作品のあとがきや解説を読んでいると、よく名前を目にするのが鮎川哲也さんです。
私が彼に興味を持ったのも、とある作品解説で
“麻耶雄嵩
さんは学生時代に鮎川哲也さんを読み込んでいた”
と目にしたからです。
有栖川有栖
さん・宮部みゆきさんは鮎川哲也さんの『鮎川哲也と十三の謎』
に於いてデビュー作が発表されましたし、現在の大御所さんの先生的な存在でしょう。
『砂の城』は1963年と、半世紀前の作品です。
街や登場人物の生活等、描写の端々に“昔っぽさ”が見られ、
最近の作品とはまた違った雰囲気があり、読んでいて新鮮でした。
今作は『鬼貫警部シリーズ』の1つです。
冒頭で殺人事件が発生し、捜査を進める中で事件に関わるある品の重要性が明らかになり、
それにより犯人の目星がつく第1部。
徹底した捜査を行うが、容疑者が提示した鉄壁のアリバイに苦戦する第2部。
事件の解決を託され、主人公鬼貫警部がアリバイトリックに挑む第3部。
という3部構成となっています。或いは鬼貫警部の登場を境とした2部構成とも言えるでしょう。
刑事物の定番、アリバイトリックを主軸にしているので、話は1本道です。
なので意外な犯人や叙述トリックといった派手さや、一瞬で状況が一変する驚きはありませんが、
ゴールに向かって少しづつ進展していく様子が丁寧に書かれ、
いい塩梅で物語が展開されるので、全編通して安定した満足感が得られます。
仮にこの作品が連載物であったとしても、飽きることなく常に続きを楽しみにしながら読み切れるでしょう。
鮎川さんの短編集も何冊か読んだ事があるのですが、毎回話の展開スピードには感心させられます。
どの作品も非常に読み易く仕上がっていて、お手本のような作品ばかりです。
この作品は2つの事件と2つのアリバイトリックを扱っていおり、
作品の主軸となるトリックには時刻表トリックが用いられています。
私はこれが苦手で、と言うのも読者が考える余地がないからです。
いくら時刻表と睨めっこしたところで、乗り継ぎが可能な駅や、
後から明かされる別路線(機関)が読み手の知識として予め備わっていなければ解決しようがありません。
この作品に関しては、書かれたのが50年前なので尚更です。
しかし、“○○駅で乗り換えて~”という様な事を長々と続けず、
平行して“どこが突破口になるのか”が焦点となる一進一退の2つ目のアリバイ崩しが行われるので、
読んでいる途中で不満や物足りなさは感じませんでした。
この辺りの話の運び方が巧みです。
発生日時・場所・動機の全てが異なる2つの事件と色の違う2つのアリバイトリックを扱いながらも、
それぞれの事件とアリバイトリックが交差する瞬間は見事です。
全体的に地味目な進行ながらも、しっかりとした抑揚がある安定感抜群の名作です。
昨今の“新本格ミステリ”と言われ、
作者が解答を提示する前に、本文中に存在する情報のみから読者が作者に先んじて真相に辿り着ける
事に重きを置いた作品群とは違う時代の作品であり、そういった読み方をする本ではないでしょう。
それでも“そう読みたい”人(私)も楽しめるのが素晴らしい!
現在、AXNミステリーチャンネルにて
『刑事 鬼貫八郎』が放送されている(月~木・22時~)ので、そちらも是非
