります。
この「筆答試験免除」に似た制度が、Zくんの大学・学部・学科にもあって、今回、Zくんは、
 ★2「筆答試験免除通知」(6月18日)
 ↓
 ★3 口述試験(7月2日)
 ↓ 
 ★4 7月6日(口述試験 結果発表。口述試験合格=大学院合格が「内定」)
の、「内定」段階にいるわけですね。

一方、「筆答試験免除」を希望しないか、免除されなかった場合は、
 ★5 8月16日・筆記試験(英語・数学など)
 ★6 17日・専門科目筆記・口述試験
を受験して、
 9月7日に合格発表 ★7。
Z: ぼくたちも、9月7日・正式合格となるわけです。大学合格のときは、すぐ合格通知。ついで書類が届いたんですが、今回(★4 7月)は掲示板で受験番号を確認しただけなので、実感がないですね。

●4 いわば推薦入試? 口述試験のみ の入試とは?
P: 農工大の場合は、
「筆答試験免除を志望する場合には、成績証明書あるいは、業務・業績報告書(社会人特別入試)に基づき筆答試験免除の資格判定を行う。有資格と判定された者は口述試験を受験」
と、農工大・内部の学生でなくても、「一定以上の成績と認められれば」、筆記免除になると書いてます。
ただし、どれくらいの成績がボーダーで、希望者のうち何人が、筆記免除になったかは、公表されていないようです(見つかりませんでした)。
Z; ぼくの研究室では、歴代先輩(進学希望者)の約半数が、「筆記免除」だったようで、今年の学部4年も、院志望者の50%が「筆記免除」でした。
実は、出願後すぐ(★2の筆記免除の通知前)に、研究室のスケジュールに「院試・口述対策」(Z,B…)などと、名前が書かれたので、選挙速報みたいに開票率0%の段階で、「当確」表示されたような気分になったのを覚えています。
P: 自大学の学生(以下、内部生)の場合、たとえば「成績の上位30%は、筆記免除」とか、当然内規はあるので、研究室の先生は当確かどうかわかってますよ。
そもそも、なぜ「筆記免除」制度があるのか? についてはあとで触れますが、Zくんの所では、「口述試験受験対策」を、研究室でやってくれたわけですね。
Z: ほかの研究室はどうなのか分かりませんけど。★3 口述試験・受験経験者の先輩(有志)のアドバイスで、卒業研究に向けた、現段階での構想と、それに関連した専門知識を問かれることが多いので、専門用語を説明する訓練などを1回やりました。
あと、研究室の先生との個別ミーティングが1回。こちらは、「口述試験対策」ではなく、あくまでも、先輩とのトレーニング? の報告と、卒研構想についてのアドバイス なんですが。
P: 内部生の場合、口述試験の「試験官」はすべて、学科の先生。研究室の先生も「試験官」の経験はおありでしょうから、不正にならないよう、逆に気を使うでしょうね。
Z: 先輩のアドバイスで、当日は、やはりスーツを持っていって、研究室で着替えて、集合場所に集合。
試験会場(学科の会議室)には、学科の先生が10人くらい並んでいました。
前の人のときは、扉ごしに笑い声も聞こえてきたので、以前Pさんが言ってた、楽勝モードかな? とも思ったんですが、僕の番になると、「卒論構想のこの箇所、論理が飛んでない? 」とか、「専門用語◎◎について誤解してない? 」とか、指摘が飛んできまして、わずか10分足らずなんですが、これはGame Overかな? と覚悟して帰宅しました。
P: 筆者にもそんな報告がきたので、「院進学についての質問はなかった?」と聞いたよね。
Z: 途中、「★3 口述試験に合格したら、自大学院への進学を確約できますか? 」という質問があって、「かならず進学します」と答えました。
P: 試験官のみなさんが聞きたかった質問は、本当はこれだけでしょう。

けど、当ブログで前に書いたように、これから卒論発表会とか、インターンシップ(修士1年)や就活本番での面接とか、「人生でもっとも苦しかった20分」の第二幕、三幕はまだまだありますから、その練習として、先生もあえて厳しくされたと思います。
なにより、Zくんは、1年前の、インターンシップ面接(学部3年 1回目)のときのことは、「記憶がない」状態でしたが、今回はけっこう覚えてますよね。
それから、Zくんから、今日、卒論構想(研究室秘をのぞく)を聞いたら、夏休み前の段階にしては、けっこうまとまっている感じはしました。

