メディア関係者向け:学名の「斜体」は,格好良いからやっているわけではないのです | 化石の日々

化石の日々

オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。

現生生物でも,古生物でも,新種がみつかると,学名がメディア上を踊ります。
例えば,こんな感じ↓

 Anomalocaris canadensis

今回は,そんな「学名」のお話。
最近増えてきた,個人のホームページで学名を記載している方にも,ぜひ,知っておいていただきたい基本の「キ」のお話です。

基本的に学名は,世界共通のものです。
18世紀の博物学者,カール・フォン・リンネが考案した「二命名法」というものが使われています。

これは,「属名」と「種小名」の二つで構成するものです。

誤解を恐れず,メディア関係者が学名を紹介するときのざっくり認識で考えれば,「属名」は私たちにとっての「姓(last name)」であり,「種小名」は「名(first name)」にあたります。
たとえば,

化石 太郎

という学名があったとして,これはざっくり認識でいえば,「化石さん家の太郎さん」という意味になります。「化石」が「属名」,「太郎」が種小名ですね。
ちなみに属名だけで話をする場合は,「化石」とだけ書く場合もあります。この場合,「化石」と書いてあっても,その意味は「化石さん家」ということを示唆しています。
(うーん,例がよくなかったか)。

もちろん“化石家”には,二郎さんも,三郎さんも,四美さんもいます。
こういう場合,化石二郎さんたちは,化石太郎さんとは「同属」ですが「同種」ではありません。
でも,「同属」なので,よく似た特徴をもっています。

ときどき,「sp.」という文字が,学名に使われることがあります。こんな感じです↓

化石 sp.

これは「~の一種」という意味合い。まだ細部まで特定できていなかったり,未発表種などに使われます。上の例でいくと「化石さん家の一員であることはわかるけれど,名前まではまだわからない」という感じです。

さて,これまで「化石 太郎」という例を使って説明をしてきましたが,実はこの書き方は誤りです m(_ _ )m

まず,日本文字で書かれた学名というのは,ありません。
基本的にはアルファベットを用い,ラテン語で表記します。

冒頭の Anomalocaris canadensis は,「奇妙な (anomois)」「エビ(caris)」という意味の属名と,「カナダ(canada)」という意味の種小名で構成されています。
ちなみに,属名の最初の文字だけが大文字で,以下,種小名も含めてすべて小文字というのもお約束事です。

で,さっきから Anomalocaris canadensis と斜体(イタリック)で書いていますが,これも学名の場合の決まり事です。斜体で書くべし,というのが国際的な決まりで,斜体で書けない状況であれば, Anomalocaris canadensis  のように下線をひくことになっています。
この理由は,アルファベット文化圏のことを考えれば至極当然で,たとえば,

This is a Anomalocaris canadensis . 

という文章があったとして,このどこが国際的に認められた学名なのかがわかりません。
こうすれば,わかりやすいですね↓

This is a Anomalocaris canadensis .

ちなみに,Anomalocaris 属であることが自明の場合,属名を頭文字だけで省略することがあります。こんな感じ↓

 A. canadensis 

みなさんご存知の,T. rex は, 属名のTyrannosaurus が省略されたものです。
論文では,たとえば何回も繰り返し出てくる学名の場合に,初出のみフルに書いて,その後は,上のように省略する場合があります。

実は記事で学名を紹介する場合,このアルファベットの併記というのはとても大切です。たとえば,Tyrannosaurus rex ですが,これをカタカナで表記して学名として紹介しようとすると,ぶれが生じます。

一般的なものは

ティラノサウルス・レックス

ですが,研究者によっては

ティラノサウルス・レックス

と呼ぶ場合もありますし,世代が上の方を中心に

ラノウルス・レックス

という場合もあります。すべて同じ動物を指しているのですが,「ティラノサウルス」と「チラノザウルス」が同じ恐竜の属を指しているものとは,パッと見にはわかりません。
それでも恐竜はまだ日本語の表記の統一が進んでいるように思えますが,ほかの古生物となると,まだまだの感があります。

でも,正式な学名を併記して,

チラノザウルス・レックス(Tyannosaurus rex 

と書けば,日本語のカタカナ表記がどうであれば,「ああ,あの恐竜ね」と一発でわかります。

webニュース等でも,ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)と書く例は多く見かけるようになりました。
でも,せっかく,アルファベットを併記しているのだから,もう一歩踏み込んで(斜体を導入して),

ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex

と表記できるようになると良いですね( ̄▽+ ̄*)
あ,ちなみに,さきほど出て来た「sp.」は,斜体にせず,このまま使います。

Anomalocaris sp.

みたいな感じ。これもお約束です。

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