備えられた病室の
テレビや冷蔵庫は
ロビーにてプリペイドカードを買い
そこへとセットせねばならない

この時期には
冷蔵庫は不用で
また
それを必要とする物を
誰も差し入れては来ない

テレビはといえば
普段でも
さほど観ないから
必要はなく

Wi-Fiがあればと思えば
これもまた有料となり

幸いここには
スマホが使えるくらいは
電波が飛んで来るから
不自由はしない



観たいのは
生中継のスポーツくらいで
後日
それはどこかに残っている時代

それでも
消灯が9時なもんで
まあ
いつも寝ている時間だから
これもまた
不自由はなく

ただし
真夜中に
他の3人からの
あれこれで起こされてばかり

仕方なくも
耳栓をしてみれば
何も聞こえなくなると
今度は痛みが襲って来る

それでも
ラジカセを持ち込んで
イヤホンで聴いた
あの頃とは違い

今は
スマホひとつで
多くの用が足りるから
有り難い

そうそう
入院していることも知らず
時差を無視して連絡をして来る
LAのママには
もちろん 
一切の音を消しているから
後回しとなり
返事は逆の時差となる


そうだ
寺尾聰さんの
ルビーの指輪が流行った頃で
あのアルバムをカセットテープに
吹き込んでヘッドホンをし
何度も何度も聴いた思い出

まだ CDすらなく
何度も聴けば
そのカセットテープも
ベッドに巻き付いてしまった時代

テレビだって
備え付けなどなく
どうしてもな方たちは
小さな白黒のブラウン管の
アンテナを伸ばすやつで
なかなか取れない電波に
悪戦苦闘していた記憶

今はそれらのすべてが
手の中の小さな箱ひとつで
叶うから
凄い時代だ

すればここからまた
45年も経てば
世の中は
どれだけ変わっているのだろうか


それを確認出来ないことを

仕方なくも

思いながら…



あの頃の病室と違うのは
この4人部屋
24時間
カーテンが引かれたままで
他3人が
まったく見えない

あの頃は
昼間は
たぶんオープンだったから

そこそこ元氣ならば
話が出来たのに
今は
その声と音しか聞こえない

もちろん
入ってすぐにご挨拶したけれど
戻る言葉はさほどなく
それ以上は続かない

それは
外科病棟 独特なのか
それとも
そんな時代なのか

布1枚で仕切り
閉鎖された空間に
他人は 一切 立ち入ることを
許されないようだ

プライバシーと言えば
そのひと言で
完璧な理由付けとなるが…

まあ
そんな時代なのだろう


先ほど
担当の夜間看護師さんが来て
例の
反対側の厄介なオヤジさんに

明日
部屋を移る旨を
伝えていた

なんで? とまた
ぶっきら棒な言葉を吐くと

ここは
術後に治療中の方のフロアーで
明日 入院される方に
ここを空けねばならず


また
あなたは
明日から
5階のリハビリ棟へと… とのこと


はてさて

それはどうかな? と思うのは

毎日 インシュリンを打ち

沢山の薬を飲み

ベッドから出ることなく

ほぼ すべてを看護師任せなはずで…

一瞬
この部屋の誰かから
苦情があっての
移動かと思ったけれど

はてさて
本当のことは
分からない

なんせ
昨晩も大騒ぎをして
看護師さんと… な だったからね

まあ
これで明日からは
ここも平和になるだろうと
思ってみるが

これもまた
明日にならねば分からない

その後また
その看護師さんが来て
明日からの部屋は
ワンランク上の部屋となり
本当は差額が出ますが
今回はこちらの都合の為
それは無しとしますと

ただし
同じランクの部屋が空けば
そこへと移動して頂きますと

いずれにせよ
明日から
そのオヤジがいなくなれば… と
微笑んでみても

僕もまた
明後日には
ここを出る予定

せめて
あと3日ほど
早かったならなあ なんて
思ってみるが
すでに時遅し… 笑

ここは
カーテンだけで仕切られた
通常の4人部屋で
特に追加料金がない
リーズナブルな部屋

でも
この外科のフロアーには
追加料金での部屋もあり

家具で仕切られた4人部屋や
個室にもまた
いくつかの種類があって

1泊
プラス
3300円〜16500円までな



他のフロアーには
もっと豪華な部屋もあるらしいが
ここには
そこまでで

それでも
その個室は満室で
決して豪華ではないが
ちょっとしたホテル並みの料金

もちろん
個室ならば
他の方々の声を聞くこともなく
厄介なこともないけれども

そこまでしてとは
思わないのが
このポンコツ男
まだまだな… ようだ 笑

宿


さてすれば
昨今
インバウンドにより
急騰した観光地のホテル代

外国人をターゲットとして
利益を上げるのは分かるけれど

それにより
この国の人々が
出掛けるのを控えては
何もならない

いっそ
日本人と
外国人とを別料金とし
その価格差を
国が補助したら良いのにと思うが

これまた

届かない…



ここでの時間も
すでに6泊を過ごし

予定では
あと2泊ほどで
退院出来るらしい

