What is the cage? 1-3 | 秘蜜の置き場

秘蜜の置き場

ここは私が執筆したデジモンの二次創作小説置き場です。オリジナルデジモンなどオリジナル要素を多分に含みます。

 3.




 「 仁清ニンセイ組」。
 それが標的である 任侠ヤクザの名だ。
 戦後の不安定な状況の中で勢力を拡大し、地下都市のある一帯を縄張りシマとしてそれぞれ仕切るようになった組織が 任侠ヤクザ。領土拡大などを目的とした抗争は頻発するものの、身内にはそれなりの庇護も与えている。「 仁清ニンセイ組」はいくつかあるその 任侠ヤクザ組織の中でも新進気鋭の組織で、上層社会との繋がりも深い。
 本部は 地下都市アングラにしては整った佇まいで敷地も広い。見た目は実力者らしい豪勢な屋敷とは全く違い、むしろ工場のような無機質な印象が強く、外面よりも中身の質を優先する方針を体現しているようだった。
 建物の正面入り口には三つの人影がある。そのいずれもが普通の人間にはあり得ないほどの強靭な体格を持っていて、黒いスーツの袖からはあからさまに銃火器の銃口が覗いていた。
全機械義体フルボーグの守衛が三体か」
「関係ない」
 リオンはそう言って、静かに動きだす。不用意とも思えるほどに自然に、一定の速度で門へと近づく。
 当然、守衛は彼女に目をつけてじりじりと近づいてくる。浮かべているのは、迷子を見つけたような一見優しげな表情、或いは面倒臭そうに睨み付けるような表情。何れも、彼女を格下に見ている表情には違いない。
 そんな油断をしているようでは職務を全うできるはずもない。本人にしか分からない程度に不機嫌さを表に出しつつ、リオンは目の前の三体の鉄屑の処理を始める。

call Dracumon

use-skill "Eye of Nightmare"

 そのコマンドがリオンの電脳に入力されると同時に、彼女の人工義眼が赤く明滅。その妖しい光を視界に捉えた全機械義体フルボーグはすべて一瞬動きを止め、その後何事もなかったかのように元々立っていた位置へと戻っていった。全員が場から離れたところでリオンはゆっくりと歩を進める。もう彼女を止める者はいない。
「なるほど。これは心強い」
 ARヴィジョン化した電脳空間サイバースペースを通して、ケイジはリオンが――正確には彼女の使い魔サーヴァントが守衛に何をしたのかよく見ていた。
 青く輝く格子グリッドが折り重なる世界で、黒い仮面を着けた子供のようなその使い魔サーヴァントはケラケラ笑いながら、リオンの義眼から水色に光る球体で表現される守衛達の電脳へと飛んでいた。使い魔サーヴァントが取りついた電脳は何度か赤く明滅し、その度に球体から表皮のようなものが剥がれ、次第に中身を露にしていく。最初の半分ほどの大きさになったところで、簡略化した人形のようなものが姿を現した。それはセキュリティが解除され露になった電脳の カーネル。リオンの使い魔サーヴァントが直に触れた瞬間、それは彼女の瞳と同じ赤色に――彼女の支配下を示す色に染まってしまった。
 電脳を支配されることは、行動や精神を支配されると同義。黎明期には人の行動を縛らないなどと謳われていた電脳も結局はそんなものだった。

evolve /level:4

use /skill:"Black Mind"

use /skill:"Sticker Blade"

