歩く財布でよかったのよ | 世界の切れっ端

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〜ひっそりと生息中@TOKYO〜

バタバタで帰国してもう2週間経ってしまった。

さっそく毎朝、満員電車に揺られております。

 

今だけ期間限定の台東区民。

スカイツリー見るたび、ウズベキスタンのタシケントタワー思い出しちゃう。

 

一昨日の朝も満員の日比谷線に乗ってたら、ちょうど前の席の人が人形町駅で降りたので、

(ラッキー♪日比谷駅までちょっと寝れる!)

と思って、次に目を開けたら虎ノ門ヒルズにいたの、なんでなん?

車両のシートから催眠ガスでも出てるのか。。

 

***

 

自分の備忘録のためにも残しておこう。

 

日本ではLINEが主流だけど、中央アジアではTelegram(テレグラム)というメッセージアプリが主流。

一度送ったメッセージを送る側も受け取る側も、痕跡を残さず完全に削除することができるため、犯罪グループに使われていたことで、日本でもちょっと有名になったのが記憶に新しい。

(SimilarWebブログさんに「2023年世界で最も人気のあるメッセージングアプリ」という調査結果の記事があります)

 

私が登録していたウズベクの電話番号は後任が使うことになるし、私はあまりこのアプリを信用してないので(あくまで個人の意見です!)、日本に帰国したらアカウントを削除しようと思ってた。

なので、荷造りをしながら、親しい人には「Telegram消しちゃうからね〜今後はメールかWhatsAppでお願いね〜」なんてメッセージを送りまくっていた。

 

でも、わざと送らなかったの。

1年前に800ドルを貸した女性には。(詳細こちら

 

お金を貸した時点で返ってこないだろうと思ってた。

ウズベクの一般的な女性が、(外資企業に勤務してるとか、特別な資格を持っているような場合を除いて)頑張って得られる月収は大体200ドルくらい。

800ドルと言うと月収4ヶ月分。うーむ。

 

ハミッド・オリムジョン駅。

2022年冬、彼女とここで待ち合わせた。

 

周りに見られないよう、コソコソしながら現金800ドルを渡す。

「お母さんの脚が良くなるまでは世話をしないといけないけど、脚の手術が終わってお母さんが良くなったら、働きに出るの!そしたら絶対返すからね!それまでこれを持ってて。」

と言って、彼女の国内用パスポート(※ウズでは国外渡航用とは別にパスポートがあります)を担保として私に渡そうとした。

いやいや、これめちゃくちゃ必要なものでしょ?こんな大事なもの預かれないよ。

「だって信用して欲しいから。。そうだ、じゃあこうしよう」

と言って、その国内用パスポートのコピーに、私は●月●日にトーコさんから800ドルを借りました。2023年9月までに必ず返済します。とロシア語で書いて渡してくれた。

そうか、彼女ずっと年上だろうと思ってたけど、私と1つしか歳が違わないんだと、パスポートを見ながらぼんやり考えてた。

 

そして、時々メッセージが来た。

お母さんの手術の具合とか、足の状態とか。

 

はっきり言って、、

素人でも写真を見る限り、ちょっとこれは・・・という状態になっていたのは明らか。

本当に治るのかな?

 

まだ彼女は働きに行けてないだろうからと思って、私から連絡はしなかった。

取り立てるつもりもなかったし。

 

で、最後の最後までどうしようかと思った。

日本に帰国するんだけど、どう?その・・・お財布の状況とか?って書く?なんかそれやらしいよね。。

でも、「借りてるの忘れてた〜てへぺろ☆」ってされても嫌じゃない?

800ドルって、なぜか金持ちだろうと勝手な印象を持たれている外国人にとっても大きい額なんだよ!12万円だよ!おいそれと他人にあげられるような額じゃないって!

