Perfumeと言う勿れ | 全身蜂の巣

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煩悩を持て余せ!

 

 

 

冬のある日、平凡なサラリーマンの全身 整(ぜんしん ととのう)はアパートを訪ねてきた職場の友人たちに、大学時代の友人で高校の同級生だった友人Dが”やられた”一件について問い詰められる。

 

 

「僕は常々思うんですが、アイドルユニットのファンであることを友人に打ち明けたとき、その友人が必ず訊いてくる”あること”が不思議です」

 

「アイドルユニットのファンはメンバーの中に必ず”推し”が必要なんですか」

 

「ユニットのことを好きと話しているだけなのに、なぜ、メンバーの中に”推し”がいる前提で質問してくるのでしょうか」

 

 

 

 

 

 

「欧米の一部では”推し”を訊いてくる方を病んでると判断するそうです」

 

「日本は逆です アイドルファンのことを少し軽蔑してくる、推しを聞き出し、その趣味はいかがなものかと」

 

「僕は常々思うんですが、ファンを公言するのってリスクが大きく職場にも行き辛くなって損ばかりする、配偶者の理解もそうだけど、どうしてなんだろう どうしてファン側の肩身が狭いんだろう」

 

 

 

 

 

 

 

整の友人Dは昨晩10時ごろ、整に似た人物からDVDを渡されていたのが目撃されたという。

整はDVDの貸与をはっきり肯定し、不審に思う友人たちを説得することになる。

 

友人の一人は興味本位で整がDVDを貸し出したと決めつけるが、整はDVDを渡した友人と高校時代に交わした会話を思い出した途端に沈黙してしまう。

 

 

 

 

 

 

「彼をオタク扱いしちゃだめです」

 

「僕は常々思うんですが、オタクはバカじゃないです あなたが子供の頃、何かに熱中しませんでしたか、子供の頃は、みんなオタクです」

 

言われた男は押し黙る。誰に言われたわけでもなく何かに熱中して行動していた「オタクな」自分の子供時代を思い出したからだ。

 

 

 

 

 

整自身の”ぼっち”時代も、どうやら訳ありらしいことが見え隠れしている。だが、いつも一人ぼっちで応援していた彼には、2人のクリエーターの理念が心に深く突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

「当たり前にそこにあるもの 慣例となっているルール、なぜそうなのか、誰が決めたのか いっぱい考えてみるといい」

 

その言葉が、全身 整という人間の根幹にある。

 

 

 

 

 

 

 

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翌日、整はDVDを渡した友人から相談を受ける。

 

 

友人D「やられたっ、完全にやられたっ、どうして自分が泣いているのか、どういう感情なのか、まったくわからない」

 

「僕は常々思うんですけど、感動に説明は必要でしょうか、そもそも概念言語の驕りを感じさせるような言葉にならない感動はあります」

 

 

 

 

 

 

友人D「もっと、もっと前に知りたかった、もっと前からリアルタイムで応援したかった」

 

「僕は常々思うんですけど、誰かのファンを自覚するということは、その人にとってのタイミングがあると思うのです。仮にタイムマシンで時間を遡ったところで、その時のあなたには、その時に夢中になっていた別のなにかがあったと思うのです」

 

「そんなアナタが、過去においてこのユニットを表面的に知識として知ったとしても、単なる世間的にちょっと人気のあるアイドルユニットという受け取り方で終わったと思うのです」

 

 

 

 

 

 

「僕は常々思うんですけど、今のアナタはきっと自分の心に埋めがたい大きな穴、虚無感のようなものがあった、その形に”たまたまピッタリとハマる形”となってくれたのが、そのユニットだったのではないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

「僕は常々思うんですけど、どんな深さの心の穴も埋めてくれる柔軟な形をしているものって、現代社会にはなかなか無いのではないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

友人D「この言葉にならない感情を、誰でもいいから共有してもらいたくて仕方ないっ」

 

「僕は常々思うんですけど、そのユニットって、受け取る人の心の在りようによって、様々な姿に映っていると思うのです。どんな生き方をしてきた人にも寄り添う完璧な姿だと思うのです」

 

 

 

 

 

 

 

整が、

 

 「僕は常々思うんですけど、」

 

・・・と語り始めるたびに、今まで当たり前に思っていたことが覆されていく。

彼の考えはひとつの意見でしかないけれど、それを提示されることで、自分の中にある固定観念や視野の狭さに気づかされるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そんな整自身の目に映るそのユニットは、”概念”でしかない。

整は、そんな”概念”を拝みに、そのユニットのライブを追いかける。

その行動は、甘い蜜の香りに引き寄せられる蜂のように本能的ではないと彼は言い張る。

そうっ、

 

 

 ”Perfumeと言う勿れ”

 

 

 

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・・・「やっとオチに辿り着いたな」・・・とお思いのアナタ・・・

 

 

  ”Perfumeと言う勿れ”

 

 

 

・・・「わかったっ、わかったっ」