“緻密な論理展開を見たければ法月綸太郎
さんの作品を読め!”
と言われたりもする法月さん。
05年に第5回本格ミステリ大賞に輝いた『生首に聞いてみろ』は代表作の一つでしょう。
彫刻家の川島伊作が個展の作品を制作中に病死する。
娘・江知佳をモデルとした遺作の石膏像には
かつて一世を風靡した連作との深い関わりが。。
芸術家が死を契機に、不穏な空気が漂い出す。
石膏像の首が盗まれ、葬儀では江知佳が伊作の元妻の再婚相手と一悶着起こしてしまう。
秘密裏に事態を収拾したい伊作の弟・敦志に調査を頼まれた
作中探偵・法月綸太郎が事件の解決を目指す。
果たして首の切断は江知佳への殺害予告なのか?
葬儀の場で江知佳が起こした騒動の原因とは?
そしてついに殺人事件までもが起こってしまう。。
この作品には彫刻という芸術分野の話がよく出てきますが、
決して衒学的なモノでは無く、ミステリの一部として重要になります。
法月さんの嗜好が出ているのはチラッと出てくるギリシャ神話の方ですね(笑)
法月探偵にありがちな展開ではあるのですが、やはり一筋縄ではいきません。
半ば事件に振り回され、何度もはね返されながらも
如何にして解決に辿り着くのか。
中々真相が見えてこず、焦れったさを感じさせる展開の中で現れるあるアイテム。
その瞬間、複雑に絡み合った糸が綺麗にほどけます。
事件の犯人だけではなく、物語の背景まで全てが明らかになる至福の時です。
綺麗な論理展開、そして何よりミステリの爽快感を存分に味わえる名作です。
ネタバレ感想
初読時には流し気味に読んでしまい特別な印象は残らなかったのですが、
後にこの作品が高く評価されている事を知って再読し、見方がガラリと変わりました。
出だしで意味ありげに語られた目を閉じた人物の写真。
閉じられた目からの脱却を試みた川島伊作。
各章始めに挿入される石膏像における目の表現法。
石膏像を作成するにあたって、どれほど目の表現が難しいモノなのか。
そして目を開けた像の不可能性をこれでもかと謳っているのです。
その事を頭の中に叩き込まれた状態で突きつけられる“目を開けた石膏像”。
もうこれはインパクト絶大です。
その瞬間に結子の死、現在の律子の真相。
江知佳が産婦人科を調べていた理由。
石膏像の首が盗まれたワケ。
更には伊作と敦志の兄弟喧嘩の原因。
数々の謎が解明されます。
たった一つの“首”が、たった一つの文章が、作中に散らばり関連性が見えない様々な謎を
繋ぎ合わせ、物語の奥までをも全て照らし出すその瞬間は興奮しました。
閃き、時が止まり今まで読んできた内容がフラッシュバックするような感覚に襲われ、
“やっぱりミステリはこれだよな~”と喜びを噛み締めたモノです(笑)
その他にも、非常に個人的な事ですが、作品の舞台設定が嬉しいです。
実は実家が鶴川にあり、川島家のある町田や作中に地名が出てくる
玉川学園、成瀬、大蔵なんかはよく知った土地です。
実家から徒歩2、3分の近場も出てきて、謎の喜びがありました(笑)
この作品に限らず、自分の知っている場所が出てくると何となく肩入れしてしまうものです。
京大や同志社大出身の作家の方の作品をよく読むので、
あの辺りが舞台となるのはもう慣れましたが、
“まさか鶴川が・・・”と驚きながら読んだ事を思い出します。
感想とは全く関係ないですが、せっかくなので鶴川の観光スポットを紹介しておきます。
鶴川自慢の『旧白洲邸 武相荘』です。
白洲次郎さん・正子さん夫妻が実際に住んでいた家が見られます。
入場料が千円と少々高いですが、家の中にも入れ、当時の雰囲気をそのままゆっくり楽しめます。
鶴川を訪れた際には是非立ち寄ってみて下さい。