 リオンが通りがけに入力した二度目のコマンド。それにより使い魔サーヴァントの姿が変わる。
 子供のような未発達の人形から四足の雄々しい狼の姿に。紺と銀の美しい毛並みに、目を覆うような蝙蝠の羽。四本の足それぞれには小型のブレードが合計数千本ほど備わっていた。
 狼の身体が黒く染まり、安定したばかりの形状が崩れていく。同時にその存在そのものがリオンの電脳から消え、そもそもいなかったのではないかと錯覚してしまうほどに狼を認識できなくなる。
 再び見つけたとき、狼はその姿が少し小さくなった代わりに守衛の電脳のすべてに同時に存在していた。――狼は分裂し、リンクを貼っていた三つの守衛の電脳すべてに現れたのだ。
 そして、三匹の狼は同時に守衛のカーネルに向けて足のブレードを一斉発射。標的は瞬く間に滅多刺し。結果、守衛の電脳は焼き切られてその機能を停止する。もう二度と彼らが動くことはないだろう。
「確かに見た目はちんちくりんでも恐ろしいな」
「あなたも電脳を焼き切られたいの?」
「いや、遠慮しとく」
 両手を上げながらリオンの後をついていく。てっきり冗談に近いやり取りかと思っていたが、本人は真剣に嫌がっているのかもしれない。仲間に殺されては洒落にならないので口には気をつけようとケイジは心に誓った。
 建物の扉は既に開いていた。電脳空間サイバースペースを覗けば、防弾チョッキのような装備をした竜人が扉の上で待機している。久し振りに見るコータの使い魔サーヴァントだ。彼も自分の役目は果たしているようだ。




 コータの手腕は相変わらずというか、さらに磨きが掛かっていた。施設の中をスムーズに進めているのも彼が事前に入手していた施設内部の見取り図と監視カメラ等センサの位置の情報、そして現在進行形で行われているセキュリティの解除が大きい理由だ。リオンが遭遇者を片っ端から機能停止させていることもあり、ケイジが自身の役目を忘れてしまいそうになるほどに手が空いていた。勿論、すぐさま臨戦体勢に移れるように準備は整えてはいるが、ここまで来ると、自分が要らないのではないかと思えてくる。
「目的地まで後400メートル」
「だな。そろそろ本命の準備でもしておくか」
 血を一滴も流さずに絶命している組員を一瞥しながら告げるリオンに同意しつつ、ケイジは自身の手持ちを確認。一番の氷砕きアイスブレーカーである使い魔サーヴァントは楽しみだと言わんばかりに目を輝かせている。ケイジ自身、電脳麻薬ドラッグをやったかのように気分が高揚して仕方がない。
「テンションはどうでも良いけど、役目は果たして」
「分かってる」
 口ではそう答えたが実際問題無理な話だ。いつもの仕事ビズとは一味違うように感じるのは、旧友との共同戦線だからか。はたまた、たった三人で 任侠ヤクザ相手に喧嘩を売るような真似をしているからか。まともな損得勘定リスクアセスメントが出来ていれば普通はこんな 仕事ビズを受けたりはしない。
 要するにケイジ自身も結局はまともな人間ではない、ということ。そして、それを自覚しているからこそ彼はさらにヤバイ人種として分類される。
 その片鱗を見せる機会が訪れるのにはそうそう時間は掛からなかった。
「来た来た来た来た」
 逸る気持ちを口にすることで抑えつつ、ケイジはアイスを砕く手順を頭でまとめ、改良を加えては生脳の記憶領域メモリに保存する。
 目の前はT字路。右に行けばこの組織の首領ドンであるゴウトク・エイジの書斎へ。そして、左に行けば目的地の端末がある部屋へ。
 迷わず足を左に向けた直後、コータから通信が入る。
「ケイジ、聞け。巡回警戒ドローンが右の通路から来るぞ。それも違法改造されたのが大量に。ちょっと暴れすぎたな、リオン」
「不覚。騒がれる前に片付けてたつもりだった」
「なら、責任取ってもらうぜ。ここは任せた」
「えっ……チィ」
 しかし、ケイジは足を止めることなく、というより寧ろ義足の出力を上げて加速。あまりの迷いのなさにリオンも思わず声が上擦ったが、即座に思考を切り換えてケイジの進行方向の反対側を見据える。
「やるけど……むかつく」
 コータの通信通り、機関銃マシンガンを何挺も内蔵した自走式のロボットが狭い通路いっぱいに群れて迫ってきている。発砲しているものもあるが、ケイジも自分も射程外。自分が射程に入る頃には、逆転の一手が間に合うはず。

evolve /lv:4

use /skill:"Eye of the Gorgon"

