「トロイアの女たち」エウリピデス作品集IIより | サーシャのひとり言

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Kindle版からI、IIと出ているエウリピデス作品集。


IIに収録されている「トロイアの女たち」は、トロイア落城直後が舞台。
プリアモス王も殺され、後に残った女性達は籤引きで主人を決められ奴隷として故国トロイアから連れ去られます。
主に王妃ヘカベーの嘆きを中心に据えながら、主だった女性達のその後が語られます。



王妃ヘカベーの娘ポリュクセネはアキレウスの墓の生贄として殺されます。
(アキレウスの亡霊がギリシア軍に現れ、ギリシア軍の船が本国に戻る為に必要な追い風が吹くにはポリュクセネを生贄に捧げなければならないと告げた為。アキレウスはポリュクセネが好きだったのです)

ブロンドル「王妃ヘカベーとポリュクセネ」
ヘカベー自身は「嫌らしい奸智に長けたオデュッセウス」の奴隷となる事が決まります。


「ポリュクセネの略奪」
アキレウスの遺児ネオプトレモスが、アキレウスの墓への生贄に王女ポリュクセネをすがりつく王妃ヘカベーから奪う場面。ネオプトレモス、鬼です!


プレボ「ポリュクセネ」
アキレウスの墓の前で生贄にされるポリュクセネ。
亡くなってからもわがまま過ぎるアキレウス!



王妃ヘカベーのもう1人の娘カサンドラ。

カッサンドラ症候群の名前の由来がギリシア神話のカッサンドラ。トロイアのアテナの社の女祭司でした。
アポロンから予言の力を貰うも彼の愛に応えなかった為に、「誰もカサンドラの予言を信じない」という呪いを受けます。
アポロンですら触れなかったこのカサンドラを、アガメムノンは敬神の念も顧みず無理矢理、自分の隠し妻にしてしまうのですが、未来が見えるカサンドラはこの婚姻からのちのアガメムノンの死、アトレウスの家の滅亡、母殺しの闘争が始まるのだ、父や兄弟の仇を討つのだと喜んで狂い踊ります。

一方、トロイア落城の際、小アイアスが自分の社で自分の女祭司カサンドラを凌辱した事に激しい怒りを抱いたアテナは、それまで味方をしていたギリシア側を帰還の途上、苦しめてやることを決意、ポセイドンの協力を取り付けるのでした。

イーヴリン・ド・モーガンの「カッサンドラ」
狂女と言うよりは、彼女の言っていることを誰も理解できなかったので狂っていると思われたのでしょうね。



ヘカベーの長男ヘクトルの妻アンドロマケは、ヘクトルを殺したアキレウスの遺児ネオプトレモスのものにされます。
ヘクトルを忘れることなんて出来ない!と嘆くアンドロマケに姑のヘカベーは言い聞かせます。
「愛しい嫁御や、ヘクトルの不幸は諦めなさい。
そなたが泣いても生き返りはせぬ。今の主人を大切にしなさい、そしてそなた本来の優しさで夫の心をとらえるのです。」

在りし日のヘクトルとアンドロマケ。


しかしヘカベーとアンドロマケに新たなる悲劇が。
「勇士の子供を生かしてはおけぬ」というオデュッセウスの意見でアンドロマケの幼い息子アステュアナクスは城壁から投げ落とされます。


アンドロマケは息子の遺体を葬る時間も与えられず、急いでネオプトレモスと共に出航させられます。
ヘカベーにも残された時間は少ないものの、ヘクトルの盾に載せて運ばれた可愛い孫の遺体を精一杯埋葬するよう指示を出します。
ヘカベーがオデュッセウスの船に連れて行かれる途上、トロイアに火が放たれて劇は終わります。






トロイア戦争の原因になったヘレネは10年ぶりに前夫メネラオスと再会。
メネラオスの前で「自分は悪くない」と理路整然と申しだてをするヘレネの度胸の座ったこと!

スパルタに戻って厳しく罰すると言い渡すメネラオスにヘレネの元姑ヘカベーは釘を刺します。
「彼女と同じ船で帰らないように。
いつまでも忘れぬのが恋じゃ。」

紀元前の話とは思えないほど、言っていることは今に通じていますね。