『Another エピソードS』 綾辻行人 | ぱぶろの読書感想文

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読了したミステリ小説の感想文をアップしていきます。
たま~に他の事も書くかも。。

前回感想文を書いた綾辻行人 さんのホラー+ミステリ、Another
その続編が『Another エピソードS』です。


Another エピソードS



前作ヒロインの見崎鳴が約2ヶ月前、時期的には前作の終盤に体験した幽霊との遭遇
前作主人公の榊原恒一に語る場面から始まります。
しかし、その体験談は前作の呪い騒動と直接関わりは無く、
解決への糸口を掴んだというワケでもありません。
続編ではありますが、呪いにまつわる1つの物語として
完全に別の話として捕らえていいでしょう。


鳴は呪いを止める方法を探す為、家族旅行中に
 
かつて災厄を経験した賢木という知人を訪ね、助言をもらおうとするのですが
その賢木は彼女が訪れる前に既に死亡していました
その事を知らずに彼の住んでいる屋敷へと向かった鳴は、
そこで賢木の幽霊と出会います。
幽霊から彼の死、そして死体が隠されている事を聞かされ、
2人で賢木の死体を捜すというストーリーになっています。

物語は幽霊視点で語られます。冒頭で賢木の死に際が書かれ、
その後彼の幽霊が死亡現場に“出る”所から本格的に話が動き出します。

段階的に解くべき謎が配置され、少しずつ真相に近づいていくスタイルの前作とは異なり、
幽霊という超常現象が話の中心に座っている為か漠然とした雰囲気があり、
進むべき道筋どころかゴールが何処なのかすら見えにくくなっています

しかし、思い返してみると前作は作者から道程が提示されていたからこそ
迷わずにゴールを目指す事が出来ましたが、ノーヒントだったらどうでしょうか
呪いという掴み所の無いモノに読者はどう迫ったのか
それが今作、エピソードSだと思います。

定期的な作者からの謎の提示がなく、真実への歩みが実感出来ないので
前作よりもミステリ感は弱いのですが、今作もしっかりミステリやってます!
目の前に霧が広がる中、何を道標として何処を目指せばいいのか、
そんな探し物だらけの作品です。










ネタバレ感想





私は綾辻さんの作品を多く読んだワケでは無いのですが、
印象的なのは作中人物による丁寧な解説(ネタバラし)です。
今まで読んだ作品には全てそれがありました。
綾辻さんのフェアプレイへの拘りの表れだと思います。
今回もその例に漏れず、最終盤には鳴の、エピローグでは鳴と恒一による解説がありますが、
今作の初回読了時は“アンフェアだ!”という感想を持ちました。
なので気になった部分を丁寧に読み直してみます。


僕=賢木晃也が死んだのは~

この文章があったが故に、幽霊の存在を疑いませんでした。
元々ホラーとして呪い(災厄)という超常現象を扱っているので尚更です。
後に恒一によって、前作で鳴は「幽霊を見た事は無い」と語っていた事が明かされるのですが、
そのセリフは全く頭に残っていませんでした。
しかし、それだけが手掛かりというワケではありません。
鳴が想に語った様に、幽霊が“出る”タイミング記憶鳴が倒した自転車
数々の手掛かりがありました。

特に自転車の件は直前に「賢木晃也は自転車を持っていなかった」
直後に「鳴が自転車を倒した段階では、彼女は自転車には乗れない」
とハッキリと書かれていて、見事です。
勿論、誰かが乗り捨てたモノと考える事が出来ないワケでは無いですが、
より蓋然性が高い考え方は“誰かが乗ってきた自転車”だと思います。

他にも、鳴が幽霊に対して子供と接する様な喋り方をしていたり、
湖の中へ死体を探しに行く事を提案するシーン等、手掛かりとまでは言えなくても
違和感のある部分は数多くあります。


しかし、私が“僕=賢木晃也”という文章に注目するのはまた別の理由です。
メタ的な話になるのですが、ミステリに“地の分に嘘を書いてはいけない”という
暗黙の了解を超え、もはやルールとも言えるモノがあります。
なので“僕=賢木晃也”という文章がセリフの外に存在している以上
それは真実でなければならず、幽霊は実在する事になる。
と思って読んでいました。

が、これは大きな間違いでした。
時間軸で言えば鳴が恒一に語っているのが現在で、
鳴と幽霊が行動を共にするのは過去の話です。
そして、その過去は全て幽霊の視点で書かれています。

現在の会話外の文章は地の文で間違いありませんが、過去はどうでしょうか。
そう。全て幽霊の語りなのです。

となると“僕=賢木晃也”が書かれたのは地の文ではないので、
それが真実である必要はありません

つまり…フェアプレイでした!


書き方という点で見れば他にも
“幽霊がドアをすり抜ける”という表現はありませんし、
物に干渉する事が出来るというのも明示されていたりと
かなり気を遣って書かれているなと感じます。

ただ1つ引っ掛かるのが視界です。
幽霊が初めて想を見たのは鏡の中。そして2回目はガラス戸に映り込んだ姿です。
幽霊は間接的にしか想を見ていません
しかし、ガラス戸に映る想を見た直後に
「想のそばへ行き、その顔を覗き込む。」という文章があります。
これは明らかに直接視認しており、更には想と幽霊が別の存在であると思わせるモノです。

後に作中解説で「想は幽霊の視点を仮構していた」と書かれていますが、
見崎家の別荘のシーンでも飽くまで“客観的に空間を捉えている”程度に描かれており、
一貫して想を直接視認する描写が排除されていれば、それもヒントに成り得ただけに少々残念です。

とは言え、幽霊と想の関係については非常に気を遣って設定を練って書いているのは
伝わってきますし、それ故矛盾点も無く纏まっていると思います。

読者が疑問に思う部分は丁寧に作中で解説が為されいて、
全面的にフェアプレイが徹底された作品でした。


前作の名札同様、しわがれた声の正体は声変わりというお茶目な謎は笑いました。
ラストでは想が他の家に預けられている事が明かされますが、そこはなんと夜見山赤沢家
前作で対策係を務め、合宿で命を落とした赤沢泉美が思い出されます。
これは更なる続編への布石でしょうか。楽しみです。