いやいや、彼女はそんなことする人じゃないよ。だから貸したんだしょ。別にいいじゃない、約束の2023年9月を過ぎても連絡が無いくらい、、きっとお母さんの世話で忙しいんだ。

いやでも「外国人だから金持ってんじゃね?」と思って私にお願いしに来たくらいなんだから、「踏み倒してもいいや」なんて思われてるかも?

いやいや、それでもいいじゃない。彼女の金欠状況はよくわかってるし。貸した時点で返ってこないことは覚悟してたし。

もうね、堂々巡り。

 

問題はお金のことじゃない。正直いいんだ、800ドルくらい。

「返さなくてもいいよ」って言ってあげれば彼女も自分も楽になるのに。

なんだろう、よくわからない見栄というのか意固地になっているのか、他人が信用できないからこそ、真に親切に出来ない自分に一番腹が立つ。

考えれば考えるほど、自分の中のよくわからないドロドロした汚い感情が出てくるので、ジョジョ第2部のカーズ様のごとく、考えるのをやめた。

 

***

 

いよいよ帰国の途に着くミニバスの中。

見送りに来てくれた同僚たちと一緒に、雨の中、揺られながら空港へ。

 

携帯が鳴る。メッセージだ。

「大家さんから聞いたの。あなた帰国するって本当?」

ほんとだよー。

「なんとか少しずつお金を返したいの。日本に振り込むから、日本の連絡先を教えて。テレグラムは使う?」

使わないよー。

「じゃあ日本の振込先を教えてくれたら、100ドルずつ振り込んでいくから、振込先を教えて欲しい」

「念の為に、私の電話番号はこのままだけど、私の娘の連絡先はXX−XXXX-XXXXで、それから・・・」

・・・。

えっどうしよう。別にそこまでして貰わなくてもいいんだけどな。

 

なんだろう、同僚達に見送られて保安検査を過ぎた後、急に一人になったら寂しくなって、ラウンジでブヒブヒ泣きながらビールでおにぎりを流し込んでたら、

お母さん、まだ大変でしょう?だから無理してお金は返さなくていいから。

と、素直に伝えられた。

 

そしたら、

「ううん、なんとかしてお金は絶対返すね。あなたのタシケントにいる同僚の人を介して返すようにする。」

「実はお母さん、全然良くならなくて、働きに出ても入ったお金は全部手術代になってしまって。だからずっと返せなくてごめんなさい。今度7回目の手術を受けることになったの。片方の脚はダメになったので、切断するしかなくて」

 

そして送られてきた、お母さんの写真。ああ、なんて痛々しいの。。

自分の母親がこんな姿になるなんて耐えられない。

 

「でもね、あの時、あなたがすぐ800ドルを貸してくれたから、もう片方の脚は切断せずに残ったの。本当に感謝してる。あなたに親切にしてくれたこと、一生忘れないわ」

 

と書いてくれた。

あ〜良かったんだ、私のなけなしの800ドル、役に立ったのね。

もうそれで充分だよ。

彼女ずっと大変だったんだ。なのにちょっとでも疑った自分はなんて馬鹿だったんだろう。

 

ペリザットさん、じゃあこうしよう、私はあなたにお金を永久に貸している。そういうことにしよう。ね。

「返さなくていいから」なんて簡単な言葉は憐れんでいるようで、逆にあなたのプライドを傷つけることになりそうだ。

 

そんなことを思いつつ、飛行機が動き出す中、7回目の手術の成功を祈るメッセージだけを急いで送って、携帯の電源を切った。

 

シートから催涙ガスでも出てるのかな。

涙が止まらないのに、眠気が・・・。

 

 

***

 

「あの〜、、お客さま、、、」

 

ふぁい?

 

「仁川で成田行きに乗り換えのご予定ですよね。

当機は出発時点で遅れが生じていたこともあり、お客さまがこの後乗られるご予定だった仁川発成田行きのフライトに間に合わず、搭乗できないことが確定しました

 

・・・。

 

 

涙引っ込んだわ。