それで逆に、先生たちは指摘がしやすかったのかも。
専門分野は違っても、同じ○○工学科の先生なので、卒論発表会などでも、学生の発表の弱点を突いてこられます。

「三匹の子豚」のように、わらの家(卒論)、板の家(修論)は簡単につぶされ、レンガ(博士)でも、蹴破る勢いです。



 

●5 自大学進学の特典?
P: そもそもなぜ、筆記試験免除制度があるか? といえば、大学当局としては、
(1)成績上位の学生の「囲い込み」
(2)成績上位の学生の「研究」をすすめる
のねらいがあると思います。
Z; 囲い込み ですか?
P: もし大学受験(一般受験)みたいに、「筆記試験の成績だけ」で、全合格者が決まるなら、自大学の成績上位者は、どうせ院試の勉強するなら、他大学も受けてみようと考えるかもしれません。

実際は、Q&A3に書いたように、先に「指導教官」を探して入室許可してもらう必要はありますが。
教官も、「より優秀な学生」が来るのは歓迎のはずです。
他大学の学生だと、「成績証明書」だけでは、中学の内申書同様、本当にその学生に「学力」があるか分からないので、筆記をうけさせる意味がありますが、自大学の学生で、成績上位なら、その必要はないですよね。
成績下位の学生には、もう一度まじめに勉強してもらい、基礎力をチェックします。

他大学からの受験組と競走ですから、点数次第では不合格の可能性があるわけです。
その間(7月上旬~8月)、上位の学生は、どんどん卒業研究をすすめてもらいたいと。
Z: 実際、「口述試験」対策で、多少でっち上げの部分はありますが、研究構想はだいぶまとまりました。
もう、実際の作業もはじめました。
P: 指導する側の視点にたつと、「学力」は必要最低条件で、大学院では「研究力」が、より重要になります。
Z: 前に、Pさんから聞いたみたいに、学部3年までの3年間は、授業を受ける立場でしたが、4年では、いきなり「まず卒論のネタになる研究論文を探せ」と言われて、GW前までは、ネットや大学図書館で、いろいろあさっていました。
P: Zくんは、いくつかアイディアを出したけど、全部先生に論破されて、結局「○○をやってみないか? 」という先生の提案を受けたそうだね。
Z: ぼくは、エンジニア志望なので、「来た球を打つスタンスでもいいかな?」 と。でも、打つからにはヒットを狙いたいですが。
P: 学部(卒論)だと、来たボールにバットを当てるだけでも大変ですよ。
でも、先生も3年間いっしょに研究してくれる弟子だから、それなりのテーマ(5~15年先につながるようなテーマ)をくれるわけです。

★6の口述試験でも、すでに3か月同じ研究室にいる内部生については、指導教授も最初から院進学前提ですが、せいぜい数回あっただけの外部受験生への「口述試験」だと、ほかの先生も含めて「面接」に近い感じになるかと思います。
筆記試験の成績が良く、指導教官もOKしているときは、あまり落とされないという情報もありますが。
http://www.minako01.xyz/entry/2017/01/26/020747

Zくんのこれからの2年半は、研究と発表がメインになるわけですので、京都大・五味先生(2014年当時・2018年現在 国立環境研究所)の
「メッセージとストーリーのない発表はカスだ!」を、最後にご紹介しておきます。
http://keigomi29.hatenablog.com/entry/2014/02/11/140251
Z: 高3受験生のみなさん、大学受験はゴールではなく、入り口です。

