メディア関係者様向け:「氷期」≠「氷河期」って知ってました? | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。

寒い冬ですね。
先日,床屋で「温暖化,温暖化って騒いでいるのに,冬は寒いんですよね」とのお話をいただきました。

この冬の寒さに関しては,「バレンツ海における海氷減少」が原因ではないか,というニュースがJAMSTECのプレスリリースで発表されています。
バレンツ海というのは,いわゆる北極海の一部で,スカンジナビア半島の北方にあります。これによって北極が温暖化し,かわってシベリアなどが寒冷化している,というお話。日本の冬の寒さは,シベリアから供給されるところ大ですので,この影響をもろに受けている,というわけです。
詳細は,JAMSTECのプレスリリースをご覧ください。

閑話休題。
こうして寒い日がつづいているからか,「氷期」とか「氷河期」という言葉をメディアでみかけるようになりました。
まあ,この二つの単語は,マンモスなどの古生物とも絡まるので,一年中,あちこちでみかけます。

さて,メディアの皆様。
この二つの単語を同じ意味で使っていませんか?

実はこの二つの単語は,ことなる意味をもっています。
ここで誤解を恐れずに,いつものようにざっくり認識を書くと,

氷河期:地球上に氷河のある時代
氷期 :氷河期のなかでとくに寒い時期。
    氷河期のなかでもそれほど寒くない「間氷期」とセット

ということになるでしょう。
現在の地球にはグリーンランドなどに氷河があるので,今は「氷河期」というわけですね。しかし,それほど寒くないので「間氷期」でもあるわけです。

これも使い分けをすることで,みえてくるものがあります。
それは,地球の歴史です。

過去,地球の歴史には,氷河が存在しない時代もあったとされます。
「温室地球」とか「無氷河期」とかよばれる時代で,たとえば恐竜時代で知られる白亜紀の少なくとも一時期がそうであったとみられています。

一般に「氷河期」と「氷期」を混同して使用する場合,「今は氷河期ではない」という立ち位置で話を展開することが多いように見受けます。
しかし,地球の歴史でいう「今は氷河期ではない」という時代は,「氷河のない」ことを意味します。それは現在よりもずっと温暖な時代なのです。

2004年に白亜紀の記事を書いたときのデータなので,もう古くなっているかもしれませんが,温室地球の時代であった白亜紀には,現在26度Cの海域が当時は33度Cだったという話もあります。

氷河の存在は地球気候にも密接に関連しています。地球の歴史というスケールで考えたとき,氷河があるかないかというのは,さまざまな局面で重要となってくるのです。

ちなみに「氷河時代」という言葉の場合,これは現在を含む地質時代「第四紀」をさすことが多いようです。つまり「氷河期」ですね。ただし,この言葉はかなり混同がみられ,「氷期」を「氷河時代」と呼ぶ例も数多く見かけます。

まあ,ともあれ,「氷河期と氷期はちがう」という認識をもっていただければと思います。


さて,これで「地球は氷河期へ突入か?」みたいなニュースは減るかな(;^_^A



【2017年2月15日追記】
昨日、執筆から5年を経たこの記事に、コメントを頂きました。
実はコメントを頂いた以外にも、いくつかご指摘を頂き、自分の著作では反映をさせていたのですが、こちらへの対応を忘れていました。
すみません。
ここに追記として、書いておきます。

氷河時代、氷期、間氷期、氷河期といった用語の中で、「氷河時代」「氷期」「氷河期」の用語の使い方には“流派”があるようです。
研究者のみなさんと話していても、人によってその使い分けが微妙に異なっていることがわかりました。
大きく分ければ、氷河時代=氷河期であったり、氷期=氷河期であったりします。

そのため、私は自分の著作では、「氷河期」という言葉の使用を停止しています。

それというのも、
「氷河時代」の中に「氷期」と「間氷期」がある
という書き方が、いちばん混同もなく、受け入れられている(と思う)からです。
「氷河」という言葉と「期」をあわせて使うから、混同を招くのではないかな、と。

大事な点は、報道において、現在が「間氷期」であるという認識で、地球の歴史の中では「寒い時期」であるという点だと思っています。
以上、コメント頂きましたので、情報更新がてら見解まで。