「ヨーロッパをさすらう異形の物語 上」
サビン・バリング=グールド 著
池上俊一 監修
村田綾子、佐藤理恵、内田久美子 訳
柏書房
中世の神話や伝説を扱った本。
女教皇ヨハンナが取り上げられているので、読んでみました。
サビン・バリング=グールド(1834-1924)はヴィクトリア朝イングランドの聖人研究家。
一つ一つのテーマについてはかなりさわりに近いものの、大変面白く読めました。
上巻で取り上げられているテーマは以下の通り。
①さまよえるユダヤ人
アハスヴェルスという名の靴屋がエルサレムに住んでいた。
十字架を背負ったイエスが、彼の家の前でその重みに崩れそうになり一瞬休もうとするが、アハスヴェルスは荒々しくイエスを追い払った。
するとイエスは彼を見据えて「私が再び戻ってくるまで、安らぐ糸間もなく地上を彷徨うがいい。」と告げる。靴屋は悔い改めて敬虔なキリスト教徒となるが、以後千年以上にもわたり彼は彷徨い続け、18世紀までヨーロッパ各地で目撃情報が記録されている。
最後の審判の日まで安らぐことのないユダヤ人アハスヴェルス。
このテーマに関してはギュスタヴ・ドレが木版画を残しています。
まとまって見たことはないのですが、最後の審判の日に大地が避ける中、ようやく腰を下ろして靴を脱ぐユダヤ人の絵があるそうで、いつかは必ず見てみたいです。
②反キリストと女教皇ヨハンナ
9世紀に居たとされる(おそらくフィクション??)女教皇ヨハンナ。
16世紀の宗教改革の嵐の中、プロテスタント側の反カトリックのプロパガンダとして、いわゆるアンチキリスト像、黙示録に出てくる大淫婦になぞらえられられる様子が描かれる。
③エペソスの眠れる七聖人
皇帝デキウスによるキリスト教徒の迫害が続いていた時代、エペソスの七人の青年がそれを逃れケリオンの山の中の洞窟に身をひそめる。
皇帝は捜索を続けるが見つからず、やがて372年の歳月が流れた。
キリスト教は広まったが、死者の復活などありえないとする異端の教説がはびこっていた。
ある日、羊飼いが小屋を建てようと洞窟の前の石をどけた途端、中に居た青年たちが目を覚ます。青年の一人、マルクスは町にパンを買いに行き、町中に十字架が掛けられているのを見て驚愕する、昨日までキリストの名を口にするのも憚られたのに…。と
古銭を持っていたので盗賊と疑われるがやがて信じてもらう。
青年たちは皇帝と話をするとそのまま神の御心のままに眠るように息を引き取った。
これは神が若者たちを通して示そうとした奇蹟なのだと人々は涙した。
透明感さえ感じる美しい伝説です。
類似した伝説として併記された「ファールンの眠れる坑夫」の話も気に入っています。
④ヴィーナスの山
タンホイザー関係の伝説など。
面白い!と思ったのは、球技中に指輪が邪魔になり大理石のヴィーナスの指にかけて置いたところ、その後指が曲げられていて指輪が取り返せなくなりヴィーナスに結婚を迫られる話は知っていましたが、聖母マリア像の指にかけて置いたらやはりマリア様が手を握って返してくれなくなり、騎士はマリア様と婚約して修道院に入るという中世の物語。
いや、マリア様、お茶目すぎるでしょうというか、何というか。
⑤聖パトリックの煉獄
アイルランドにあるダーグ湖。
ここには、アイルランドの守護聖人聖パトリックが見つけた煉獄への入り口とされる洞窟がある。その場にはのちに修道院が建てられた。
その洞窟に入って無事に戻ったものは多くはないものの、その煉獄巡礼を成し遂げた者は死後もはや煉獄を必要としないという。
この洞窟は、15世紀終わりにローマ教皇により壊されたとのこと。
など全13話で構成されています。
不死の国を探しに行くノルウェー人エーリクのサガも、草原に浮かぶ建物にはしごを使っていくシーンなどあらすじだけでも美しいエピソードです。
アイルランド、ダーグ湖。ここに煉獄の入り口があったとされる。