「I さん」 | 吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

吉祥寺の時計修理工房「マサズパスタイム」店主時計屋マサの脱線ノート

東京都武蔵野市吉祥寺でアンティーク時計の修理、販売をしています。店内には時計修理工房を併設し、分解掃除のみならず、オリジナル時計製作や部品製作なども行っています。


今日、久し振りに横浜に行くことになった。


「横浜骨董祭」 に出店しているかつての同業 「Iさん」 と、久し振りに一杯やることになったのだ。


何年振りだろうか、、、? 長女が生まれてすぐくらいからご無沙汰しているから、10年近いかも。


ちなみに、「Iさん」 はアンティークショップだった 「ジャンクヤード」 時代の同業者だから 「時計屋」 ではない。


しかし、店を始めたばかりで右も左も分からぬ私に、「アンティーク屋のイロハ」 を教えてくれた恩人なのだ。



「Iさん」 に出会ったのは20年以上前、初めて出店した銀座の 「百貨店の催事」 でのこと。


ちょっと前にたまたまジャンクヤードに立ち寄った近所の方が、「うちの百貨店でアンティークの催事をやってますから、部長に紹介しましょう」 と言ってくれたのが催事出店のきっかけだった。


考えてみれば、開店してばかりでなんの実績もない私を部長に紹介してくれたその方も強心臓の持ち主だが、、、「個人的に好きなタイプの品揃えだから」 と言う理由で出店にOKを出した部長も 「いい度胸をしている」 のだろう。


いずれにしても、もしこのお二人が全く違ったタイプの方だったら、Iさんに知り合うこともなかっただろうし、、、もしかすると、今パスタイムはなかったかもしれない。


そんな風に考えると、人の一生には本当に様々な局面があって、、、様々な人との出会いによって 「あみだくじ」   をなぞっているようなものなのだろう。



さてさて、兎にも角にも、2週間の会期で始まった 「アンティークバザール」 の初日。


直前に買い込んだ第三紳士服のスーツに身を包んだ私は、気合充分だったが、、、、ジャンクヤードの商いは、てんで振るわなかった。


各店舗は、売り上げが発生すると商品を持ってきてレジで清算する仕組みになっていたが、、、当時はまだ 「バブル」 が弾けて間もない頃だったこともあり、初日のレジ前は清算を待つ業者が列をなしている状態。


ジャンクヤードのブースはレジのまん前で、そこでは終日 「アンティーク○○で百万円お願いします!」 などという他店の店主の景気のいい声が響いていたのだが、、、うちの前だけはお客様がササッと通り過ぎるだけ。


なんとか売り上げを作ろうと昼食抜きで1日立ち続けたが、、、殆ど成果は上がらなかった。


それぞれの店の周りには常にお客様の輪が出来ていたが、、、、私の周りだけがポカッと空洞化している感じだ。


ガックリ疲れて電車に乗り、、東村山に帰った。



気を取り直して迎えた2日目、、、しかし、初日同様、他店との活気の差は歴然。


見渡すと、その中でも際立って賑わっている店が通路を挟んで反対側の角にあった。


どのみち自分のところにはお客様がいないし、、、ちょっと様子を見に遠征。


商品の周りには大勢の人だかりが出来ていたが、その隙間から商品を覗くと、、、あるわあるわ 「ライター」 や 「スクールリング」 「時計」 から 「人形」 まで、てんこ盛り。


思わず我を忘れて、こちらまで興奮してしまう品揃えだ。



そして参考までに、ジャンクヤードでも置いている 「スクールリング」 の値札に目を凝らしてみると、、、何と、「同じようなリング」 の値段が、遥かに安いではないか!


いくら 「同一のものが無い」 アンティークとは言え、、、これではあまりに違いすぎる。


しかし、、、どうなっているのだろう?


この価格で販売したのでは、どう考えても利益は無いはずなのだが。


少なくとも、私の知る 「現地相場」 で買い付けたとすると、、。



半ば呆然としながらリングを見つめていると、、、「君のところと仕入れが違うだろ?」


私の心中を見透かしたかのような声。


ディスプレイの向こうから、、、磨いているリングに目をやったままそう話し掛けてきた 「俳優のような紳士」 が 「Iさん」 だったのだ。




(続く)


マサズパスタイム オフィシャルサイト