お山を始めて今年で3年目。
今まで二度、道を間違えたことがある。
1度目は、廃道探索で探索素人の言いなりになってしまった。
2度目は、おしゃべりに夢中になっていて分岐を見落とした。
自慢じゃないが、ぼっち山行で道を間違えたり迷ったりした事はこの時まで一度もない。
エビ小屋山、赤杭山、ズマド山のつづき
*完全ノンフィクション長編です。
おじいちゃんは山の怪なんかではなかった。
赤杭尾根からのバリエーションルート、ズマド山を南に下りると平場に出る。
ピンクテープもなにもない。
蔓が巻き付いた木が目立つ。
その中でも、巻き付いて絞め殺した挙句折って宙ぶらりん状態の木が痛々しかった…
薄い薄い踏み跡を辿っていた。
ルートは合ってた。
なのに、突然!
本当に突然、足元がふかふかすること、つまり人があまり歩いてないため地面が固まってないことに違和感を覚えた。
バリエーションルートなんてそんなものなのになぜか不安になった。
念のためスマホのGPSを確認した。
画面が表示されない。
なんだか自信がない。
現在地を確認したかった。
紙地図を広げて確認していたら、さっきまでお話してたおじいちゃんが全然違う方向へ姿を消した。
あれ?トイレかな?なんて思ってたけど、いつまで経っても戻ってくる気配がない。
「すみませ〜ん!大丈夫ですか〜?」何度叫んでも返答がない。
え?
転んで倒れてたりして?
なぜかここでGPSを切ってしまった。
表示されないし、もう下界に近いし…
おじいちゃん、先に行ってしまったとしても、完全に方向が真逆。
「そっちじゃない」って間違えてることを教えてあげなきゃ!!
心配になって叫びながらおじいちゃんの後を追った。
「大丈夫ですか〜?」
「どこにいますか〜?」
ん?なんかおかしい…
足元のふかふか度がどんどん増して行く。
ふと足が止まった。
おじいちゃんは実在してない!!
このまま追いかけて行ったら遭難してしまう。
この先は崖で、足を滑らせ滑落死ってパターンかも…
山の怪?
無念の死を遂げた登山者の霊?
心臓がバクバクした。
落ち着け〜落ち着け〜
自分に言い聞かせる 。
道迷いの基本、わかるところまで戻る!
そうだよ、ズマド山まで戻らなきゃ!!
さっきいた平場までは戻った。
もう一度、紙地図を広げる。
パニックで地図が読めなくなっていた。
自分の心音が耳のすぐそばで聞こえる。
GPSを再起動させるが、やっぱりなにも表示されない。
せめて方向を確認しようとしたら、スマホ画面の時刻が目に入った。
16:00を過ぎようとしていた…
ヤバい、迷ってる場合じゃない!
早く下山しなきゃ暗くなる!!
ここでMIMIZUは大パニックに陥る。
息が切れるほど周辺を歩き回って歩き回って道を探した。
早く下山しなきゃ遭難してしまう!
遭難!遭難!遭難!遭難!遭難!遭難!
「遭難」の2文字が脳内を占領し始めていた。
この時はもうズマド山に戻る選択肢は脳内になかった…
何度も同じ斜面を覗き込んでいると、遠く下にピンクテープが見えたので夢中で降りた。
ストック代わりに使ったであろう真っ直ぐな木の枝が、不自然に立てかけてあるのも見えてホッとした。
ここは人が通ってる!
どんどん降りた。
転がるように降りた。
そして、頭をあげた先にピンクテープはなかった。
木の枝が立て掛けてあるように見えたのも勘違いだった。
ますます焦る…
なんで?
さっきはあんなにはっきり見えたピンクテープが、なんでなくなってるの?
怖くなった。
冷静になれないことが重なり過ぎてる…
◆急にスマホのGPS使えなくなった。
◆おじいちゃんが消えた。
◆見えてたはずのピンクテープがなくなった。
◆時間が16時を過ぎていた。
心拍数も呼吸も上がり、じわっと変な汗が出てくる。
メルの遺骨が入ってるネックレスを握って
道無き道を進んだ。
歩き始めると、今度は声が聞こえてくる!!
