「 仁清
それが標的である 任侠
戦後の不安定な状況の中で勢力を拡大し、地下都市のある一帯を縄張り
本部は 地下都市
建物の正面入り口には三つの人影がある。そのいずれもが普通の人間にはあり得ないほどの強靭な体格を持っていて、黒いスーツの袖からはあからさまに銃火器の銃口が覗いていた。
「全機械義体
「関係ない」
リオンはそう言って、静かに動きだす。不用意とも思えるほどに自然に、一定の速度で門へと近づく。
当然、守衛は彼女に目をつけてじりじりと近づいてくる。浮かべているのは、迷子を見つけたような一見優しげな表情、或いは面倒臭そうに睨み付けるような表情。何れも、彼女を格下に見ている表情には違いない。
そんな油断をしているようでは職務を全うできるはずもない。本人にしか分からない程度に不機嫌さを表に出しつつ、リオンは目の前の三体の鉄屑の処理を始める。
call Dracumon
use-skill "Eye of Nightmare"
そのコマンドがリオンの電脳に入力されると同時に、彼女の人工義眼が赤く明滅。その妖しい光を視界に捉えた全機械義体
「なるほど。これは心強い」
ARヴィジョン化した電脳空間
青く輝く格子
電脳を支配されることは、行動や精神を支配されると同義。黎明期には人の行動を縛らないなどと謳われていた電脳も結局はそんなものだった。
evolve /level:4
use /skill:"Black Mind"
use /skill:"Sticker Blade"
リオンが通りがけに入力した二度目のコマンド。それにより使い魔
子供のような未発達の人形から四足の雄々しい狼の姿に。紺と銀の美しい毛並みに、目を覆うような蝙蝠の羽。四本の足それぞれには小型のブレードが合計数千本ほど備わっていた。
狼の身体が黒く染まり、安定したばかりの形状が崩れていく。同時にその存在そのものがリオンの電脳から消え、そもそもいなかったのではないかと錯覚してしまうほどに狼を認識できなくなる。
再び見つけたとき、狼はその姿が少し小さくなった代わりに守衛の電脳のすべてに同時に存在していた。――狼は分裂し、リンクを貼っていた三つの守衛の電脳すべてに現れたのだ。
そして、三匹の狼は同時に守衛の核
「確かに見た目はちんちくりんでも恐ろしいな」
「あなたも電脳を焼き切られたいの?」
「いや、遠慮しとく」
両手を上げながらリオンの後をついていく。てっきり冗談に近いやり取りかと思っていたが、本人は真剣に嫌がっているのかもしれない。仲間に殺されては洒落にならないので口には気をつけようとケイジは心に誓った。
建物の扉は既に開いていた。電脳空間
コータの手腕は相変わらずというか、さらに磨きが掛かっていた。施設の中をスムーズに進めているのも彼が事前に入手していた施設内部の見取り図と監視カメラ等センサの位置の情報、そして現在進行形で行われているセキュリティの解除が大きい理由だ。リオンが遭遇者を片っ端から機能停止させていることもあり、ケイジが自身の役目を忘れてしまいそうになるほどに手が空いていた。勿論、すぐさま臨戦体勢に移れるように準備は整えてはいるが、ここまで来ると、自分が要らないのではないかと思えてくる。
「目的地まで後400メートル」
「だな。そろそろ本命の準備でもしておくか」
血を一滴も流さずに絶命している組員を一瞥しながら告げるリオンに同意しつつ、ケイジは自身の手持ちを確認。一番の氷砕き
「テンションはどうでも良いけど、役目は果たして」
「分かってる」
口ではそう答えたが実際問題無理な話だ。いつもの仕事
要するにケイジ自身も結局はまともな人間ではない、ということ。そして、それを自覚しているからこそ彼はさらにヤバイ人種として分類される。
その片鱗を見せる機会が訪れるのにはそうそう時間は掛からなかった。
「来た来た来た来た」
逸る気持ちを口にすることで抑えつつ、ケイジは 氷
目の前はT字路。右に行けばこの組織の首領
迷わず足を左に向けた直後、コータから通信が入る。
「ケイジ、聞け。巡回警戒
「不覚。騒がれる前に片付けてたつもりだった」
「なら、責任取ってもらうぜ。ここは任せた」
「えっ……チィ」
しかし、ケイジは足を止めることなく、というより寧ろ義足の出力を上げて加速。あまりの迷いのなさにリオンも思わず声が上擦ったが、即座に思考を切り換えてケイジの進行方向の反対側を見据える。
「やるけど……むかつく」
コータの通信通り、機関銃
evolve /lv:4
use /skill:"Eye of the Gorgon"
入力されたコマンドにより、リオンの義眼が一際妖しく明滅する。
部屋に入ったケイジはまずコータに通信を送って、入り口を閉ざさせる。
視界に入るのは中央に佇む目的の端末。事前の情報通りの、普通の任侠
「じゃ、早速やるか」
『おうよ、やっちゃおうぜ』
懐から通信用のケーブル二本と掌に収まる長方形状のデバイスを取り出す。ケーブルの片方は自分の首の後ろに開いた接続部
心と状況の準備を整え、ケイジは大型演算機
evolve /level:5
Jack_in
――Wellcome CyberSpace!!
青い光の線が三次元空間の三つの座標軸方向へと煌めきながら走る。それでもなぜか不思議と眩しく感じないのは見慣れた風景だからだろうか。
見慣れた、とういうのも不思議な言い回しだ。確かに目で見た情報は脳で処理はしていて、それを認識することもできている。だが、それはあくまで「肉体が処理した結果を精神が確認している」というかたちに近い。
一言で言うならば、今ケイジの精神は肉体を離れて電脳空間
目の前には長方形の半透明な壁が九枚展開され、真横で前世紀の工事用の重機を組み合わせて制作したような獅子
scan /type:servant
――Result
――name:Blue Meramon
――level:4
解析用のプログラムを通して、目標の全容を捉える。火の壁
(仕掛け
それでも手筈は変わらない。デバイスを通して、 大型演算機
gluttony_bullet
暴食の弾丸
黒い弾丸として電脳空間
弾丸が壁につき刺さると同時に壁から吹雪のような氷と風の波がなだれ込んでくる。マルウェアだとばれ、氷
初手は失敗。だが、想定内の結果。この一発目で蒼炎の壁の削除対象の検出手法を精査し、その結果を踏まえた新たな暗号
今度は蒼炎の壁をすんなり通り抜け、じきにポートが一つ解放。セキュリティに穴
(じゃ、頼むぞ)
(了解)
その裏口
内側に入ってしまえばこっちのものだ。
use /skill:"Loader Morning Star"
直後、重厚な破壊音を響かせながら、壁から鈍銀の鉄球が飛び出す。鉄球は繋がれた鎖がたわんだ後、反対側から再び叩きつける。
壁が消失するのに時間はほとんど掛からなかった。
飼い主が投げたボールをくわえた犬のように使い魔
メインの作業は終了。端末の記録
jackout
――Good Bye.
視界が暗転し、意識が肉体へと収束していく。