涙した母親は、私は自分の両親から

「世の中学力が全てだ」

「学力が高ければ、自分の希望する職業につけて将来安泰なのだ」と教えられてきたそうだ。

「私は同じ事を息子にも教えて来ました。大学までは順風満帆でしたそれが、警察官を志した途端に歯車が狂いだしてしまったんです。」

人間性を見られてるとは全く思っていなかったようだ。


「お母さん 息子さんは何故警察官を志したんですか?」

「理由は聞いていません。でも警視庁だし、公務員だから良いかと」

「・・・。」

 

「やっぱりそうか」

「公務員=安定」が理由なのか。


「まず息子さんに何故、警察官を志しているか理由を聞きましょう。きっと思いがあるはずですよ」

「その上で、あなたなら大丈夫。

絶対受かるから!」といつもプラスの方向へと行けるよう声をかけてあげて下さい。

「決して、人の倍勉強しないと受からない等とマイナスな言葉掛けはしないでくださいね」


「私は息子の事を何も理解せず、自分の事ばかり考えていたように思います。ダメな母親ですね…。」


「そんな事ないですよ。息子さんの事を真剣に思うからこそ、ここに来たんでしょ?」と珍しく妻が言葉をかけた。

「はい。息子の将来がどうなるか毎日不安で…。心ここに在らずで、何かにすがりたいと思っていたら、こちらにたどり着いたんです」

「そうでしたか。私達も寄り添う事しかできませんが、どんな形でもこうしてご縁がある方は良い結果を得て欲しいと思ってます。お母さんの気持ちは母親としてよくわかりますよ」

「ありがとうございます」母親の頬に涙がつたった。


こんな時は母親同士の方が共感できるんだ…。


「もう一度息子と向き合って、気持ちを聞いてみたいと思います」

「もう少しであの子をダメにするところでした」


「突然お邪魔して申し訳ありませんでした。ありがとうございました」

と深々と頭を下げた。


「大丈夫。きっと良い事になりますよ」


母親は安堵の表情で帰って行った。


その夜、近くの公園で妻とウオーキングをしながら、今日来た母親の事を思い出した。

「子どもの事を思う気持ちはみんな同じだね」と妻がしみじみ言った。


「そうだね。息子さんの気持ちも聞いてみたいな」と思わず口にした。


月が綺麗な夜だった。


つづく。。。