「マサズ劇場」その109 部品メーカー | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。

 

「ご期待に添えず、たいへん申し訳けございません。 来年の抽選の日程が決まりましたら間違いなくお知らせするよういたしますので、なにとぞご容赦ください。」

 

オリジナルウォッチの抽選結果に関して、こんなメールを何件送ったか。

 

気持ちとしては、申し込んでくれたすべての方に時計をお届けしたいのだけど、、無理をして、あとになってご迷惑をお掛けするわけにもいかない。

 

今は、受注した時計の製作を可能な限り早期に進め、滞りなく納品しなければ。

 

 

「岩田くん、地板と受け板の予備、何セットあったっけ?」

 

「プロトタイプ作る時に3セット使っちゃったんで、、あと1セットだけですね。」

 

「3セット使った? プロトは2だけど?」

 

「中島さんが、蒼黒の受け板失敗しちゃったじゃないですか。 だから、3つ使っちゃったんですよ。」

 

「あ、、そうだったか、。」

 

確かに、、蒼黒の受け板を仕上げていて思わぬ失敗が見つかり、1つは廃棄してしまったのを想い出した。

 

 

「じゃあ、今やってる修理が終わり次第、まずは10セット作っておいて。 そのあと、スプリングとか歯車も同じだけ揃えないとだけど、、結構時間掛かりそうだな。」

 

「そー、一番時間掛かるのはキチ車とツヅミ車、あと、丸穴と角穴車っすね。焼き入れ前のブランクだけでもどっかで作ってもらえたら、だいぶん早いんすけどねぇ。」

 

「うん、その件は今埼玉のMさんにも相談してて、明日長野の部品メーカーの人と一緒にうちで打ち合わせすることになってるんだ。もっともすぐには着工できないだろうから、今年の分はとりあえず自分たちで作らないとしょうがないけどね。」

 

 

前にも触れた通り、当面の部品はゼロから自分たちで作りながらも、来年あたりからはブランク、つまり加工や仕上げをする前の段階の部品を外部の部品メーカーにお願いしようと思っている。

 

できあがった部品の品質が同じならば、ゼロから作っても途中から仕上げても「品物」は同じ。

 

もっと分かりやすく言えば、、現在のうちのやり方は自分たちで丸太ん棒から板を切り出して家具をつくっているようなもん。

 

これを今後は、製材所でせめて寸法の近い板の状態にしてもらおう、といった感じか。

 

ただ、国内ではうちのような小口の注文に応えてくれるメーカーが限られていて、どうしても一カ所に何社もの時計屋が集中する。

 

そうなると当然納期は長くなり、打ち合わせや試作の評価なんかを経て品物が納品されるのは、一年近く先の話しになってしまうのだ。

 

 

私 「でうちとしては、まずこのキチ車とツヅミ車、できれば丸穴と角穴車のブランクを作ってもらえたら本当に助かるんですけど。 どうでしょう? これが現物なんですけど。」

部品メーカーKさん

「拝見しますね、、、んー、、、ほー、これは、、すごいですねー。 ツヅミの角穴の角が完全にトントンだ。歯もキレイに切れてますねー。」

 

私「、、、」

 

埼玉の歯車屋Mさん「どれどれ。 あー、ホントだ。これだと下穴を相当小さくしないといけないね。」

 

私 「表面的な仕上がりに関してはどのみちうちで熱処理してから仕上げるんでそんなにキレイじゃなくていいんですけど、、ただ、角穴と外周のセンター(中心)は相当な精度が出てないと困ります。リューズを回した時に不均一な抵抗を感じる時計になっちゃうんで。」

 

Kさん

「そうですよね。 まあ国産の量産品の場合なんかだとそこまで公差は厳しくないんですけど、、御社の時計はかなり高額なんですよね?」

 

Mさん

「Kさん、値段聞いたらビックリしますよ。 ねぇ、中島さん。」

 

「ええと、、黒い文字盤の方が、税込みで1210万、もう一つの方は1045万です。」

 

Kさん

「えーーっ! そうなんですか、。 うーん、、となると、やっぱり相当精度出さないといけませんね。」

 

私 「はい。値段は割高になっても構わないので、そこはなんとかお願いします。さっきもお話しした通り、表面の仕上がりはさほど問題じゃないんですけど、各部分のセンターがバラバラしてると、こっちでは仕上げようがなくなっちゃうので。」

 

Mさん 「大丈夫ですよ、中島さん。 Kさんは900万なんて言いませんから。ワハハ。」

 

Kさん 「えっ?900万?! なんですかそれ?」

 

私 「いや、以前、スイスの商社を通じて現地のメーカーで見積もりを出してもらったんですけど、この歯車100セットで出てきた見積もりが900万だったんです。さすがに歯車のセットにそこまで出せないので、丁重にお断りしましたけど、。」 

 

Kさん 「ハハハ。それはすごい。おそらくもっと大きなロットでしかやってないところが無理して100個の見積もりを出したんでしょうね。 そうなると、100個も1000個も値段は変わらないんですよ。」

 

私 「そういうことだろうと思います。まあ、門前払いじゃないだけありがたかったんですけどね。」

 

Kさん 「まあ、わかりました。この歯車お借りしていいですか? うちに戻ったら現場の人間と検討してみますので。」

 

私 「よろしくお願いします。 ということで、そろそろ一杯いきますか。 6時にそこのすし屋に席取ってるんで。」

 

 

とりあえず話は進み出した。

 

なんとかやってもらえそうかなー、という希望の光がちょっと見えかけて。

 

今まで何度もあった「ぬか喜び」にならないよう気を引き締めつつも、、機械屋仲間の飲み会は、終電ギリギリまで続いたのだった。

 

 

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