足を止めると声がしない!
枯葉を踏む音で、なんて言ってるのかわからないけど確かに聞こえる。
見張られているかのようなタイミングで、足を踏み出すと声がするのだ!
山の怪だ!
間違いない!
かすかに聞こえる…
おーい!
おーい!
ずっと「おーい!」って言ってる。
山の怪がMIMIZUを呼び止めてるんだ。
振り向いたらダメ!
返事しちゃダメ!
返事をしたら連れて行かれちゃう!
聞こえない聞こえない!
気のせい気のせい!
ズマドズマドズマド…
ズマド山は忌み山だったんだ…
頭窓頭窓…頭に窓が開くってことか。
早く降りなきゃ…
ネックレスを強く強く握って進んだ。
しかし、2、3歩で足が止まった。
…ん?
もしかして、ひょっとして、さっきのおじいちゃん?
そうだよ!おじいちゃんかも知れない。
でも、山の怪かも知れない。
どっちだ?
どっちなんだ?
ぉーぃ…小さく返事をしてみた。
おーい!
おーい!
おーい!
おーい!
気がつくとMIMIZUは何度も叫びながら、ほぼ四つん這いで降りて来た斜面を登り返していた。
斜面の上におじいちゃんの姿が見えた。
おじいちゃんにもMIMIZUが見えたようで斜面を降りて来てくれた。
おじいちゃん
「ズマド山に戻って来ると思って待ってたんだけど、なんでこんなとこにいるんだい?こっちに道があるのかい?」
MIMIZU
「へ?」
おじいちゃんは周辺を確認しながら北東側から頭窓山北峰とズマド山の間からズマド山山頂に戻ってたらしい。
おじいちゃんと「道がふかふかで不明瞭ですね〜」
なんて話してたからおじいちゃんは道迷いの基本でズマド山に戻っていただけだった。
とにかく、ここで正気を戻したMIMIZU。
もう一度紙地図を出し、ダメ元でスマホのGPSを起動させた。
どどどどういうこと?
GPSは通常通り現在地を示してる。
え?(; ̄◇ ̄)
放心状態のMIMIZUに、おじいちゃんは太陽の方向を指し「あっちが西だから反対側に行かなきゃならないんだよな〜」
「そそ、そうなんですよね〜(汗)
じゃあ登り返すのもツライんでトラバースしましょう、100mぐらいでそれなりの道にぶつかるはずですね!」
GPSをスタートさせた。
おじいちゃんと再会したのがS地点、MIMIZUは赤矢印の方向に降りていた。
うまく行けば廃道にぶつかっていたが、
一歩間違えると崖に進んでいたことも考えられる。
山の神だった。
道中、おじいちゃんにさっきまでの話をした。
すると
「化かされたのかもな〜!はっはっは(笑)」と笑っていた。
それと「GPSに頼りきりじゃダメだな」とも言っていた。
ごもっとも…
無事下山し、川井駅から帰路に着いた。
今回の道迷い、すべてはMIMIZUの力量不足から来る心理状態が招いた結果である。
道迷いの基本は、わかるところまで戻る!
その前に冷静になる!
これが超超超重要だった。
じゃあ、どうしたら冷静になったのか…
一旦腰を下ろせば良かったんだ!
腰を下ろして水分補給やモグモグタイムを取っていたらきっと冷静になれたはず。
焦ってひたすら歩き回って道を探そうとしたのが良くなかった。
GPSが表示されなかったのは通信速度制限のせいか、樹林帯だったので電波が届かなかったからと推測する。
経験や力量が足りないから不安になる、自信がなくなる。
そこから〝山の怪〟が生まれるのではないか。
人の中に棲んでる恐怖心が
〝山の怪の正体〟なのかも知れない。
終
ちなみに赤杭山あたりから一緒だったおじいちゃんは新品の靴とザックだった。タグが付いてたままだったから若干痴呆が入ってる方なのでは?と勝手に思っていた。
年齢は75歳で山仲間はみんな亡くなったらしい。
奥多摩は10年ぶりだと言っていた。
追記
【5年後道迷い検証に行った】