『四分間では短すぎる』は『江神二郎の洞察』
に収録されている
有栖川有栖
さんの短編の一つです。
他に、『Mystery Seller』というアンソロジーでも読む事が出来ます。
私の好きな短編ミステリを三本選ぶとしたらこの作品はその一つです。
タイトルで察しがつく方もいるでしょうし、作品内でも語られているのですが、
この短編はハリィ・ケメルマンさんの『九マイルは遠すぎる』のオマージュとなっています。
或いは都筑道夫さんの『ジャケット背広スーツ』とも。
簡単に紹介しますと、主人公アリスが公衆電話の列に並んでいると、
隣の列で待っていた人と同時に電話を掛け始める事になります。
そして、彼は隣の電話でのやり取りが気になり、
EMC(英都大学推理小説研究会)の面々と推理ゲームを始めます。
「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。
・・・・・・いや・・・・・Aから先です」
一体これは何について話しているのだろうか?
電話口で語られたこの言葉を解析し、それを推理しようというのです。
ミステリファンにとって探偵と、その活躍は憧れでもあります。
自分が事件に巻き込まれたら~なんて妄想をした経験のある方も少なくないでしょう。
しかし、現実に私達が事件に巻き込まれる事は滅多にありませんし、
あったとしても捜査・推理を以って事件を解決するなんて事にはなりません。
名探偵は創作の世界でしか存在できないのだろうか。。
私達は彼等の活躍を本を通して読む事でしかミステリに触れる事は出来ないのだろうか。。
否!そんな私達の願望を叶えてくれるのがこの『九マイルは遠すぎるゲーム』です。
私もこの作品に影響されて似た遊びをした事があるのですが、これがまた楽しい!
へっぽこ探偵が集まって各々の推理を披露し、突っ込み合う。
“ミステリは身近なモノだったんだ”と思わせてくれました。
今でこそ好きな作品なのですが、初読時はいい印象はありませんでした。
むしろ“この作者の作品はもう読みたくないな”と思った程です。
主幹のゲーム自体は面白かったのですが、
今以上に無知であったのに加え、初めて読んだ有栖川さんの作品だったので、
作品内でのミステリ談義についていけず、
知識をひけらかす厭味な作者だと思ってしまったのです。
しかし、有栖川さんの他の作品を読んでいくうちに
作中でのミステリ談義は名物コーナーであり、
それは有栖川さんの作家、或いは読者としての“こういう見方もありますよ”という
見解の提示且つ読者とのミステリ談義であると受け取るようになりました。
今では私の読書ライフを導いてくれる有り難いコーナーだと思っています。
以下、多少のネタバレを含みます。
最初に『九マイルは遠すぎる』のオマージュだと書きましたが、
ケメルマンさんの作品と併せて読むと新たな面白さが出てきます。
『九マイルは遠すぎる』では推理を重ね、そこに一つの事実が生まれる、
例えるなら“1+2=?”という展開なのですが、
『四分間では短すぎる』は最初から到達点が決まっていて、如何にしてそこに繋ぐか、
“?+?=3”というゲームが行われています。
ただ元の作品をなぞるだけでなく、同じに見せかけて“実は正反対の事をやっていました”
というオチをつける辺りに有栖川さんのエンターテイナーぶりが見えます。