 入力されたコマンドにより、リオンの義眼が一際妖しく明滅する。




 部屋に入ったケイジはまずコータに通信を送って、入り口を閉ざさせる。
 視界に入るのは中央に佇む目的の端末。事前の情報通りの、普通の任侠ヤクザが所持するとは思えない型番の 大型演算機メインフレーム。あからさますぎるとも言えるが、これ以外に考えられはしない。
「じゃ、早速やるか」
『おうよ、やっちゃおうぜ』
 懐から通信用のケーブル二本と掌に収まる長方形状のデバイスを取り出す。ケーブルの片方は自分の首の後ろに開いた接続部コネクタに接続。もう片方はデバイスに差し込んでもう一本のケーブルでそれと目標の端末を接続する。
 心と状況の準備を整え、ケイジは大型演算機メインフレームを起動。同時に、電脳にコマンドを入力しながら、さらに電脳を介して自分の意識を電脳空間サイバースペースへと没入ジャック・インさせる。

evolve /level:5

Jack_in

――Wellcome CyberSpace!!

 青い光の線が三次元空間の三つの座標軸方向へと煌めきながら走る。それでもなぜか不思議と眩しく感じないのは見慣れた風景だからだろうか。
 見慣れた、とういうのも不思議な言い回しだ。確かに目で見た情報は脳で処理はしていて、それを認識することもできている。だが、それはあくまで「肉体が処理した結果を精神が確認している」というかたちに近い。
 一言で言うならば、今ケイジの精神は肉体を離れて電脳空間サイバースペースを漂っている、ということになるのだろう。
 目の前には長方形の半透明な壁が九枚展開され、真横で前世紀の工事用の重機を組み合わせて制作したような獅子ライオンのマシーンが吼える。彼の使い魔サーヴァントがこれからの作業に適した形に進化という形式で変化した姿だ。

scan /type:servant

――Result

――name:Blue Meramon

――level:4


 解析用のプログラムを通して、目標の全容を捉える。火の壁ファイアウォールによく用いられるメラモン系使い魔サーヴァント の亜種。だが、それは通常ならばlevel_Ⅴで認定されるはず。しかし、その一つ上のレベルで認識されている、ということは間違いなく手を加えられていると見ていい。電脳空間サイバースペースでのイメージも巨大な蒼い炎の壁になっていて、その異常性がよく分かる。
仕掛けランるぞ)
 それでも手筈は変わらない。デバイスを通して、 大型演算機メインフレームにアクセス。裏口バックドア作成用のプログラムを送りつける。

gluttony_bullet

 暴食の弾丸グラトニーブレット
 黒い弾丸として電脳空間サイバースペースに投影されたそれは少しずつその姿を透過しながら、蒼炎の壁に突撃する。対アンチウィルスソフト用の暗号ステルス化処理だ。
 弾丸が壁につき刺さると同時に壁から吹雪のような氷と風の波がなだれ込んでくる。マルウェアだとばれ、アイスが発動したようだ。アイスを持った炎の壁という相反する組み合わせもこれを目の前にすれば受け入れざるを得ない。そんなことを考えながら、ケイジは前方に展開していた半透明の壁の一枚を身代わりにしのぐ。
 初手は失敗。だが、想定内の結果。この一発目で蒼炎の壁の削除対象の検出手法を精査し、その結果を踏まえた新たな暗号ステルス化処理が自動的に施された二発目をすぐさま発射。
 今度は蒼炎の壁をすんなり通り抜け、じきにポートが一つ解放。セキュリティにホールが開いて、 裏口バックドアが完成する。アイスが作動する気配もない。
(じゃ、頼むぞ)
(了解)
 その裏口バックドア目掛けて使い魔サーヴァントは飛び込む。勝手に開けたとは言え、一応正規のポートなのでアイスは作動しない。
 内側に入ってしまえばこっちのものだ。

use /skill:"Loader Morning Star"

 直後、重厚な破壊音を響かせながら、壁から鈍銀の鉄球が飛び出す。鉄球は繋がれた鎖がたわんだ後、反対側から再び叩きつける。
 壁が消失するのに時間はほとんど掛からなかった。
 飼い主が投げたボールをくわえた犬のように使い魔サーヴァントが走って戻ってくる。ただ、持っているのはボールではなく、目標であるコータがくすねられた機密情報。
 メインの作業は終了。端末の記録ログも改変済み。あとは脱出ジャックアウトするだけ。

jackout

――Good Bye.

 視界が暗転し、意識が肉体へと収束していく。