「アウリスのイピゲネイア」エウリピデス作品集IIより | サーシャのひとり言

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エウリピデス作品集より
「アウリスのイピゲネイア」

トロイアの王子パリスに連れ去られた(自分から)スパルタ王妃ヘレネを取り戻す為、彼女の夫メネラオスはテュンダレオスの誓言を理由に、かつての求婚者達の軍勢をアウリスに集めました。
しかしいつまでたっても風が吹かず出航できない為、兵士達の不満が募ります。
すると予言者カルカスが「これは女神アルテミスの怒りによるものだ。それを解くには軍の総司令官アガメムノンが娘のイピゲネイアを生贄に捧げなければならない。」と神託を告げるのです。
(別話ではアガメムノンが狩の最中に、アルテミスを怒らせるような事を言ったので悪疫が下されてともあります)

アガメムノンはメネラオス、オデュッセウスと相談。

オデュッセウスの計略でアガメムノンは「イピゲネイアをアキレウスと結婚させる為に連れて来るように」と王妃クリュタイムネストラに偽りの手紙を出しますが、そのあとで後悔してそれを取り消す手紙を逡巡しながら書く場面で始まります。
(結婚のダシに使われたアキレウスはこの事を知りません)

取り消しの手紙を老僕に渡すもメネラオスに見つかって激しく責め立てられるアガメムノン。
そうこうするうちイピゲネイア、王妃クリュタイムネストラ、まだ赤ちゃんの王子オレステスが到着してしまいます。

父アガメムノンと久しぶりの再会をしたイピゲネイアが実に無邪気で可愛らしい様子に描かれます。

左からアキレウス、クリュタイムネストラ、イピゲネイア、アガメムノン

我が子と神託の狭間で涙を流す兄アガメムノンを見て、メネラオスが折れます。
ヘレネの為にイピゲネイアを生贄にしてはいけない。

しかし結局、アガメムノンは神託の通りに娘を生贄に捧げる決意をします。
神託に背いた事が、この事を知るオデュッセウスとカルカスから漏れて、兵士達が反乱を起こす事を恐れたのです。

結婚話は偽りだと知ったクリュタイムネストラは夫に激しく抗議します。
前の夫タンタロス(アガメムノンの従兄弟)を殺してクリュタイムネストラを無理矢理妻にし、前夫との子供も殺害したアガメムノン。
にも拘らず、クリュタイムネストラは貞節を守りアガメムノンに尽くしてきました、それなのにメネラオスがヘレネを取り戻すために何故娘を殺さなければならないのか、と。

真実を知ったアキレウスも義憤にかられ、イピゲネイアを守ろうと尽力してくれます。
しかしその姿を見てイピゲネイアは死ぬ覚悟を決めます。
〜このお方、アキレウス様が1人の女子の為に全てのアルゴス勢と戦って死ぬなどということがあってはならない、アルテミスの神慮に逆らわずヘッラス(ギリシア)の為に犠牲となります。〜と。




しかし、いよいよ祭司が剣を取って振り下ろそうとした時・・
振り下ろした筈の場所にイピゲネイアの姿は無く、一頭の見事な鹿が血だらけで喘いでいました。
少女の健気な気持ちに打たれたアルテミスが、イピゲネイアを救い神々の元に連れて行ったのでした。
半信半疑のクリュタイムネストラをよそに、アガメムノンらがひとごとのように喜んで終わります。

左上のアルテミスがイピゲネイアの身代わりに鹿を寄越すところ。

こちらの絵では左に牝鹿が描かれています。




イピゲネイアの物語はこの後、「タウリケのイピゲネイア」に続きます。