それもまた
水曜日を目標にと言われ
ではと
日中
多めに歩いているから
なんとか間に合うと思ってみるが
今まだこの痛みゆえ
分からない

それでも
遅くとも来週中には
ここから出たい

病棟の持つ
この何とも言えない
淀んだ空氣感

そして
それが
停滞した雰囲氣は
時間の流れまでもを変えて
シャバに戻る氣持ちを
遮り始めた

歩け! との指示で
このフロアーを
何度も何周も 歩き回れば

ナースステーションから
直接見える
ガラス越しの
特別な部屋がいくつかあり

訊けば
重症患者専用だそうで
今朝もまた
面会時間ではないのに
多くの家族たちが集まり
そのベッドを囲んでいた

なんとも切ない現実と
なんとかならないのかと思う心とが
その一瞬に駆け巡るけれども
僕には
願うしか手立てがない


時間は容赦なくも進み
僕のように
こうして回復する者もあれば
手を尽くしても
止められない者もある

そんな現実を
目の当たりにしたこの1週間

なんだか
違う目が覚めたようで

生きとし生けるものとはと
ひとり勝手に
熱くなる…



ここにいる時間も

あと3日ほどとなり


さすれば

出来る限り

ここで素直に感じたことを

覚え書きのように

言葉に変換して

書き残して置こうと思う


ここは
面会制限が厳しく
子供は一切 入れない

カミさんは
毎日 14時に来て
いくつかの要件を済ますと
足早に帰って行く

そう
許されるのは
わずか15分間という
短い時間で

それでも
つい20分を越してしまうが
そのくらいは大丈夫なのだろう



そんなだから
さほど
面会の方々の声は聞こえず

聞こえていても
すぐになくなる

あの頃のように
ダラダラと
病室で長話をする風景はなく
それで良いと思っている

なんせ
ここは 外科病棟

ここは良くても
お隣は
24時間戦っている戦場で

時折
うめき声が聞こえて来るから
軽い言葉は出せない

そんなことを思うほど
どうやら
回復して来たようだ

ありがとう

昨日は
東京マラソンだったようで

病室から外を眺めてみれば
ちょっと暑いのでは? と
心配したけれど

1度くらい
参加してみたいと思っていたが
何度か出したそれは
当たることなく
この齢になってしまった

東京マラソン


参加費も年々
高騰し

ならば
せめて
ボランティアにでもと
思ってみるが

それも また…



車を封鎖して
東京の大通りを
堂々と歩ける

そう
走り切れるはずはなく
歩いてみたいのだ

それでは
時間は間に合うのかな?

きっともう
間に合うはずはなく
完走出来ることもなく

それでも
参加した! という
経験だけを残したいような

そんなことを
いつもより強く感じるのは
やはり
こうして横になっているからか


カーテンを開け

窓から見れば
今朝は週末とは違い
曇り空

予報を見れば
明日からは
なんと雪のマークまで付いている

確かに
3月には
多くの雪の記憶があって

これは
もしや
退院の日に重ならねば良いがと
願いながら…

春先の
なごり雪かと
口ずさんでみれば

あんなドラマのような経験はなく
道路が封鎖され
スキー場から帰れなかった
ドカ雪ばかりを思い出す



あの日の彼らは
元気だろうか

また
奥志賀で一緒に
滑りたいと…

ここ
外科の第四病棟には
なんとも見えない
重い空気感が漂っていて

優しく接してくれる
看護師さんたちがいなければ
きっと
耐え難い場所かもで

部屋番号は
401から始まり427まであり
ここは405号室

一周
うろうろと歩いてみれば
401号室からの
順番通りに番号が並んでいる

4という数字は
好きではないが
ここは4階

仕方なくも
そうせざるを得ないのだろう

それでも
いくつかの

勘繰る数字を省けば良いのに

遠慮なく
その数字は
並んで表示されている


氣にしなければとも思うが
ここは外科
毎日
命と戦っているフロアーだ

きっと僕ならば
この外科だけは
4階とはせず

また
4を混ぜた部屋番号も
無くしたことだろう

そんなことを
思ってみるが
誰が決めたのか
その方の心が分からない



さて

月曜日となり

またここも 動き始めた…


今朝のそれは
西城秀樹さんと
とある神社の社殿の中

いや
畳敷の部屋だったから
袖の辺りか

僕はきっと
古くからの友達なのだろう


これから
特別祈願をして頂くのを
ここでこうして待っていると
隣りのオヤジが
何か話し掛けて来た

そんな場面…

あんたら
どこねん?

僕らは
東京から…

こんな遠くまで
なして?

いや
僕は
広島の〇〇の出でして

ほー
そうやったか

ならば
ワシと同郷やな


何を頼みに
来はったん?

いえ
健康に
過ごせたらと…

それだけではないやろ
特別祈願やで…

ええ
そうなんですが
まずは健康にと…

そこで僕が
割って入った

オヤジさん
彼を知りませんか?

