さて、割れている石は交換するとして、、、「普通の手段」 ではどうしても外れない針の方はどうするのか?
この場合、外れないのが 「分針か時針」 であれば、それぞれ違った 「秘策」 を用いることになる。
これでまず十中八九は解決。
(※この秘策に関しては、残念ながらご説明できません。 何しろ秘策ですから、、。)
では 「何故最初からその秘策を用いないのか?」 というと、、、、これらの方法はそれなりに段取りが面倒な上、余程慎重にやらない限りそれなりのリスクが付きまとうから、 「出来ればやりたくない」 というのが率直なところなのだ。
まあいずれにしても、時針・分針に関してはこれでいいとして、、、一番困るのは秒針。
物理的に 「単純に引っ張り抜く」 以外方法のない秒針に関しては、、、秘策がない。
注油して数日間放置しても、慎重にある程度の熱を掛けても、ビクともしないような秒針は、、、「慎重に削り取る」 以外に選択肢はない。
壊れてもいない針を削り取るのは残念だし、時計屋としてはとても嫌なものだが、、、仕方がないのだ。
それ以上無理矢理引っ張って 「秒軸」 を折れば、、、大概はその方が厄介だから。
勿論この場合、勝手に作業を進めてしまってから 「針は壊して新たに製作しました」 というわけにはいかないから、事前の 「依頼主の承諾」 は必須だが、、。
しかし、幸いここまでのケースは、年間に一件あるかないかだろうか。
最後に出くわした 「お手上げの秒針」 は、クロノグラフの懐中時計のものだった。
何をやっても、全くピクリともしない。
秒針の穴を上からよくよく観察すると、、、なんと 微かに 「ハンダ」 が見えるではないか。
緩くて決まりの悪い秒針だからといって、、、取り付けた後にハンダ付けしてしまうとは、、。
ちなみに 「クロノグラフ」 のセンター秒針は、計測した秒数の位置からパチッと 「0に帰零」 する度に、かなりの衝撃が秒針に掛かる。
秒軸に対する秒針のグリップ(圧入感)が一般の時計並みだと、、、、繰り返し帰零しているうちに、秒針の表示位置が文字盤の 「0位置」 からズレてくる不具合が起こるのだ。
したがって、元々秒針のパイプは一般の時計より長く、軸に対する穴の寸法も 「キツキツ」 になっているのだが、、、、これが緩くなっている古いクロノグラフの秒針は、「各種接着剤」 で補強?されているものが実に多い。
接着剤の種類によっては、これだけでも外すのに苦労するし、、、中には接着剤のせいで秒軸が錆びてしまっているものもあったりして困るのだが、、、、「ハンダ付け」 などされれば尚更だ。
結局、ある程度熱しても取れなかったその秒針本体を削り取ってみると、、、、ハンダ付けに際して貼付した 「フラックス」 のせいで、秒軸とパイプ、及び周辺のパーツはボロボロに錆び付いていた。
またまた話しが脱線するが、、、こういうことをする手合いは、「時計の持ち主のこと」 は勿論、 「次に分解する人間のことなど知ったこっちゃない」、ということなのだろう。
そのためにこっちは壊したくもない秒針を壊さなければいけないし、時計の持ち主も 「えーっ、秒針はちゃんとしているのになんで壊すの?」 とガッカリするのだから、、、本当に腹が立つ。
「次の人のことなど知ったこっちゃない」 と言えば、同様のことは駅や公園のトイレに入るといつも感じるが、、、さりとて私がいつも次の人のためにピカピカに掃除して出てくるのかと言われればそうではないから、、、偉そうなことは言えないが、、。
いずれにしても、これはもう 「時計屋としての技量云々」 以前の話しですね。
ちょっとしたことのようで、、、とても大事なこと。
時計には色々あるけど、、、一見機械と無関係に見える 「針」 もその一つ。
やはり 「たかが針、されど針」 なのだ。
(終わり)