『キングスマン』のマシュー・ヴォーン監督が手掛けた新作
スパイ映画『ARGYLLE/アーガイル』(全国公開中)では、
昨年11月にリリースされたビートルズの最後の新曲
「ナウ・アンド・ゼン」が使用されている。
同楽曲の使用にあたり、熱心なビートルズマニアである
ヴォーン監督が、ポール・マッカートニーに直談判していた
ことが明らかになった。
ヴォーン監督はこれまで、ジョーン・ジェットの「Bad Reputation」に乗せた『キック・アス』のアクションシーンや、エドワード・エルガーの「威風堂々」を使用した『キングスマン』の打ち上げ花火など、音楽を巧みに使用して観客の記憶に
刻まれるシーンを生み出してきた。最新作『ARGYLLE/アーガイル』でもさまざまな仕掛けが用意されているが、
ヴォーン監督はとある重要な場面で流す曲を決められずにいた。
そこに現れたのが、ビートルズの有名プロデューサーで知られるジョージ・マーティンの息子ジャイルズ・マーティンだ。『ARGYLLE/アーガイル』でビートルズの曲を使おうと提案を受けたヴォーン監督は、「思わず笑って、ジャイルズに
『1 つ目に“そんな高額は払えない”、2つ目に“そんな高額は払えない”、3つ目に“そんな高額は払えない”』と言ったよ」
と軽く返したものの、マーティンから「4つ目があって、
実はうまくいくかもしれないビートルズの新曲があるんだ」
と告げられたという。
技術の進化によって、ジョン・レノンが1978年に
デモをレコーディングし、テープに残した未発表楽曲から、
雑音を取り除くことが可能となった。存命のメンバーである
マッカートニーとリンゴ・スターが参加し、レコーディングが
行われ、奇跡の新曲「ナウ・アンド・ゼン」が完成した。
リリース前にマーティンから「ナウ・アンド・ゼン」を
聴かせてもらう機会を得たヴォーン監督は
「試験的に映画に乗せてみたところ、編集を一つも加えること
なく、完全にぴったりとハマったんだ。まるでレノンがこの
映画を観て、私達のために曲を作ってくれたかのようだった。
この映画の中心にある人間関係を包含する歌詞だったよ」
と完璧なシーンが仕上がった瞬間を感慨深げに語った。
そして、ポール本人と話し合いを行い、楽曲使用を直談判。
ヴォーン監督は「スターを目の前にして興奮を抑えられなかった」とファンとして喜びを爆発させながら、「ビートルズ最後の曲でビートルズと仕事をすることになるなんて、人生における突拍子もない夢だと思っていたけれど、監督としての道のりの中で今それが非現実的ながら現実となった」と奇跡の実現を喜んだ。
マシュー監督に曲を聴かせた音楽プロデューサーのジェイルズは「Now and Then」と『ARGYLLE/アーガイル』について
こう語っている。
「ビートルズはご存知の通り、史上最も売れたアーティストです。彼らを新しい観客にアピールするというアイデアが好きで
すし、それは意味があることです。“Now and Then”は
映画の中でとてもよい効果にも、重要な要素にもなっています。この曲は劇中で単に流れるだけじゃなく、別の誰かが演奏する
わけでもない。映画の中で登場人物が実際に曲を聴いている
ことにも理由があるんです。
この挑戦は、とても良いコラボレーションになりました」
また、映画の中には壮大な「Now And Then (The Argylle Symphony)」の他に、「Elly’s Writing Theme」と題された「Now and Then」のオーケストラ・ヴァージョンが使用され、サウンドトラックにも収録されている。
この楽曲の使用について、映画の劇伴の作曲、そしてこれらの
オーケストラ・ヴァージョンのアレンジを担当した作曲家
ロアン・バルフェはこう語っている。
「この映画には、ビートルズの曲という素晴らしい要素があります。こんなことはそうそうありません。しかも今回はビートルズの曲を映画のスコアに組み込むことができるようになったので、この曲を主人公のエリーのメインテーマとして使い始めてみたんです。この曲はある場面で、彼女の過去を思い出させるために
使われています」
「この曲を最初に聴いたとき、ビートルズとDNAをつなぐものがたくさんあるように思ったんです。この曲を聴くだけで、
すでにつながりを感じることができる。あのメロディーは既に
名曲のように美しく、この40年の間、私達はこの曲とともに
生きてきたように聞こえる。だから、この曲は映画の中で
トリガーとして機能しているんです。劇中のスコアとしても
使われるし、オルゴールの曲としても流れるし、
映画の中でとても重要な要素になっているんです」