何と表現すれば良いのか…物語は二転三転し、
読了後に不思議な満足感に包まれました。
飛鳥部勝則さんの『堕天使拷問刑』です。
私は『本格ミステリ・ディケイド300』という本で紹介されているのを見て
この作品を読むに至りました。
その経緯がより本作品を楽しませてくれる事になろうとは、驚きです。
両親を亡くした主人公が叔母に引き取られ、田舎の村に引っ越します。
先に起きた祖父の変死、信じ難い村の慣わし、不条理な迫害。
主人公は厳しい環境を強いられ、そして次々と起こる事件に巻き込まれます。
と、普通のミステリかと思いきや、別の一面も持っているのがこの作品です。
読み進めていくうちに、想定していた物とは全く違う世界が顔を見せ始め、
みるみる作品、そして私を飲み込んでいきました。
とても人為とは思えない現象の裏に、“悪魔”の存在がチラつきます。
果たして全ては悪魔の仕業なのか、それとも人間による連続殺人事件なのか。
そもそもこの作品はミステリなのか、ホラーなのか。はたまたファンタジーなのか。
次第に主人公の孤立は私自身の疑心暗鬼を生み、
登場人物は勿論、私自身をも信じられなくなり、
物語の着地点は想像の及ばない域へと達しました。
そんな中やってくる終盤の怒涛の展開は迫力満点で、興奮間違い無し!
“本当にそう締めるの?”という疑問をも消し去ってくれます。
そして訪れる終幕は三段構え!世界に翻弄されていたのは主人公ではなく
読者の私だったのかもしれません。
物語の展開が非常に素晴らしい作品でした☆
ネタバレ感想
なんと言っても三つの結末というのが最大の特徴でしょう。
作品の至る所で“悪魔”の存在が語られ、“そんなハズはない”と思っていても、
端々から発せられる不気味でミステリアスな雰囲気や哲学の話、江留美麗の存在に
次第に飲まれ、“地獄”こと美術館の場面では少々の不満はありながらも
“そういう終幕もアリかもしれない”と感じるようになり、遂には
“ミステリとして読んでいた自分が間違っていたのだ”とすら思った程です。
それ位に第二次創世記戦争という結末には説得力があり、
そこに至るまでの世界観の構築が優れていたという事でしょう。
しかし、物語が終わるにしては残ったページが多かったので、
後に“ミステリとしての結末も書かれているんだな”と察しがついたのですが、
その時はまさかの二段構えに拍手を送りたくなりました。
ミステリ面に関してはやや物足りない印象で、
もっと詰めて欲しかったというのが正直なところです。
というのも、各事件に関して情報が少ないんですよね。
大門玲の事件では坊主の間秀が最も疑わしいような書かれ方をしているのに、
続く鳥新康子と憂羅充の事件では名前すら出てきません。
有力容疑者であった筈の大門一族も主人公のタクマ以外はアリバイが語られませんし、
“謎”というモノはほとんど感じられませんでした。
結局、“連続殺人事件が起こった場合は同一犯の仕業である”といった事や、
“事件に関する記述は些細だろうとどこかに必ずある”という
メタ的な視点からしか真相には迫れませんでした。
そういった見方をしないと庭に落ちていたセブンスターや青銅器の水、縄の跡は
手掛かりとしては弱いかなと思います。
京香の犯行現場を描いた場面も後から振り返る事で初めて意味を持つでしょう。
鮎川哲也さんの作品を幾つか読んだ成果か、私はポイントの一つの死姦に
気づく事が出来、大門玲の事件に於ける京香のアリバイが崩れたのですが、
連続した三つの事件の被害者の死亡推定時刻の行動描写があるのが
タクマと京香の二人だけだったので犯人は彼女であるといった辺りが限界でした。
手掛かりが少なく、それ等を繋ぎ合わせていったところで真相の解明には不十分です。
しかし、“文章中に決定的なモノがあるハズだ”というメタ的な思考を伴う事で
“書かれている情報を追えば真相に辿り着く”というスタイルが拓けるので、
逆説的にミステリの基本である作品と言えるんじゃないでしょうか。
そして最後の結末として“現在”の如月タクマと江留美麗が描かれているのですが、
これがまた、これまでの全てを凌駕してしまうような不思議な力を持っています。
学校で二つの死体が見つかって以降、展開が加速し、目まぐるしく状況が変わった物語を
落ち着け、静かに幕を下ろす素敵なエピローグでした。
最後までA先生が飛鳥部さんだと思っていた私が言うのもなんですが、
第二次創世記戦争というホラー(ファンタジー)としての結末、
連続殺人事件というミステリとしての結末、
そして現在パートでのタクマと美麗の再会。
そのいずれに於いても作品の至る所に伏線とまでは言えなくても
それぞれの真相を匂わすヒントが散りばめられているので、再読も楽しめました。
現在パートでの二人が“天使”を語る場面がとても印象的です。
そこから繋がるエピローグは、主幹の事件がとても過激なのにも関わらず、
穏やかに、そしてセンチメンタルな余韻を残してくれました。