大学院も、たぶん就職もそうだと思いますが…。

【付録】よくある質問とその答(大学・学部・研究室でまったく違います。あくまで、例です)
Q1:研究室では自分の研究以外にどんな勉強をするのですか?
A1:配属研究室の研究の基礎になるような「専門書」(英語の場合も)を読む「輪講」は、やっているところが多いと思います。
 ↓ は農工大・電気電子 田中先生の研究室案内
http://web.tuat.ac.jp/~ytanalab/3nensei.html
ちなみに、↑ の田中研究室の1年間のスケジュールに 8月「夏休み」と、さりげなく書いてありますが、学部3年生までのような、9月下旬までの「夏休み」は、実質ないということです。
土日休日、盆と正月以外は、たいてい研究室(論文執筆やプログラミングなどは自宅作業可能ですが)。
コアタイム制(10時~4時は原則、在室)の研究室もあれば、自由(ただし、夜遅くまで明るい某研究棟、研究室…珍しくありません)。
Q2:理工系の「就活」スケジュールは?
A2:ぼく(Z)は3年生でインターンシップにも応募したので、ついでに? 1月の学科内就職説明会にも参加しました。
ぼくの学部・学科の場合、10月~2月にかけて、企業面談会(3桁 時間刻み)が学内で開催されていますし、求人票にも有力企業がならんでいますので、「そこから選ぶ」なら、あまり、企業研究に時間はかからないと思います。
就職希望の場合は、3月に、就職担当教授との個別面談がありますので、それまでに絞り込をして、アドバイスをもらうようです。
4月からの、研究室の先輩(修士2年)、同期(学部4年)の動向ですが、4~6月に、いれ替わりで1~2日「休みます」の連絡があったので、「ああ、就活かな? 」と思ったくらいです。6月上旬でみんな「内々定」(らしい)。10月1日の「内定」で、就職先の企業名公開でしょうか? (聞けば、教えてくれるとは思いますが)。
ただ、現在の修士2年の先輩は、夏休みの長期インターンシップには応募もされなかったようですが、今年の修士1年は、応募して、50%が参加、に変わりましたので、やっぱり来年はぼくも、夏インターンシップ・リベンジかな? と思ってます。
Q3:他大学の院を受験する場合の注意点はありますか?
A3:4年生の6月の出願時点で、自大学のA先生の研究室所属。一方で、他大学のB先生に、遅くとも出願前には「指導教官」になってもらわないと、出願すらできません。
・参考:千葉大学HP 出願のステップ
  http://www.se.chiba-u.jp/admission/schedule/step.html
A先生とB先生との関係(研究分野が同じだと知り合いの可能性大)に注意するとか、逆に、今の専攻とあまり関連のない研究をしている研究室を志望するなら、完成度の高い「修論構想・研究計画」を提示する必要があります。
Q4:他大学院受験で、筆記試験の内容と対策は?
A4:農工大・工学府の場合は、過去3年分がWEBに載っています
 http://web.tuat.ac.jp/~tkakomon/
千葉大学は、過去3年分を、窓口で閲覧可能(コピー・撮影不可)。など、各大学で違います。
同じ専攻で難易度の近そうな大学院の過去問を、できるだけ集めて解いてみましょう。
研究室訪問のときに、頼めば、コピーさせてくれる可能性もあります。

BGM:Zくん選曲 大原櫻子 「青い季節」
  P選曲 「Red Swan」(YOSHIKI ピアノバージョン)
写真3点提供:Pixabay
※1 7月下旬 山手線・恵比寿駅近くの韓国料理店で、Zくんに取材。就活Sで紹介したサッポロHD(恵比寿ガーデンプレイス)とは、駅を挟んで反対側(西側)です。ちなみに、恵比寿西には防衛装備庁・艦艇装備研究所もあります。なぜ、代官山エリアに「船」の研究所が? という疑問がわきましたが、実は川崎市の山中にもやはり「艦艇装備研究所」の施設がありまして、その謎の答えは ↓
http://hamarepo.com/story.php?story_id=4827
※2 大学院での工学府という呼び名は農工大だけだと思ったら、横浜国大、九州大など、他にもありましたね。農工大の場合、「研究院とは教員が所属する研究組織、学府、研究科とは学生が所属する教育組織」、ということらしいです。

就活もそうですが、固有名詞の間違いには注意しましょう。企業名、商品名とかですね。
ちなみに、Sさんの知人で、文系大学院を受験した方が、筆記試験のときに「河合雅雄」(京大名誉教授・霊長類学者)と、河合隼雄(京大名誉教授・心理学者 お二人は兄弟)の名前を書き間違えてーーー結果、不合格だったそうです。
※3 信州大学の例 電気電子工学部(約2/3が進学)、情報工学部(1/3)と、学科でも違いはありますが。
http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/engineering/eict/future/
※4 大学院の入学金約30万円は、大学院1年前期の授業料267,900円 といっしょに、3月に払う必要があります。国立大生の親御さんは、これまでの3年間、授業料だけはらってきたので、「入学金」は、盲点かもしれません。3月にあわてないように。