近年,とくに恐竜に関する色の研究が報告されるようになりました。
ほんの数年前までは,恐竜をはじめとする古生物の色って,まさに想像の世界でした。
私は古巣で,古生物のイラスト復元の連載記事を約8年間担当していました。
この記事は,原稿と資料集め,編集は編集部の担当(私)が行い,イラストはプロの方にお願いします。
原稿もイラストも研究者のチェックを受けながら,修正を加えて,出稿というわけです。
古生物の研究者に取材をしたときに,「これ,色をどうしましょ?」とお聞きすると,大抵は,「お任せするよ」と返ってきました。
「色については想像に任せるしかない」というのが,その理由でした。
そのため,これまでの古生物の色というのは,近縁の動物だったり,似たような生態の現生種だったり,そうしたものを参考に色付けされてきました。
これに,イラストレーターごとに特有の色づけ法が加わります。
たとえば,頭部周辺だけ色を変えるとか,頭頂部にだけワンポイントの色をつけるとか。
まさにそれは「アート(芸術)」の世界だったわけです。
ところが近年,冒頭に書きましたように,とくに恐竜の色に関する研究が報告されています。
かわきりとなったのは,2010年1月の『nature』で発表された研究です。
「中華竜鳥」ともよばれる羽毛恐竜「シノサウロプテリクス(Sinosauropteryx)」の羽毛化石が走査型電子顕微鏡を使って丹念に調べられた結果,そこに2種類の色素の粒(メラノソーム)があることが確認されました。
メラノソームは,メラニン色素をつくる細胞小器官です。メラニン色素というのは,私たちヒトももっているもので,肌の色や髪の色に関与します。
メラノソームが残されていた,というのも驚きですが,このメラノソームを解析する事で,はじめて科学的な根拠をもつものとして,この恐竜の色が報告されました。
曰く,背筋から尾にかけては「赤みのあるオレンジ」。尾には「オレンジと白の縞模様」があったということです。このとき,ほかに鳥類の色もわかっています。
もちろん,全身の色がわかったわけではありませんが,これは大きな前進です。
この眼を疑ったのは,翌2月に,別の研究グループによってまた別の羽毛恐竜の色が報告されました。今度は『Scinece』でした。
このときも対象は,羽毛恐竜です。
名前は「アンキオルニス(Anchiornis)」で,やはりメラノソームが発見され,その解析が進められました。この研究では,全体的に灰色,頭部のトサカは赤みのある茶色,顔にはトサカと同じ色の斑点,四肢の翼は白ベースで,縁は黒い羽毛,などとかなり具体的にわかってきました。
さて,上にあげた2種類の恐竜は,いわゆる恐竜ファンの方でもなければ「?」かもしれません。しかし2012年になって,多くの方がご存知の古生物の色が判明しました。
「始祖鳥(Archaepteryx)」です。
このときも活躍したのはメラノソーム。このときは,少なくとも一部の羽根は黒かった,ということがわかりました。
この結果は1月に『nature communications』に発表されました。
nature→Science→natureときて,そして次の成果が発表されたのはScienceです。
両誌がねらっているのか,というぐらいものの見事に交互になっています。
今回,『Science』に発表されたのは「ミクロラプトル(Microraptor)」という,やはり羽毛恐竜。
そして,やはりメラノソームです。
このときは,羽毛が青みがかった黒色であることをつきとめただけではなく,その配列から光沢のある遊色(いわゆる玉虫色)をはなっていた事もわかりました。
メラノソーム,大活躍です。
さて,古生物の色に関しては,何も恐竜だけではありません。
…というのは,化石種の中にも,「回折格子」をもつものがみつかっているのです。
代表的なものは,バージェス頁岩動物群にあります。
ウィワクシア(Wiwaxia)とマレラ(Marrella),カナディア(Canadia)といった動物たちで,これらの動物に関しては,体のすべて,あるいは一部に回折格子があることが確認されています。
回折格子というのは,簡単にいえば,CDの裏側のような構造で,これによって虹色に輝きます。
なお,これらの動物について「?」と言う方は,ぜひ,こちらのページをご覧ください。
・The Burgess Shaleの「ウィワクシア」:3Dモデル。全身が虹色です。
・The Burgess Shaleの「マレラ」:3Dモデル。“角”が虹色です。
・The Burgess Shaleの「カナディア」:3Dモデル。“毛”に注目すると虹色になってます。
こうして,少し前までは,空想にすぎなかった古生物の色も,
少しずつサイエンスの裏付けをもって着色されるようになってきました。
イラストをえがく方にとっては,自由度が減ることになるのかもしれませんが,なおのこと,みなさんの腕にこれからも期待させていただきたいと思います。
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