大停電の夜に | S A L O N

今年もクリスマスの季節となった。

私はクリスチャンではないが、幼稚園から高校までミッション系の学校に通っていたこともあり、クリスマスには多少の思い入れもある。

ミッション系の学校では当たり前なのかもしれないが…

この時期には“クリスマス会”というようなものが催され、やはり当たり前のように観劇が催された。

(因みに、中・高の時には“聖書”の授業もあり、また中間・期末のテストもあった)

幼稚園の頃に…演目自体の内容は忘れてしまったが、主役級となるマタイの役を演じさせて頂いた。

当時は、おそらくその台詞の内容などほとんど理解してはいなかったものと思うが、その長台詞をいとも簡単に諳んじていたようで(現在では無理…)、その様は母も驚いていたようである。

因みに下の写真は、その母が作ってくれた“マタイ風の”衣装を着て、写真館にて撮影をしてもらった時のものである。

 

 

クリスマスの“お話”というと、私のなかでのベストは、やはりチャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』となる。

その原体験としては、まさに、このマタイを演じた頃あたりに…クリスマス特番TVアニメで見た『クリスマス・キャロル』だったのだが、その後もディケンズの原作本は勿論、それをもとに制作された映画やドラマ、アニメは、この時期の風物詩的な渇望の作品ともなっている。

 

クリスマス・キャロル(原題:A Christmas Carol)』(1984年)

『パットン大戦車軍団』でジョージ・S・パットンを演じ…アカデミー主演男優賞を受賞するも、丁重に辞退をしたというジョージ・C・スコットが、スクルージを演じた1984年製作のテレビ映画『クリスマス・キャロル』を、また見てみたくなった!

 

 

今回は、その『クリスマス・キャロル』関連作品では全くなく…

2005年公開の、源孝志監督・脚本の映画…『大停電の夜に』。

 

大停電の夜に』(2005年)

 

豊川悦司、原田知世、田畑智子、井川 遥、田口トモロヲ、吉川晃司、寺島しのぶ、宇津井 健、淡島千景、品川 徹など、なかなかに豪華でバラエティーに飛んだ顔ぶれが出演し、さまざまな“愛”のカタチのオムニバス的な話を、一つのハートウォーミングな物語として構成している。

また、菊地成孔によるJazzyな挿入曲の数々もなかなかに心地よい。

 

 

始まりのシーンは、ラックからビル・エヴァンスのレコード・ジャケット『Waltz for Debby』が抜き取られ、そのLP盤レコードに針が落される…流れてくる曲は『My Foolish Heart

 

 

私の中では高校生の頃からビル・エヴァンスの奏でるメロディには思い入れがあり…
エヴァンスを語るうえで欠かすことの出来ないと思われるこのアルバムは、私にとっても5本の指に入るくらいにお気に入りの…そして、何度となく様々なシチェーションで聴いてきたアルバムでもある。

そのなかでも何ともいえないメロディ・ラインの『My Foolish Heart』が静かに流れて、この映画は始まる。

 

 

物語はクリスマス・イヴの晩…
12人の登場人物たちにもそれぞれのクリスマス・イヴが始まろうとしていた…そんな矢先…
その存在がマニアの間では実しやかに噂されているという謎の人工衛星…“神”と呼ばれる【GOD】が東京の電力を賄う発電所に落ち、東京は広範囲に亘り停電となる。
色とりどりのイルミネーションや家々の灯り…電力に依存したすべてが一瞬に…
東京がいちばん輝く聖なる夜に…すべての光が消え…暗闇と化す…

 

 

そんな混乱のなか、なぜか登場人物たちは皆、さほど取り乱すこともなく…淡々と…温かく…優しく…柔らかなムードで人間模様が描出されていく…
そう、『My Foolish Heart』のメロディーのようなJazzyな空気感さえ醸し出されている。
確かにツッコミたくなる部分も多々あるものの…
あり得ない設定や展開などが気になったり…
また文句を言おうなどという下世話なことなどはどうでもよくなっていたりもしている。
かえって、そうした設定や展開に心地よささえ感じ…そんな空気感に身を任せて見入っていたりする。
そんな大人の“ファンタスティック・ラブ・ストーリー”な映画なのではないだろうか。
そこから感じ得る想いなどは、この映画を観る人それぞれの、これまで通り過ぎてきた日々や想いなどにより様々だとは思いますが…

観終わった後に心地よい、ホッコリトした脱力感を味わいたい方は是非…ちょっと照明を落とした部屋で、お酒でも飲みながら、この作品をご覧になられてみては如何だろうか。

 

 

この映画の中で重要なアイテムともなる“キャンドル”…
人間にとって目から入る光の刺激によって脳はリラックスや興奮などを繰り返すものである。
確かに、体内リズムなどにより感情が高まる時間帯(午後5時~9時)には性腺ホルモン分泌が高まり…例えば、喧嘩の仲直りや“告白”などによいとされているが…
そのホルモン分泌も、体内リズムだけではなく、(外的)促進要因なども少なからず影響するとも言われている。
それが明るさだったり温度だったり…まぁ、置かれる状況だったり…という環境要因だったりするのだが…
因みに、1ルクスは1cd(カンデラ)の光源から1mの地点の照度で…
1カンデラはロウソク1本くらいの光度に相当するという。
言い換えれば…キャンドル100本でも100ルクス?…
照度としては寝室で40ルクス、居間で100ルクス、食堂で150ルクス程度が必要とされているようだが…
たまには、キャンドル10本くらいの…少しほの暗いと感じる程度の環境で過ごし…語らってみるのも、リラックス効果ということからいえば、日々のライフサイクルにとって必要な時間なのかもしれない。
リラックス・ムードのなかグラスでも傾けられれば…
きっと、少し優しくなれたり…少し愛して、長~く愛せたり…することだろう?
 

 

劇中、夢に破れ…恋に破れた元ジャズ・ベーシスト…現在は路地裏にある流行らないジャズ・バー「FOOLISH HEART」…その店も今宵を限りに閉める決意をし、最後にかつての恋(人)を待つマスターの木戸晋一役を演じていた豊川悦司も飲んでいたメーカーズ・マークでも飲み…ビル・エヴァンスでも聴きながら…

昨年に引き続きコロナに翻弄された一年で、また、まだまだオミクロンなどによる感染の再拡大も懸念されてはいるものの…巷では、だいぶ年末の賑わいも戻っきているなかの2021年のクリスマス…

あなたに素敵なことがありますように…Merry Christmas!

 

 

【酒記】

宇津井 健の演じる国東義一が、車を拝借したお詫びにシートに置いていったお酒は、ザ・バルヴェニー 12年 ダブルウッド。
スコットランドの北部の“スベイサイド”にあるヴァルベニー蒸留所で造られる、大麦の麦芽のみを原材料としたシングルモルトウイスキー。
一方のメーカーズ・マーク(レッド・トップ)は、アメリカのケンタッキー州中部ロレットにあるメーカーズ・マーク蒸留所で造られる、原材料のトウモロコシと、一般的に使用されるライ麦の代わりに冬小麦を使用することで、まろやかな甘みとライトでスムーズな飲み口に仕上げられたバーボンウイスキー。