「狂えるオルランド」(2) 第1巻-1 アリオスト著、脇功 訳 | サーシャのひとり言

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名古屋大学出版会から出ているアリオストの「狂えるオルランド」。

全2巻からなっています。

装丁はえんじ色のクロス張り。最近余りクロス張りの本にはお目にかからなかったので、手に取るだけで気分がアップしました。

 

 

第1巻はボイアルドによる未完の「恋するオルランド」を引き継いで、オルランドが東の果てのカタイから美女アンジェリカを伴ってピレネーの山裾で陣を張るシャルルマーニュ大帝のもとに辿りついたところから始まります。

アンジェリカが配下の騎士たちの争いの元となるのを嫌ったシャルルマーニュ大帝は彼女をバヴァリア公に預け、異教徒との合戦でより大きな活躍を見せた騎士への褒賞とすると命じます。

しかし、予想に反してキリスト教徒の軍勢が劣勢となったため混乱に乗じてアンジェリカは逃げ出しここから一大絵巻が広がって行きます。

 

 

さて、魔法あり、ヒポグリフあり、怪物ありと、言わば面白そうな話を山ほど集めてこれでもかと詰め込んだこの物語詩。

一つの話の流れが終わらないうちに必ず「さて、この続きは後程に」という感じの決め台詞で次々と別の場面に移っていくので、あたかも織物を織る様にと言いますか、万華鏡を回すかのように様々な物語の展開が交錯する構成を取っています。

 

第1巻で中心となるのは

①カタイの王女で絶世の美女アンジェリカを巡る騎士たちの争い。

シャルルマーニュ大帝の甥であるオルランドやリナルドらキリスト教徒の他に、カフカスの王サクリパンテやスペインを支配するイスラム教徒の王の甥フェッラウなど並み居るイスラムの王侯貴族たちも皆彼女に夢中。

 

彼らから逃げ出したアンジェリカは海に出て故国へ帰ろうとしますが、道を尋ねた老人の隠者までもが彼女に心奪われます。隠者は悪鬼を呼び出すと彼女の馬に取り憑かせて、見知らぬ寂しい海岸におびき寄せるのでした。

邪な思いに取りつかれた隠者と2人きりで危機一髪!のアンジェリカですが、突然現れた島民(アイルランドの果てのエブーダ島)により捉えられてしまいます。

この島の民は毎日一人ずつ美貌の乙女を海の獣に生贄に出すことになっており、そのためにあちらこちらで美女を拉致して回っているのです。

かつてこの島の王女がプロテウス(ポセイドン神の息子)により懐妊したのを怒った王が、王女と孫の首を刎ねたため、プロテウスが海獣に住民を襲わせたことに端を発するこの生贄に捧げられる羽目に陥ったアンジェリカ。

 

岩に縛り付けられているところへ、たまたま通りかかったルッジェーロ(この当時はまだイスラム側の騎士。エステ家の祖でリナルドの妹ブラダマンテと結婚する。)がヒポグリフに乗って通りかかり彼女を救出します。

 

 

ところが、助け出した後、呆れたルッジェーロは愛しいブラダマンテの事をすっかり忘れてアンジェリカに迫ろうとします。

アンジェリカは魔法の指輪を使い(元々彼女の物だったがアルブラッカの城内でブルネルに盗まれ、そのブルネルから奪ったブラダマンテを経由してルッジェーロが持っていた。海獣の目をくらます光の楯を用いる際に、彼女の目がつぶれないようにルッジェーロがアンジェリカの指にはめた)姿をくらますと(指輪を口に含むと姿が消える。最強のアンチ魔法の力も持つ指輪)、一人で故国へ旅立ちますが、その途中に出会ったイスラム側の貧しい一兵士メドーロと恋に落ち、羊飼いたちの立ち合いのもと、結婚式をあげるのでした。

(どちらかというと、アンジェリカが傷ついたメドーロを看病するうちに好きになり結婚する運びとなった感じです)

 

アンジェリカを探し求めるために、イスラム教徒との戦いも放り出して放浪していたオルランドは、偶然立ち寄った森で、アンジェリカとメドーロがあちこちの木に彫った2人の名前(要するにラブラブの2人は相合傘を書きまくっていたのですね。木としては迷惑な話…)を見て大ショック。

何も知らない羊飼いから2人が結婚したこと、宿を借りたお礼に宝石の散りばめられたバングルを貰ったことを自慢され(そのバングルはオルランドがアンジェリカにプレゼントしたもの)、

愕然。

2人の相合傘の字をめちゃくちゃにした後、3日間倒れ伏し、3日目に起き上がった時には正気を失ってしまいます。身に着けていた物の具を全て引きちぎり、裸で暴れまわるオルランド。

イスラム教徒との戦いを投げ出してアンジェリカばかりを追っていた事に対する神罰とも言えますが、狂気に陥ったところで第1巻は終了。

 

裸で周囲を破壊するオルランド。

 

 

モテモテで男の人なんてイヤ!と言っていた王女アンジェリカが自ら選んだのは、財産も無く剛力でもない、しかし心の優しいイケメン・メドーロ。

そし失恋のあまり、中二病の少年並みに暴れまわるオルランド伯爵。

とても今風のストーリー展開です。

 

 

第1巻はこちらのエピソードを中心に

②イスラム教徒と、シャルルマーニュ大帝率いるキリスト教徒の戦い。

中でも単身でパリに飛び込んだアルジェ王ロドモンテの引き起こす凄惨な殺戮がこれでもか、と語られます。

 

③ルッジェーロをアフリカで手塩にかけて育てた妖術使いのアトランテが、夭折する運命にある育て子を危機から救うために己の手元に戻そうとあの手この手を計画する。

そして、危機管理能力に欠けたエステ家の祖ルッジェーロは次々にその手に引っかかるものの、しっかり者の恋人で男装の麗人ブラダマンテの努力により助け出されます。

 

このアトランテの試みの一つがヘンデルのオペラにもなった「アルチーナ」のエピソード。

ルッジェーロを1日でも長生きさせたい育て親アトランテは、彼に戦いの事を忘れさせる為に、魔法で美女に変身した老魔女アルチーナの島におびき寄せます。

(ルッジェーロより前に、既にアルチーナの魔法に捕らえられ、甘い生活の後飽きられたアストルフォは木にさせられています)

魔法の力で、愛するブラダマンテを忘れ魔女アルチーナの宮殿で腑抜けた生活を送るルッジェーロ。

ルッジェーロを探し求めるブラダマンテの切望に答えた良き魔女メリッサ(マーリンの物言う墓に居る)は彼女から託された魔法の指輪の力でアトランテの姿になり、彼を教え諭します。

更に、アルチーナの真の姿(歯が抜け落ちた土気色の老女)を見て魔法が溶けたルッジェーロは城を抜け出す事に成功するのでした。

 

 

次回、第1巻のもう一つのエピソードとして、やはりヘンデルがオペラ化している「アリオダンテ」を取り上げます。