『江神二郎の洞察』 有栖川有栖 | ぱぶろの読書感想文

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読了したミステリ小説の感想文をアップしていきます。
たま~に他の事も書くかも。。

有栖川有栖川 さんのデビュー作、『月光ゲーム』 を皮切りに
これまで四作が発表されてきた『江神シリーズ』
(全五作の予定だそうです)


江神二郎の洞察


『江神二郎の洞察』は、シリーズ唯一の短編集として
学生アリスがEMC(英都大学推理小説研究会)に入部する場面から始まり、
一回生の夏の事件『月光ゲーム』を経て二回生となって、
マリアが入部するまでの出来事が時系列順に描かれています。

収録されているのは

望月の下宿先で講義ノートが紛失する『瑠璃荘事件』
アリスがカフェで出会った女性について考察する
ハードロック・ラバーズ・オンリー』
望月の実家を訪れた一同が殺人事件に挑む
やけた線路の上の死体
江神部長と共にEMCを創設した人物が持ってきた死体写真の謎、『桜川のオフィーリア』
アリスが耳にした公衆電話での会話の裏側を推理する『四分間では短すぎる』
肝試しで一同が超常現象に襲われる『開かずの間の死体』
大学教授の家から絵画が盗まれる『二十世紀的誘拐』
望月の犯人当て小説からおけら参りまで、『除夜を歩く』
他人の為に散財しまくる老人を追う『蕩尽に関する一考察』

九作品と、ボリューム満点です。

特徴的なのは、一部を除いて“死体”が登場せず
所謂「日常の謎」が中心に描かれている事です。

長編推理小説で殺人事件が描かれるのはミステリの宿命だとは思いますが、
私は常々“殺人事件だけでなくもっと身近な出来事での探偵の活躍も見てみたい”
と思っていたので、この一冊はまさにその欲求を満たしてくれるモノでした。


また、有栖川さんの作品ではお馴染みですが、
『四分間では短すぎる』では松本清張さんの『点と線』を壮大に(断りを入れた上で)
ネタバレしつつミステリ論を展開したり、
『桜川のオフィーリア』『二十世紀的誘拐』での人間論
『除夜を歩く』での江神部長の語り
『蕩尽に関する一考察』ではミステリ観を再考させてくれる探偵論
と、本筋(事件)の謎解き以外の部分にも魅力が詰まっています。


そういった数々の描写が各作品の雰囲気を上手く作っていて、
隅々までとても丁寧に書かれているので
EMCの在り方や登場人物を存分に掘り下げていますし、
それぞれの話がとても短編とは思えない様な読み応えがあります。

壮大な殺人事件を扱う長編とは逆に日常を描く事で
シリーズとしてのバランスも取れていますし、
彼等により愛着が湧いてくる事間違いありません。

シリーズ間を時系列順に埋めるという手法も、
EMCの歴史を感じさせてくれて非常に良いアイディアだと思います。
長編シリーズにおける短編集としては最高の作品です。



とても単に“短編集”という一言では片付けられないので
中でもお気に入りの作品を幾つか個別に紹介したいと思います。