「時計の針」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

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東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。



最近 「針の製作」 の依頼が増えている。


多くの場合、持っている時計の針が折れてしまったり、入手したときから針が取り替えられていてデザイン的にバラバラなものが付いていたり、というのがその理由。



ちょっと考えると、在庫してある針と交換すればいいだけなのだから簡単と思いがちだが、、、、うちでお預かりするようなアンティークの時計に限っては、そうはいかない。


何しろ100年も200年も前に製造された時計だから、、、殆どの場合、「同一のストック」 は期待薄。


結局大抵は、、、金属の塊から削り出して、「新規に製作」 することになるのだ。


当然のことながら、これは 「かなりの技術」 と 「バカバカしいほどの時間」 が要る作業で、、、「金の飾り針」 などにおいては、一本製作するのに¥200.000以上の費用が必要なものもある。


時計の細部に渡ってこだわる愛好家にとっては、「たかが針、されど針」 なのだ。



しかし、そもそも 「時計の針」 はどうして傷んでしまうのだろうか?


針は機械内部の部品と違って、「時計が動くこと」 によって消耗するものではないが、、、傷む原因は大まかに分けて2通りある。


一つ目は、原因が持ち主の保管状況等にある場合。


多くは時計を落下させたりしてガラスを破損し、同時に針も折れたり曲がったりするケースや、湿気の混入によって針が錆びてしまうケース。


これはまあ分かりやすい。


二つ目は、分解・組み立て作業中にキズ付いたり、破損したりするケース。


こちらはあまり知られていないし、かなり説明が必要だ。



通常、時計の針はそれぞれ歯車の軸にギュッと 「圧入」 されているだけだから、、、、分解する度、 「取り外したり取り付けたり」 を繰り返しているうちには、軸に対して穴が緩くなってゆくことになる。


その場合、 「タガネ」 という道具で軽く打撃を加え、僅かに穴を小さくすることによって必要な圧入感を取り戻すことになるのだが、、、作法や手加減を誤まれば、当然針は原型を留めない。


よくパイプの部分がペンチで潰してある 「時針」 や 「秒針」、それから、穴の周りがタガネで 「滅多打ち」 にしてある分針を見るが、、、そうやって針はどんどん痛めつけられていく。


しかし中でも一番困るのは、、、、針の穴が 「窮屈になり過ぎている」 まま、強く圧入されている時計。


ちょっと話しが逸れるが、、、これは 「針自体の問題」 を遥かに越えて、時計にとって想像以上に危険なのだ。



専用工具で引き抜こうとしても、なかなか抜けてくれない。


油を注して置いてから、だましだまし繰り返すが、、ビクともしない。


こんな針が抜けるまで力を加え続けたら、どうなるか?


 「針の変形や破損」 くらいで済めば、、、ハッキリ言って運が良いと言える。


特に 「時針」 や 「分針」 が異常にキツい場合、針と一緒に持ち上がろうとする歯車が文字盤の裏側を圧迫するから、「金属文字盤」 なら中央部分が変形して盛り上がるし、、、、「焼き物の文字盤」 の場合は、文字盤が割れることになるのだ。


アンティークウォッチに馴染みのある方なら一度や二度は見たことがあると思うが、、、、「中央付近から放射状にヒビの入っているセト文字盤」 は、まずこのパターン。


さてさて、針が変形したり、折れたり、、、文字盤が変形したり、割れたり、、、これだけでも大変なダメージだが、、、特にキツ過ぎるのが 「分針」 や 「秒針」 だった場合、、、これだけでは済まないものが多い。


ちなみに、「分針」 や 「秒針」 の取り付けられているのは歯車の一方の軸だが、ある程度のグレードの時計においては反対側の軸はルビーやサファイアの 「穴石」 で支えられている。


「穴がキツイ針を強引に取り付けてある」 ということは、「針を過剰な力で押し込んだ」 ということで、、、これは特に方法を限定しない限り 「石にかなりの力を掛けた」 ことを意味するから、、、?


ご名答。


そういう時計の 「軸受けの石」 は、、、かなり高確率で 「割れている」 のだ。




続く



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