第3回警視庁警察官採用試験一次試験の合格通知が次々と届き始めた。


「心」たちとの交流が深まってからの初めての採用一次試験。


我が家に来た大勢の「心」たちが受験している。

私と妻もドキドキしながら、合否の連絡を待っていた。


約8ヶ月前、息子の一次試験合格通知が来た時の事を思い出した。

郵便屋さんのバイクが来るのをこれほど待った事はなかった。

きっと皆、同じように待っていたのだろう。


その時と同じような感覚で今回の連絡を待っていた。


「誰が一番に報告に来るかな?」

と話していた時、「あっ!来た!」

と妻が玄関に走って行った。


「一体誰が報告に来たのかな?合否はどうだったんだろう」とドキドキしていると、妻が満面の笑みで


「合格したって!」


「おお!良かった!誰だった?」


「加藤君だよ。お母さんも一緒にいらした」


「加藤君とお母さん…。」私は記憶を辿った。


「ああ!加藤君!お母さんも良かったですね」すぐに2人を思い出した。


初めての出会いは母親だった。

(母親の心      母親の心②     母の心、子の心)に登場


都内の一流大学を卒業した加藤君は警視庁警察官採用試験一次試験は高得点で受かるものの、いつも二次試験で落ちてしまっていたのだ。

高得点が取れる息子がなぜ最終合格がもらえないのか母親が途方に暮れて我が家に来たのだ。


警視庁警察官採用試験は、教養試験だけではなく、面接に重きを置いている事を母親が理解できるまで根気よく伝えた。


理解した母親は考え方を改めて、我が子と共に第3回試験に臨んだのだ。

そして勝ち取った一次試験合格。


「今回の合格は今までの合格とは全く違ったものでした。心の底から良かった!と思いました」と母親がしみじみと言った。


親子関係も以前よりも良くなったという。


「本当に良かったですね。二次試験まであとわずかだけど、対策は万全かな?」と私が言うや否や


「はい。今回は面接カードの書き方や志望動機、時事問題もしっかり対策しています。第3回は皆必死で受験してるので、僕も絶対に負けられません!」と力強く言い切った。


前回来た時とは別人のように変わっていて、覚悟を決めたのが伝わってくる。


「自信を持つのは良い事なのですが、自信を持ち過ぎているのではないかと少し心配です。言霊の大切さも分かってはいるのですが、子供の事は母親なので分かるんです」

と母親が思いを打ち明けた。

彼は驚いた表情で母親を見ている。


いつもなら「マイナスの言葉を言ってはいけない」と言う所だが、私も妻も母親が言う事に何故か納得出来、それを感じ取っていた。


上手く言えないが、敢えて言うなら

「聞く耳を持たない」だろう。


「誰の意見も聞かない。自分が正しい」という考えは時に裏目に出ることがあるという事を母親は身に染みて良く分かっているのだ。


ここに来て息子が今度はそうなってしまったか…。

しかし、もう潰す訳にはいかない。

意を決して彼に言った。


「君はどんな警察官になりたかったのかな?」


「犯罪被害者に寄り添える警察官です」


彼は鉄道警察隊を目指しているのだ。


「そうだったよね。じゃあ私が君に言わんとしている事は理解できるよね」


しばらく考えて「…はい」と彼は答えた。


「聞く耳を持たないものが、人には寄り添えませんね。大切な事を忘れる所でした」と素直に認めた。


「うん 良かった。後はハートに力を入れて頑張って。それともう一つ

警視庁への要望を聞かれたら、ありませんじゃなくて、要望も君なりに熱い思いを伝えるんだよ」


「はい!頑張ってきます」


「これで心配事がなくなりました。ありがとうございました」


「きっと良い事になりますよ。頑張ってね」


2人は深々と頭を下げて帰って行った。


少しの息子の心の変化を見逃す事がなかった母親の心。

これに気づいたおかげでしっかりと面接を受けられる事だろう。


母親の愛情の深さを知った。


次は誰が報告に来てくれるか楽しみだ。


つづく。。。