“焼け”の進化
さて、すでに皆さんご存知の“焼け”と言う形質。これは平塚弘子さんの‘ドリームワンダー’が一番最初の品種です。
また、これは日本のパンジー・ビオラの育種の中でエポックメーキング的な品種です。
だって、世界中探してってこの形質を品種として昇華させたものは無いのですから。
本格的にこの品種の登場は2008年、私のブログでも紹介しています。
⇒http://ameblo.jp/pansy-tane/entry-10138353552.html
⇒http://ameblo.jp/pansy-tane/entry-10143203780.html
それから今年で5年目、ようやく次の段階が見えてきました。通常の形質の進化からすると若干遅めですね。
だってこの品種凄過ぎるんですから。パンジー・ビオラの品種で身がすくむ思いをしたのは初めてです。
皆さん、あまりにも凄過ぎて手が出せなかった(どう扱っていいか分からない)というのが正直なところでした。
でも、逃げていてもしょうがない。分からないなりにも交配を進め、その結果がようやく出来てていると言うのが現状です。
ドリームワンダー・ブルードリームワンダー・ローズ
ここからどう進化したのでしょうか?
雅夢(がむ)
ドリームワンダー・ブルー✕ペニー・レッドブロッチを交配したものです。
この“焼け”の性質は劣性。焼けのない品種と交配すると焼けは消えてしまいます。ところがそれ(F1)をセルフするとその後代に焼けが分離します。
後は焼けのものを拾い上げていく・・・。これを繰り返せば固定化が進みます。
上2つの個体は焼けは入っていませんが、小輪のブロッチ覆輪になっていますのでこれはこれで系統立てて選抜していきます。
潜在的に焼けの遺伝子はもっていますので、後代には焼けが出てくると考えられます。
狙いは上から3番目の様なもの。ブロッチが上弁に広がれば更にベストです。
上から4番目の個体はブロッチの周辺に焼けが入ったもの。選抜途中でいろいろなものが分離してきます。要はそれを拾うかどうか。
この時点では良く分かりませんので、もう1回代を重ねてみましょう。
ブルーのブロッチ焼け小輪を狙っていたのですが、くすんだ感じのローズレッドのブロッチ焼けが出現!いい色合いですねえ~。
これは親に‘ペニー・レッドブロッチ’を使っているからです。
このようにブルー×レッド(ローズ)の子供はブルー(パープル)になりますが、孫の代になるとでレッド(ローズ)が分離してきます。
子供(F1)で結果が出ないと「この組み合わせは失敗だ」とそれで終わりにしてしまいがちですが、いろいろ分離してくるのは孫(F2)の段階ですので可能な限り、孫まで見るようにしましょう。
金蕊(きんしべ)
ドリームワンダー・イエロー✕ツタンカーメンの交配です。
ツタンカーメンは笈川勝之さんの焼けの品種です。
ブログで紹介しています⇒http://ameblo.jp/pansy-tane/entry-10787862536.html
イエローの小ブロッチ焼けになっています。
パンジー・ビオラのおしべ・めしべはかなり小さなもので花の表面からは見えにくいものです。皆さんの意識を中心(小ブロッチの焼け)に集中させたくてこの名前を付けました。
酒吞(しゅてん)
ツタンカーメン✕雅夢の交配です。
雅夢は上記紹介の品種、代が更に進みました。
一番上の個体が花型、焼けの入り方などのバランスが見事ですね。
2番目はまたそれなりの良さがあります。
3番目は上2つと全く違った雰囲気の花。
最初の親として拾ったのは2番目に近い花型でしたが、次代でこの様に分離。この3個体の特徴を磨きあげていくと元は同じながら別の花になって行くことがお分かりになるでしょう。
最初の花からイメージしたのは「赤鬼」。
でも、これじゃまんまだなと訳して「レッドデビル」してみましたがしっくりいかない。
それで「赤鬼」でイメージを探っていたら、ふと思い出したのが昔読んだことのある「大江山の酒吞童子」の物語。
この「酒吞」という文字がぱっと目の前に浮かびました。そして花を見直せばまさしく「大酒飲んで赤ら顔の鬼」そのものじゃないですか!
これで名前が決まりです。今の時代、酒吞童子なんて知ってる人も少ないでしょうが、全ては私のイメージの世界。こんな感じで名前が決まります(笑)。
ちぢれ弁
北村恒明さんの育成品種です。1.5cm弱の小輪ビオラで花弁の上弁に焼けが入り縮れます。種を採っていたら側唇弁にも焼けが入るものが出現してきました。
これもブログで紹介⇒http://ameblo.jp/pansy-tane/entry-10871864557.html
平塚さん、笈川さんとはまた違った焼けの遺伝子です。
大ちぢれ
雅夢✕ちぢれ弁の交配です。
正直いいますと、どうなるか全く分からず焼けの遺伝子同士を交配したものです。
焼けは遺伝していますが、いろんな場所に出ていてかなり不規則。ん~難しい・・・。もう少し追いかけてヒントを得ようともいます。
“焼け”と言う形質。交配を進めることで遺伝性などは分かってきました。難解なものではまったくありません。
で、これから問われるのは花のデザインでしょう。この焼けをどのように花弁に配置するか、そのような形状と組み合わせるか。
これから花のデザイナーである育種家の腕が試されると思います。使いこなせれば、どこにもない本当に日本独自のパンジーが出来上がります。
ホント、いろんな意味で腕を磨いていかなければいけません。
精進、精進。勉強、勉強。年頭の誓いです(笑)。