『闇の喇叭』 有栖川有栖 | ぱぶろの読書感想文

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読了したミステリ小説の感想文をアップしていきます。
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年末年始を利用して有栖川有栖 さんの『探偵ソラシリーズを一気読みしました。
『江神シリーズ』『火村シリーズ』に続く新シリーズ最初の作品です。
この記事を書いている段階ではシリーズ2作目以降は未読の状態です。


闇の喇叭



今までとは打って変わって今回は女子高生・空閑純(ソラ)が主役。
『江神シリーズ』のアリスとは一味違う心情描写がされています。
について悩むアリスに対して、世界について悩むソラという構図でしょうか。
口数は多くないがしっかりしていて、頭の回転が速く強い意志を持つ

江神先輩と似ている人物とも言えそうです。

ヤングアダルト向けのレーベルからの発売という事もあってか、
かなり読みやすい文章で書かれています。
また、戦争や政治に対する見方や意見等が体制批判の新書の様な形で
書かれている場面も多く、10代の若者への刺激として機能しそうです。

作品の世界設定が大きく影響し、そういった作風になってます。

“第2次世界大戦で沖縄をアメリカに・北海道をロシアに奪われ、
翌年には旧北海道が日本から独立し敵対してしまう”


というプロローグの後に本編が始まります。
時代設定は現代(おそらく西暦2010年前後)ですが、
先に述べた様に世界の情勢が現実の世界とは異なります。
「パラレルワールドで起きているリアルタイムの出来事」という認識で読んでいいと思います。
かなり思い切った設定ですが、極めつけはあろう事か
「法律により探偵行為が禁じられている」という強烈な縛り。

と、“独自の世界設定を持つ作品で読みにくそう”と思うかも知れませんが、
ソラを始めとした登場人物の会話や心情描写から徐々に作品内の世界がどういったモノなのかを
読み取れますので、心配無用です。
不安は放って置いて、心置きなく平行世界を楽しみましょう!


『江神シリーズ』はミステリという柱があり、そこにアリスの心模様や江神先輩の活躍が
添えられ、青春ヒーローといった要素が加わるといった具合ですが、
『闇の喇叭』は逆に、登場人物・世界観ありきで、
それ等を動かす手段として事件を取り入れています。
今までの2シリーズに比べ、シリーズ物である事やストーリー性をかなり強く意識しているのでしょう。
キャラを中心に物語が展開するので、漫画の様な印象も受けます。


世界は各キャラクターにどう影響を与えているのか。
その世界でどう生きていくのか。
事件を通じてどんな成長をするのか。
彼等を動かすモノは何なのか。

という登場人物達、そしてソラの成長物語となっています。










ネタバレ感想





『探偵ソラシリーズ』に於いて最も特徴的と言えるのは、やはりその世界設定でしょう。
科学(警察の捜査能力)が向上した近未来が舞台だったり
全てを見通す神様が登場する作品は読んだ事がありますが、
そういったSFやファンタジーな要素では無く、
現実を解釈し直し、再構成した現代の世界というのは初めてです。
住人全員が色覚異常の村等も似た設定ではありますが、単発の特殊なクローズド・サークルでは無く
明確な起点があり、それに因る平行世界というのはかなり珍しいのではないでしょうか。

現実とは異なる世界情勢で世代を経て生きてきた登場人物が作る世界での出来事なので、
各々の思考や住人の生活模様、更には世の常識等がリアルに描かれています。


残念ながら、目玉とも言える独自の設定はミステリ要素には全く絡んできませんでした
逆にそれが良かったのかもしれない。とも思います。
細部では無く、飽くまで大枠として、背景として影響を与えているからこそ映える面はあるでしょう。
次回作では“北”絡みの事件が起こるのか、そこも楽しみです。


とは言え、シリーズの最重要事項であろう母の失踪には間違い無く関わっているでしょう。
情報が少なすぎて、現段階では何もわかりませんが、
読み進めて行くと繋がっていく部分もあるかもしれませんね。
それ等を探す楽しみもシリーズ物の魅力だと思うので、期待です

両親を失い・親友とも決別し、世界に翻弄されてしまったソラが物語最後に放つ
「探偵になる」は感動的なセリフでした。
世界と戦う決意を明確に示し、次回作以降の苦難を想起させます。

このセリフ、私は見覚えがありました。
『双頭の悪魔』での「30までは学生でいる」という江神さんのセリフとそっくりです。
共に両親への強烈な思いを胸に、運命に抗う確固たる意思が込められていますよね。

心情描写や人物・世界の背景を書き込む事によって、
短いセリフに多くを込めハイライトにしてしまう

そんな有栖川さんの書く深みのある作品が大好きです。