テオフィル・ゴーティエ「クラリモンド(死霊の恋)」 | サーシャのひとり言

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kindleの青空文庫にあったテオフィル・ゴーティエの「クラリモンド(死霊の恋)」岡本綺堂訳を読みました。
何となく名前だけは知っていた本。


内容は耽美な吸血鬼ものです。

今はもう66才となった老人が、かつて自分が経験した恐ろしくも甘美な恋の思い出話をするところから始まる。
少年の頃から聖職者になることを夢見、努力してきた青年ロミュオーはとうとう僧職の授与式に臨むことが決まる。
胸を躍らせながら出席した教会の儀式でロミュオーが偶然顔を上げるとそこには得も言われぬ美しい女性が立っていた。
いきなり世界が変わったように感じ恍惚とするロミュオー。
見知らぬ女性は眼で聖餐盃を受けるのを止めて自分と愛し合ってくれと刺すように願うが、儀式は続きロミュオーは司祭となる。
憧れていた職業、しかし、既に彼には後悔しかなかった。

司祭として赴任したロミュオーだが高級娼婦である美女クラリモンドの事が思い出され、一向に仕事に幸福感が感じられない。そんなある晩、高貴な重病人が出たとの知らせに臨終塗油式に向かうが、そこで既に死亡していたのは夢に見たクラリモンドであった。
生きているかの如く美しい彼女の死体に聖職者であることを忘れてロミュオーが口づけをすると、なんと彼女の瞳が開く。ロミュオーは気を失い三日間眠り続ける。

目覚めたロミュオーを訪れた僧院長セラピオン師は、彼の様子を窺いながら、酒宴と乱行の果てに娼婦クラリモンドが死亡したこと、彼女は吸血鬼や悪魔と言われており、死んだのも今回がはじめてではないと話し警告する。
しかし、その忠告も自分の職責も忘れ、ロミュオーはやがて迎えに来たクラリモンドと共に僧院を後にし、2人はヴェニスで豪奢な放蕩生活を送ることになる。

一方どんなに愛に溺れても、毎夜司祭として懺悔し、減罪の苦行をする悪夢にうなされる。
やがて、死に瀕するほど体調を崩したクラリモンドが、果物ナイフで怪我をしたロミュオーの血をすするとたちまち健康体になり、遂に彼女の吸血鬼としての本性が知れる。

それでも彼女を愛することをやめられず悩むロミュオーを連れてセラピオン師はクラリモンドの墓を暴く。美しいままの死体に聖水を振りかけると彼女はたちまち灰となった。

しかし、いまだに彼女を失ったことを後悔しているという言葉で老人は話を終えたのだった。



吸血鬼ものは多くありますが、聖職者になる直前でヴァンパイアに一目ぼれをし、以後自分の職責と愛情のはざまで苦しむというのが設定の魅力です
ね。

クラリモンドの描写も非常に詩的で美しく、純粋にロミュオーを愛している様子は可愛らしくもあります。
そして、師に救ってもらいながら、生涯後悔が止まないロミュオー。
怪奇ものというより儚い恋愛ものですね。



原作でも何でもないですけど、マルシュナーのオペラ「吸血鬼」序曲。結構ワクワク感高し。