「I さん」 その2 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


日焼けした精悍な顔を上げて 「Iさん」 は続けた。


「今朝そっちの品物は見せてもらったけど、、、おそらく君は一つ一つのリングを個別に買ってるんじゃないかな? それだとどうしてもあんな感じの値段になる」


私が自己紹介をする間もなく、「Iさん」 はそんな風に指摘した。


驚いたことに、全くその通りだった。



結局その日もジャンクヤードは泣かず飛ばず。


しかし慣れないスーツ姿や売り場での仕事に疲れ、重い足を引きずって帰ろうとしたその時、、、「みんなと一杯やっていくけど、君も行くか?」 との声。


振り返ると長身の 「Iさん」 を囲むようにして、数人の出店者が私を見ている。


みんな優しい人達ばかりだった。



行ったのは銀座の地下にある焼鳥屋だったか?


初めて 「同業者」 の仲間に入れて貰って聞く話しは、、、それまで 「海に潜る事」 しか知らなかった私にとっては初めてのことばかり。


確かその時 「Iさん」 は40代後半(今の私の年くらいということになる)で、私はまだ27の小僧だったのだ。



商社マンから転身した 「I さん」 は海外での品物の買い付け方や通関手続きに関して特に詳しかったが、それ以外にも 「ディスプレイの仕方」 から 「値札の付け方」 に到るまで事細かに教えてくれた。


それらは、今でも参考にしている事が多い。


結局、2週間続いた百貨店催事の 「ジャンクヤード」 の売り上げは 「90万円余り」 で、これは 「Iさんの店の一日分」 にしか満たなかったが、、、、おかげで、少なくとも 「やるべきこと」 はおぼろげながらに見えてきたのだ。



それからの10年ほど、、、「Iさん」 とは3月に1度の 「百貨店催事」 の他、一台の車に一緒に荷物を積み込んで全国各地の骨董祭に出店したり、主宰している野球チームに混ぜてもらったり、と公私に渡りお世話になった。


お互い 「酒好き」 なこともあって、、、ちょっとここでは書けないような出来事も数知れず、、、。 



しかし、やがてアンティークショップの 「ジャンクヤード」 は、 アンティークウォッチの 「パスタイム」 になって吉祥寺へ移転。


それをきっかけに私は催事への出店を見合わせるようになり、、、以来、時折思い出したように電話でお話しするくらいになっていたのだ。


ところが今月、名古屋で骨董屋を営んでいるスタッフの岩田の父が、「横浜骨董祭」 で 「I さん」 とご一緒するという。

(そもそも15年前に岩田がうちに来ることになったのも、I さんと合同で出店していた名古屋骨董祭で彼の父親に知り合ったことがきっかけだった)


かねてから 「I さんに会いたいなー」 と思っていた私にとってはまさに 「渡りに舟」 で、、、早々 「飲み会の段取り」 をお願いしたという訳だ。



(続く)



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