すると
ん? と
こちらを向き

おお
さいじよう…さん

そこで
僕が
シー と人差し指を立て
口を止めた

オヤジさんは
微笑んで
そうか
それは失礼したと…

すると
神主から呼ばれ
先にこの部屋から出て行った

僕らも
しばらくして呼ばれ
社殿へと続いた

さほど長くはない祈願を

集団で終え出れば
彼の姿がない

探し周ると
社務所前で横になっていて

おい
どうした? と声を掛けると

ああ
大丈夫だ
ちょっと
めまいがしただけだと
起きたけれど
顔色が悪い


車をここに持って来るから
待っててくれ

すると
あのオヤジさんが
車で すでにそこにいて
どうぞ こちらへと言う

では
遠慮なくと
肩を抱いてそこへと乗せる

ドアを閉め
ではと
走り出すと
なんと
浮かび上がり

高く高く
上空へと昇って行く

これは? と問うと

これは
天へのエレベーター

お迎えに来ましたと微笑んで
あのオヤジさんは
天使の姿となり

僕らの背中にも
すでに白い翼がある

さあこれで
苦痛から逃れ
楽になれたでしょう

ところで
キミは いかがするかね? と
問われ

僕は
出来ればもう少し
下界でと答えれば

その瞬間
あの神社の鳥居の前

一礼し
本殿へと歩いている

なんだっけ?

そうだ
手術前に
無事を願いに来たのだった

今朝もまた
取り留めのない感覚に
包まれながら
目が覚めた

しかし
なぜ
西城さんだったのか

分からない

西城


そうだ
いつか
自由が丘で
西城さんの曲を
熱唱する方のライブにと
お誘いされ

なんとなく調べてみれば
近くに
墓所があると知り

ではと
その前に
立ち寄ったことがある


秀樹


すると
すでにそこにいた
多くのファンたちに

どうぞ先にと
その場を開けて頂き
手を合わせると
いつもの気配がして

撮れば
玉響は姿を見せて…

なんてことがあった

そんな記憶が
脳裏に残っていたのかな

それとも…


自由が丘


また目を閉じると

なんと

あの日のライブ会場


僕は

なんと

あの星条旗柄の服を羽織り


オバさんたちが

手元から さまざまな光を放ちながら

スタンディングしている

熱い満席の会場


Y ! と手を挙げ 叫んでいる


僕が? と

思った瞬間

また目が覚めた…



今朝は

ほとんどを覚えていた



世の中は多分
そのすべてが奇跡かと思うのは

こうして
遥か太古から
1つたりとも途絶えることなく
ここへと
繋がっている ってこと

そう
わずか1ヶ所も
途切れていないから

ここに
僕がいる



そんなことは
すべてが偶然かと
思ってみるが

その偶然こそが
まさに奇跡で

特に
今こうして
命を預かる病棟にいると

涙が出るほど
何か
特別な感覚に包まれる

昨日までいた
病室が空き

さてと思えば
また違うどなたかが
そこへと入る

元気で
退院されたのか
それとも… なんて
勘繰ってもしまうほど

ここは
まさに
命の戦場

奇跡というものが
本当に起こせるのならば
今すぐ目の前の方々を
救いたい

でもそれは
残念ながら今の僕には
願うことしか出来ず

手を貸せない自分に
苛立ってもみるが

それもまた
自分の身体が
それどころではないことに
氣付き

熱くなった心が
一氣に冷める



神さまは
本当にいるのか? と
考えることが増えて

でもそこにしか
すがる場所がないことにも
氣付く

順調ならば
ここもあと3日

シャバへと
現実へと
戻らねばならないが

今またこの齢で
ここへと舞い戻ったことに
もしかすると
意味があったのかもしれない

ここにもいたのか
僕が連れて来たのか
玉響たちは
ここでもまた
ゆらりしているけれども…


手術の当日
雨天なのに
わざわざ 窓から見える場所へと
来てくれた孫たち

大きく手を振ってくれたから
僕もまた
病室から手を振り返した

でも
後から聞けば
その
僕にそっくりだそうな長男が

雨で
傘をさしてもいたし
良く見えなかったと
残念がっていたそうで

それならばと

今日もまた来てくれた

今度は僕も
窓にくっついて
大きく手を振れば
今度は良く見えたらしく

少しして
近くのショッピングセンターへと
向かって行った



すると
1時間ほどして連絡が入り
今 病室にいる? って

すれば
本日は検査もないし
いるよ! って返すと

これから帰るから
帰り際にまた
手を振りたいと言ってるそうで

なるほど
そういうところもまた
僕に似てるってことかなと
嬉しくなって
更に大きく手を振った



孫ってもんが
これほど可愛いとは
思わなかったけれど

きっと今の年代が
その可愛いピークで

そう
子供は
5歳までに
親孝行を終えるそうだから

きっと
今が
そんなことなのだろう


さてすれば

僕にそっくりだそうな孫息子

お前もまた 

この先

僕と同じような苦労をするのかと

思ってみるが

乗り換えられるよな…