『除夜を歩く』 有栖川有栖 | ぱぶろの読書感想文

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読了したミステリ小説の感想文をアップしていきます。
たま~に他の事も書くかも。。

これも有栖川有栖 さんの江神二郎の洞察 に納められている作品ですが、
他8作品とは違うのが書き下ろしという点です。
つまり、新しい。収録作品の中で最も古いのが『焼けた線路の上の死体』1986年
それに対し最新がこの『除夜を歩く』2012年ですから、実に25年も違います。

読んでみると、やはり最近の作品だなという雰囲気はありますが、
この2作品を同じシリーズの一部として比べてみても見事に並び立つのが驚きです。

『除夜を歩く』を簡潔に表すならば
『江神シリーズ』ファンが待ち望んでいた1本”
と言えるでしょう。

これまで短編・長編と数々の作品が世に出ているシリーズですが、
意外と主人公のアリスと探偵である江神部長が存分に語り合うというシーンはありません。
勿論、この2人だけで語るシーンは多々あるのですが、
アリスは江神部長の事を知りたいと思いつつも、
どこか彼に対して距離をとってしまう傾向があります。

この作品でも思い切り踏み込むという事は出来ていないのですが、
それでも長時間を2人だけで過ごした故の会話の多さと
若干遠まわしながらも切り込んでいく姿勢から、
アリスの欲求が強く表れるシーンもありました。


さて、内容はというと・・・舞台は大晦日の京都。
入学以来多くの時間を共にし、夏には一生消える事の無いであろう傷を共有した
EMC(英都大学推理小説研究会)で過ぎる年を送り、
新年を迎えたいと思うアリスが江神部長の下宿先を訪れます。
望月織田の両先輩は帰省している為、アリス江神部長の2人で
あれこれと語りながら過ごすというモノです。


まず出だしが最高です。
EMCの面々は昭和の後期を大学生として過ごしており、この作品では
天皇の容態が思わしくなく、改元が近いと言う話題があります。
そして、あろう事か“次の元号のイニシャルを当てる”という推理ゲームが始まります。
長編ミステリに於けるトリックの様な複雑さや非日常性は無く、
むしろ言葉遊びに近い頭の体操です。我々も素材を探して真似てみましょう。
きっと楽しいです☆


その後はミステリそのものに迫る会話(これも興味深い)があり、
望月が書いた犯人当て小説が挿入されます。
作中作なワケですが、望月が書いたというだけあって
やや大げさではあるものの、素人っぽさが溢れる文章になっているのが面白いです。

犯人当てとしては別段変わったところのないモノだとは思いますが、
そこから派生するミステリ論がこの作品の見所でしょう。

ミステリ界でも注目される『偽の手掛かり』及びそれを含む推理の完全性を追及した
所謂『後期クイーン的問題』に触れています。

それにまつわる江神・アリス両者の会話を丸ごと載せたい程に
カッコいい台詞が沢山出て来ます。

そして江神部長の語りこそが有栖川さんの作家としての本心だとも思えるのですが、
最後には決意表明のような台詞があるので、そこだけ紹介させてもらいます。

ミステリでは常に探偵の推理の外にも様々な可能性があるものの
それ等を消去する方法はなく、唯一の真実を絶対として書く事は不可能だ。
というような内容が書かれています。
しかし、そこに挑戦し続け、限界まで論理的な推理を積み上げようとする作品は
「最高。素晴らしく人間的で、詩的。」
と締められます。これこそが有栖川さんが目指す作品なんじゃないでしょうか。


これ等のやりとりが“おけら参り”の道中に行われたというのも
何か情緒溢れている気がします。
他に見た事が無い程にミステリを語り、月光ゲームの登場人物から手紙が来たり、
ロックカフェの女の子で話が〆られたりと、
ファンサービス溢れる作品です。