それがヤツだとはっきり分かった私は、、作業台を回り込んで、大急ぎで店のドアを開けた。
「おー、Ken! 本当にお前か?!」
「Hey、、 Masa、、」
ガッチリ抱き合ってみると、少し太くはなったが、やっぱりそれはゴツゴツしたKenの身体だった。
中に招き入れた2人と、テーブルをはさんで向かい合うが、、まだ実感が湧かない。
話したいこと聞きたいことは山ほどあるけど、あまりに突然の再会は、しばらく気持ちの整理がつかないもんだ。
Kenの横にはアジアっぽい綺麗な女性が静かに座っていて、聞けば、これから結婚することになっているフィアンセだという。
どう見ても親子ほど年が離れているから、、Kenは再婚なのかな?
興奮した私たちの顔を見ながら微笑んでいるところをみると、、彼女は、どうやら私たちの過去の経緯をよく理解しているようだった。
それにしても、、あれだけ探して、どうして今まで何の手掛かりもなかったのか?
何故今日、ここにいきなり現れたのか?
聞きたいことは尽きないけど、、それはKenも同じようだった。
この店で、今何をしている?
ダイビング屋に戻るために帰国したはずだったのに、、どうして時計屋をやっているのか?
35年という年月は、、2人のかつての義兄弟を、まるで知り合ったばかりの知人のようにしてしまうのだ。
まずは2人に、私をみつけて、店を訪ねて来るまでの経緯を聞く。
タイ人の彼女は幸い英語が話せて、私ともすぐにうちとけることができた。
「日本に行って、Masa をみつけるぞ!」
そう言いだしたKenの手助けで、SNSをやらないヤツに代ってFacebookやインスタグラムで検索し、彼女が私の居場所を突き止めたという。
これは心底、ありがたかった。
話を聞いているうち、目の前にいる中年の台湾人がかつての自分の弟分だということに、ようやく実感が伴ってきた。
そうだ。
たしかに、こんな腕をしていたな。
目つきは大分柔らかくなったけど、なんとなく面影は残っている。
そうなると、今度は私の番だ。
「Hey、Ken. いったい全体、オレがどれだけ探したと思ってんだ! あれからずっとだ。 35年だぜ、35年!」
「そうだね。35年か、。」
「誰に聞いてもみんな知らないっていうし、台湾でも探したんだ。 オヤジさんが旅行会社やってたはずだから、陳ていう社長のやってる旅行会社探したり」
「ちょっと待った。 オヤジがやってたのは旅行会社じゃないよ。 医療機器の製造会社だ。 」
「え?、、そうなのか。なんでオレは旅行会社だと思い込んでたんだろう? まあいいや。 とにかく、突然連絡が取れなくなってから、ずっと夢にも出て来るし、、最後の方は妙な奴らとつるんでたから、オレもGも、お前は殺されちゃったんじゃないかって言ってたんだよ。」
「あれからホントにいろいろあったんだ。いずれゆっくり説明するけど、、そろそろ、あんまり仕事の邪魔しちゃいけないから、日を改めようか?」
私の知っているヤツには、まったく似つかわしくない言葉。
あの頃、血気盛んな10代のKenが、こういう物言いをしたことは一度もなかった。
予定があって内心急いでいるのか、それとも、私の仕事場だということで、本当に遠慮しているのか?
でも私としては、やっと会えたこの機会に、何とかして謎を解きたいのだ。
ところで、今夜の予定は何か決まってるのか? どこかで一緒にメシでも食えないか? 」
「いや、今夜は何もないよ。 Masaは時間、いいのかな?」
「何言ってんだよ。よし、決まり! Gにも声を掛けるから、あとでゆっくり話そうぜ!」
「そいつは嬉しい。 3人揃うなんて、夢みたいだよ。」
そうして、私たちはその夜、35年の溝を埋めるべく、Gや私の長女、カミさんと一緒に、上野の料理屋に集まったのだった。
(続く)



